あしたのキミも愛してる/Will.A.Spencer
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~Claude Side~
黄金のカーペットと見まがうような鮮やかさだった落ち葉が朽ちて、城の庭は、褐色に染め変わっていた。
さらに夕べの雨が朽ち葉をしめらせ、地に這うごとく貼りついているせいで、早朝の庭は見苦しいことこの上ない。
…だから、昼のうちに処分するようにと言っておいたのに。
私は胸ポケットの手帳を取り出して、朝のミーティングで告げた指示事項を指先でたどる。
昨日、落ち葉の回収を指示したのは確かだった。
明日になれば、下品な色をしたキノコのひとつやふたつが葉の隙間から生え出して、目に付くことになるだろう。
我が主、ウィル様の視界を汚した責めを、メイド長には負わせねばなるまい。
ウィル様は、執務室の窓から庭を眺めておられた。
椅子に腰掛け、ゆったりと足を組まれる後姿が、ひと月前よりさらに細くなられたように感じる。
天井に届くまでの窓から見える空は鬱々とし、昨夜に続く雨を今にも落としてきそうな曇天だった。
身じろぎひとつしないウィル様の視線の先を追えば、窓の向こう、しな垂れる枝先に残る…最後の、一葉。
手のひらほどの葉は、冬支度を始めた樹に残る一枚だった。
かろうじて枝についているとはいえ葉脈をあらわにし、黒く在り枯れる姿は、地に落ちた葉と変わらないとも言えよう。
しかしその葉には、冬の訪れが間近に迫るなか秋という季節をたった一枚で守りきろうとするような、張り詰めた美しさがあった。
鮮やかな緑の季節であるならば、生い茂る葉の一枚にすぎないこの葉に魅かれはしなかっただろう。
命尽きる間際だからこその気迫が凛として、見る者のまなざしを捉え、放さない。
もしウィル様が最後の一葉に自らを重ねておられるのならば今すぐに、キャンバス無き場所であろうが葉の絵を描こうかと思ったまさにそのとき。
ザザッと音をたてて、一陣の風が吹き巻いた。
枯れ葉は激しく揺さぶられると同時に、枝の先からもぎ取られ、宙に舞う。
強風に連れ去られた葉は、ウィル様の見上げる窓の前で数回、右に左にと翻弄されたあげく、崩れるように砕けた。
「……っ」
ウィル様の御前で思わず声をあげそうになり、私はとっさに唇を噛む。
背を向けたウィル様の表情は伺えない。
窓の外には静寂が戻り、ただ、葉をなくした尖る枝先が空を突き刺し、白く光った。
やがてウィル様はゆっくりと椅子を回して執務机に両肘をつくと、組んだ指先に顎を乗せた。
「……Princessは、うなずいただけだった。なぜ自分を置いて、先に逝くんだと……泣いて責められたほうが、まだ楽だったかもしれない。でも、そう思うのも俺の甘えだな」
「ウィル様。あまりご自分を追い詰められますと、お身体に障ります。私は、Princess様らしいと思います。涙を流せば、ウィル様のお心を乱すことになると、気持ちを押し殺してのことでしょう」
「ああ。わかっている。だからこそ……つらい」
ウィル様は深いため息をついて、瞳を閉じた。
黄金のカーペットと見まがうような鮮やかさだった落ち葉が朽ちて、城の庭は、褐色に染め変わっていた。
さらに夕べの雨が朽ち葉をしめらせ、地に這うごとく貼りついているせいで、早朝の庭は見苦しいことこの上ない。
…だから、昼のうちに処分するようにと言っておいたのに。
私は胸ポケットの手帳を取り出して、朝のミーティングで告げた指示事項を指先でたどる。
昨日、落ち葉の回収を指示したのは確かだった。
明日になれば、下品な色をしたキノコのひとつやふたつが葉の隙間から生え出して、目に付くことになるだろう。
我が主、ウィル様の視界を汚した責めを、メイド長には負わせねばなるまい。
ウィル様は、執務室の窓から庭を眺めておられた。
椅子に腰掛け、ゆったりと足を組まれる後姿が、ひと月前よりさらに細くなられたように感じる。
天井に届くまでの窓から見える空は鬱々とし、昨夜に続く雨を今にも落としてきそうな曇天だった。
身じろぎひとつしないウィル様の視線の先を追えば、窓の向こう、しな垂れる枝先に残る…最後の、一葉。
手のひらほどの葉は、冬支度を始めた樹に残る一枚だった。
かろうじて枝についているとはいえ葉脈をあらわにし、黒く在り枯れる姿は、地に落ちた葉と変わらないとも言えよう。
しかしその葉には、冬の訪れが間近に迫るなか秋という季節をたった一枚で守りきろうとするような、張り詰めた美しさがあった。
鮮やかな緑の季節であるならば、生い茂る葉の一枚にすぎないこの葉に魅かれはしなかっただろう。
命尽きる間際だからこその気迫が凛として、見る者のまなざしを捉え、放さない。
もしウィル様が最後の一葉に自らを重ねておられるのならば今すぐに、キャンバス無き場所であろうが葉の絵を描こうかと思ったまさにそのとき。
ザザッと音をたてて、一陣の風が吹き巻いた。
枯れ葉は激しく揺さぶられると同時に、枝の先からもぎ取られ、宙に舞う。
強風に連れ去られた葉は、ウィル様の見上げる窓の前で数回、右に左にと翻弄されたあげく、崩れるように砕けた。
「……っ」
ウィル様の御前で思わず声をあげそうになり、私はとっさに唇を噛む。
背を向けたウィル様の表情は伺えない。
窓の外には静寂が戻り、ただ、葉をなくした尖る枝先が空を突き刺し、白く光った。
やがてウィル様はゆっくりと椅子を回して執務机に両肘をつくと、組んだ指先に顎を乗せた。
「……Princessは、うなずいただけだった。なぜ自分を置いて、先に逝くんだと……泣いて責められたほうが、まだ楽だったかもしれない。でも、そう思うのも俺の甘えだな」
「ウィル様。あまりご自分を追い詰められますと、お身体に障ります。私は、Princess様らしいと思います。涙を流せば、ウィル様のお心を乱すことになると、気持ちを押し殺してのことでしょう」
「ああ。わかっている。だからこそ……つらい」
ウィル様は深いため息をついて、瞳を閉じた。
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