ジュノーの祝福/Claude
プリンセスの名前を設定できます⇒
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クロードの声音は、いつもより遥かに低い。
(クロードさん、すごく怒ってる……)
わかるだけに、傍らのPrincessは気が気ではなかった。
「母とPrincessに謝りなさい。私に謝れとは言いません。私にも落ち度はありますから。でも、母とPrincessにはない。母とPrincessに謝りなさい」
もういいから、とクロードの袖を引くPrincessを、彼は見向きもしない。
式を終えたあと館に戻ってくると、リビングではすでにクロードの母とナンシーが無言で向かいあっていた。
唇をかんで、いく筋もの涙を流すナンシーにも、クロードは容赦がなかった。
「ウィル様が助けてくださったが、それで貴女がやったことがなかったことになるわけではない。謝りなさい」
怒っているはずなのに何の感情も読み取れないクロードの瞳は、かえって威圧感がある。
ナンシーは膝に額がつくほどに腰をおって、頭を下げた。
「申し訳ありません、クロード様、奥様、Princess様……私、自分でもどうしてあんなことをしてしまったのか……」
震える細い声。
愛した人に、結果、責められるナンシーが哀れに思えてならなかった。
自らのとった行動に、彼女自身も困惑しているように見えた。
……しかたない。
Princessは心の底からそう思えた。
もうとっくにナンシーを許していた。
深い愛は、いつだって狂気と紙一重なのだ。
「ナンシー、ここを出ておいき。今日でお前は解雇だ」
黙って聞いていたクロードの母親が、厳かに口をひらいた。
ナンシーが、えっ、と小さく叫んで折っていた腰を跳ね上げる。
彼女の驚いた気配は、目の不自由な母にも感じ取れたのだろう。
「何年も私とふたりきりでこの館で過ごして……それが結果として、お前のためにならなかったのだろうね。ナンシー、お前はまだ若い。たくさんの人と出会って、もっと広い世界を見知ったほうがいい。わかったね? これは命令だよ」
老いていても有無を言わせない迫力があった。
同時に、ただの罰ではない、ナンシーへの想いも感じられた。
ナンシーの、クロードへの思慕を見抜いていたからこその解雇だった。
母はそのままクロードとPrincessに顔を向けた。
「お前たちも……私の心配はいらない。なに、60年以上も住んだ家さ、ひとりだって何がどこにあるかわかる」
クロードとPrincessは顔を見合わせた。
でも……とPrincessが眉を寄せる。
慣れた家とはいえ、老いた母のひとり暮らしを簡単に承諾はできなかった。
「すまない。何回か呼び鈴を鳴らしたのだが」
涼やかな声に振り向くと、開け放たれたリビングの扉の向こうにウィルが立っている。
「ウィル様!」
クロードが、手のひらを胸において、すばやくこうべを垂れた。
「このたびは、お心遣いを賜り、ありがとうございました。いつ、こちらへ」
「ついさっきだ。俺も何か力になれないかと急いだのだが……残念ながら、式には間に合わなかった。素晴らしい式だったと報告を受けている。よかった。結婚おめでとう」
「ウィル王子、ご無沙汰しております。今日は本当にありがとうございました」
クロードとPrincessに交互に視線を向けるウィルに、Princessが深々と頭を下げた。
「久しぶり、だね。キミのドレス姿はさぞ美しかったのだろうな。教会で祝えなかったのが悔やまれる」
そんな、とPrincessはうつむいた。
かつての恋人が、門出を祝ってくれたことが素直に嬉しかった。
クロードの母はといえば、いたく恐縮して、小さい背中をますます丸めている。
「ウィル様……ウィル様がじきじきにお出ましになって、このような手配をしてくださって……御礼の言葉もございません」
緊張に肩を震わせる母の背中を、クロードがなでた。
「いや。俺は大切な友人たちのために、当たり前のことをしただけ」
くすりとウィルが口角を上げた。
その彼の表情が真剣なものに変わって、うなだれたままのナンシーを見つめる。
