ジュノーの祝福/Claude
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「クロード、Princessさん!」
名を呼ぶ声に顔を向けると、館から続く一本道をクロードの母が杖をつきながら近づいてきた。
足元はよろよろとおぼつかない。
母は腕に純白の布を抱えている。
ドレスだ。
「あっ、お母さん、そっちは!」
Princessの叫び声と同時に、老いた母は道端の起伏につまずいて転んだ。
杖が跳ね飛んでもなお、母はドレスを胸にかばって離さない。
片手で地面を叩き、杖を探って引き寄せると、すがるように体を預けてまた立ちあがった。
クロードが駆け寄って、丸まった母の背中を包んだ。
「母さん、何があったのです」
「ナンシーが、ナンシーがとんでもないことを……あの子の様子がおかしいと感じたからね、いや、目が見えないと声や気配でわかるものだよ、問い詰めたんだよ。そうしたら、勝手に式をキャンセルして、ドレスまで隠したっていうじゃあないか。もう、驚いて、驚いて、申し訳なくて、申し訳なくて……あの子は私のメイドだよ。メイドの失態は主人の責任だ。謝ってすむことじゃあないけれど……クロード、Princessさん、本当に申し訳ない」
差し出されたドレスは大切にかかえられ、ほのかに母のぬくもりが残っていた。
目がまだ見えたときの記憶を頼りに、ひとり、詫びるために必死でここまでやってきた母を思うと、胸がかきむしられるようだった。
涙をこらえて、Princessは首を振った。
「いいんです、もう、いいんです、お母さん。ウィル王子のおはからいで、予定通り、式はできます。だから……」
あとは嗚咽で続かなかった。
クロードが片方にPrincess、もう片方に母を引き寄せて、ゆっくりと教会へと歩みを進める。
Princessは流れる涙を手の甲でぬぐった。
抱き寄せられたクロードの胸は温かい。
(大丈夫。私は、何も失っていない)
Princessは顔を上げる。
クロードの愛、母の優しさ、ウィルの気遣いに救われた。
思わぬトラブルがおこった結婚式。
でも、Princessは、世界で一番幸せな花嫁になれるような気がするのだった。
高らかに鐘が鳴って、チャペルの扉が開かれた。
白亜の階段の最上にふたりが姿を見せると、ゲストたちから歓声があがった。
「おめでとう!」
「おめでとう!クロードさん、Princessさん」
「おめでとうございます!」
色とりどりのフラワーシャワーの中を、腕を組んだクロードとPrincessがゆっくりと下りる。
花びらが舞うたびに、甘い香りが鼻先をくすぐった。
広場は、十分すぎるほどのテーブルが備えられ、美しいバラと白いリボンで飾りつけられていた。
執事たちはぴりっと直立して、トレイにはフルートグラスに注がれた金色のシャンパーニュが細かく泡をたちのぼらせる。
ビュッフェの料理もちょうど食べごろのようで、湯気が揺らめいていた。
「なんだか、もともとのお式よりも豪華になっちゃいましたね」
Princessが微笑んでクロードを見上げた。
「本当に。私の主にはいつも驚かされます」
「ふふっ、クロードさんの主、ですか?」
今、クロードの主はノーブルだ。
なのに、ウィルを主と自然に口にしてしまう彼に思わず笑みが零れる。
「どなたにお仕えしていても、クロードさんの心はやっぱりウィル王子のそばに控えているんですね」
「そうかもしれないですね。あの方のおかげでPrincessにも出会えました。どんなに感謝してもしきれないくらいです」
Princessは小さくうなずいた。
と、クロードが段上でぴたりと足を止める。
「……雨?」
「え?」
手のひらを上に向けると、確かに細かいしずくが肌を濡らした。
雲ひとつない空だというのに、雨の粒が絹の糸になってさらさらと落ちだした。
「天気雨ですね。すぐにやみますよ。雨が降らない時期なのに……きっとジュノーが私たちを祝ってくれているのでしょう」
クロードが顔を向けた。
「そうですね。クロードさんに初めて気持ちを伝えたときも、雨でしたから」
ウィルと別れ、クロードに甘えて一つ屋根の下に暮らした。
悲しみにえぐれた心をいつの間にかクロードに癒されて、ウィルか、クロードかの選択を迫られたときにはもう、迷いはなかった。
土砂降りの雨のあとにはクロードとの穏やかな日々があった。
恵みの雨は、今度はどんな幸福を運んできてくれるのだろう。
「幸せになりましょう、Princess」
「クロードさん……」
ささめの雨にしっとりと濡らされたクロードのまつ毛が迫って、ふわり、唇が重なった。
名を呼ぶ声に顔を向けると、館から続く一本道をクロードの母が杖をつきながら近づいてきた。
足元はよろよろとおぼつかない。
母は腕に純白の布を抱えている。
ドレスだ。
「あっ、お母さん、そっちは!」
Princessの叫び声と同時に、老いた母は道端の起伏につまずいて転んだ。
杖が跳ね飛んでもなお、母はドレスを胸にかばって離さない。
片手で地面を叩き、杖を探って引き寄せると、すがるように体を預けてまた立ちあがった。
クロードが駆け寄って、丸まった母の背中を包んだ。
「母さん、何があったのです」
「ナンシーが、ナンシーがとんでもないことを……あの子の様子がおかしいと感じたからね、いや、目が見えないと声や気配でわかるものだよ、問い詰めたんだよ。そうしたら、勝手に式をキャンセルして、ドレスまで隠したっていうじゃあないか。もう、驚いて、驚いて、申し訳なくて、申し訳なくて……あの子は私のメイドだよ。メイドの失態は主人の責任だ。謝ってすむことじゃあないけれど……クロード、Princessさん、本当に申し訳ない」
差し出されたドレスは大切にかかえられ、ほのかに母のぬくもりが残っていた。
目がまだ見えたときの記憶を頼りに、ひとり、詫びるために必死でここまでやってきた母を思うと、胸がかきむしられるようだった。
涙をこらえて、Princessは首を振った。
「いいんです、もう、いいんです、お母さん。ウィル王子のおはからいで、予定通り、式はできます。だから……」
あとは嗚咽で続かなかった。
クロードが片方にPrincess、もう片方に母を引き寄せて、ゆっくりと教会へと歩みを進める。
Princessは流れる涙を手の甲でぬぐった。
抱き寄せられたクロードの胸は温かい。
(大丈夫。私は、何も失っていない)
Princessは顔を上げる。
クロードの愛、母の優しさ、ウィルの気遣いに救われた。
思わぬトラブルがおこった結婚式。
でも、Princessは、世界で一番幸せな花嫁になれるような気がするのだった。
高らかに鐘が鳴って、チャペルの扉が開かれた。
白亜の階段の最上にふたりが姿を見せると、ゲストたちから歓声があがった。
「おめでとう!」
「おめでとう!クロードさん、Princessさん」
「おめでとうございます!」
色とりどりのフラワーシャワーの中を、腕を組んだクロードとPrincessがゆっくりと下りる。
花びらが舞うたびに、甘い香りが鼻先をくすぐった。
広場は、十分すぎるほどのテーブルが備えられ、美しいバラと白いリボンで飾りつけられていた。
執事たちはぴりっと直立して、トレイにはフルートグラスに注がれた金色のシャンパーニュが細かく泡をたちのぼらせる。
ビュッフェの料理もちょうど食べごろのようで、湯気が揺らめいていた。
「なんだか、もともとのお式よりも豪華になっちゃいましたね」
Princessが微笑んでクロードを見上げた。
「本当に。私の主にはいつも驚かされます」
「ふふっ、クロードさんの主、