憐憫を含んだ切なげな視線だった。
「立ち聞きをして申し訳なかったが、式が挙げられなくなった、たいていの事情は想像がついた。それで? 母君がひとりでここに残ると?」
ウィルが宙を仰いだ。あまりよくないな、とつぶやく。
しばしの沈黙があった。
「この町とフィリップ城のちょうど中間くらいのところに、使っていない俺の屋敷がある。そこをクロード、お前にやってもいい。メイドも執事も、必要なだけつける。屋敷はPrincessと母君が暮らして……今後家族が増えたとしてもなお充分な広さだろう」
ウィルの突然の申し出に、皆がとまどった。
すぐには彼の意図するところがわからない。
「しかしウィル様。さすがにそこまでしていただくわけには……それに、その町からではノーブルミッシェル城にも通えません。せっかくではございますが……」
クロードが首を振った。
「いつまでノーブル様に仕えるつもりだ」
ウィルが、ぴしゃりと射抜くブルーの瞳をクロードに向けた。
「は?」
「……迷惑だ」
「……?」
「聞こえなかったか。お前がいなくなって、俺は迷惑していると言っている」
「ウィル様……」
Princessはクロードの手をとってきゅっと握った。
彼の指先が熱い。
「お前は俺の執事……だろ?」
クロードとPrincessは、同時に顔を向けて視線を絡ませた。
言葉は要らなかった。
クロードはフィリップ王室に仕えるために執事になったのだ。
Princessを思いやってフィリップ王家を離れたが、ウィルへの忠誠心が失われていない事実は、だれよりも近くでクロードを見てきたからわかっている。
ゼンに次ぐ地位と名誉を得てノーブルに仕えることと、ウィルのそばに控えること。
両方を示されたとき、クロードがどちらを望むのか。
Princessはもちろん、わかっていた。
ウィルと、クロードと自分との間に起こったすべての出来事はもう、過去だった。
誰にも、何にも、遠慮はいらない。
Princessは、そっとうなずいた。
クロードの切れ長の瞳が喜びに細められる。
クロードは、ウィルに向き直って、胸に手をあて腰を折った。
「はい。仰せのとおりにございます、ウィル様」
(クロードさん、すごく怒ってる……)
わかるだけに、傍らのPrincessは気が気ではなかった。
「母とPrincessに謝りなさい。私に謝れとは言いません。私にも落ち度はありますから。でも、母とPrincessにはない。母とPrincessに謝りなさい」
もういいから、とクロードの袖を引くPrincessを、彼は見向きもしない。
式を終えたあと館に戻ってくると、リビングではすでにクロードの母とナンシーが無言で向かいあっていた。
唇をかんで、いく筋もの涙を流すナンシーにも、クロードは容赦がなかった。
「ウィル様が助けてくださったが、それで貴女がやったことがなかったことになるわけではない。謝りなさい」
怒っているはずなのに何の感情も読み取れないクロードの瞳は、かえって威圧感がある。
ナンシーは膝に額がつくほどに腰をおって、頭を下げた。
「申し訳ありません、クロード様、奥様、Princess様……私、自分でもどうしてあんなことをしてしまったのか……」
震える細い声。
愛した人に、結果、責められるナンシーが哀れに思えてならなかった。
自らのとった行動に、彼女自身も困惑しているように見えた。
……しかたない。
Princessは心の底からそう思えた。
もうとっくにナンシーを許していた。
深い愛は、いつだって狂気と紙一重なのだ。
「ナンシー、ここを出ておいき。今日でお前は解雇だ」
黙って聞いていたクロードの母親が、厳かに口をひらいた。
ナンシーが、えっ、と小さく叫んで折っていた腰を跳ね上げる。
彼女の驚いた気配は、目の不自由な母にも感じ取れたのだろう。
「何年も私とふたりきりでこの館で過ごして……それが結果として、お前のためにならなかったのだろうね。ナンシー、お前はまだ若い。たくさんの人と出会って、もっと広い世界を見知ったほうがいい。わかったね? これは命令だよ」
老いていても有無を言わせない迫力があった。
同時に、ただの罰ではない、ナンシーへの想いも感じられた。
ナンシーの、クロードへの思慕を見抜いていたからこその解雇だった。
母はそのままクロードとPrincessに顔を向けた。
「お前たちも……私の心配はいらない。なに、60年以上も住んだ家さ、ひとりだって何がどこにあるかわかる」
クロードとPrincessは顔を見合わせた。
でも……とPrincessが眉を寄せる。
慣れた家とはいえ、老いた母のひとり暮らしを簡単に承諾はできなかった。
「すまない。何回か呼び鈴を鳴らしたのだが」
涼やかな声に振り向くと、開け放たれたリビングの扉の向こうにウィルが立っている。
「ウィル様!」
クロードが、手のひらを胸において、すばやくこうべを垂れた。
「このたびは、お心遣いを賜り、ありがとうございました。いつ、こちらへ」
「ついさっきだ。俺も何か力になれないかと急いだのだが……残念ながら、式には間に合わなかった。素晴らしい式だったと報告を受けている。よかった。結婚おめでとう」
「ウィル王子、ご無沙汰しております。今日は本当にありがとうございました」
クロードとPrincessに交互に視線を向けるウィルに、Princessが深々と頭を下げた。
「久しぶり、だね。キミのドレス姿はさぞ美しかったのだろうな。教会で祝えなかったのが悔やまれる」
そんな、とPrincessはうつむいた。
かつての恋人が、門出を祝ってくれたことが素直に嬉しかった。
クロードの母はといえば、いたく恐縮して、小さい背中をますます丸めている。
「ウィル様……ウィル様がじきじきにお出ましになって、このような手配をしてくださって……御礼の言葉もございません」
緊張に肩を震わせる母の背中を、クロードがなでた。
「いや。俺は大切な友人たちのために、当たり前のことをしただけ」
くすりとウィルが口角を上げた。
その彼の表情が真剣なものに変わって、うなだれたままのナンシーを見つめる。
憐憫を含んだ切なげな視線だった。
「立ち聞きをして申し訳なかったが、式が挙げられなくなった、たいていの事情は想像がついた。それで? 母君がひとりでここに残ると?」
ウィルが宙を仰いだ。あまりよくないな、とつぶやく。
しばしの沈黙があった。
「この町とフィリップ城のちょうど中間くらいのところに、使っていない俺の屋敷がある。そこをクロード、お前にやってもいい。メイドも執事も、必要なだけつける。屋敷はPrincessと母君が暮らして……今後家族が増えたとしてもなお充分な広さだろう」
ウィルの突然の申し出に、皆がとまどった。
すぐには彼の意図するところがわからない。
「しかしウィル様。さすがにそこまでしていただくわけには……それに、その町からではノーブルミッシェル城にも通えません。せっかくではございますが……」
クロードが首を振った。
「いつまでノーブル様に仕えるつもりだ」
ウィルが、ぴしゃりと射抜くブルーの瞳をクロードに向けた。
「は?」
「……迷惑だ」
「……?」
「聞こえなかったか。お前がいなくなって、俺は迷惑していると言っている」
「ウィル様……」
Princessはクロードの手をとってきゅっと握った。
彼の指先が熱い。
「お前は俺の執事……だろ?」
クロードとPrincessは、同時に顔を向けて視線を絡ませた。
言葉は要らなかった。
クロードはフィリップ王室に仕えるために執事になったのだ。
Princessを思いやってフィリップ王家を離れたが、ウィルへの忠誠心が失われていない事実は、だれよりも近くでクロードを見てきたからわかっている。
ゼンに次ぐ地位と名誉を得てノーブルに仕えることと、ウィルのそばに控えること。
両方を示されたとき、クロードがどちらを望むのか。
Princessはもちろん、わかっていた。
ウィルと、クロードと自分との間に起こったすべての出来事はもう、過去だった。
誰にも、何にも、遠慮はいらない。
Princessは、そっとうなずいた。
クロードの切れ長の瞳が喜びに細められる。
クロードは、ウィルに向き直って、胸に手をあて腰を折った。
「はい。仰せのとおりにございます、ウィル様」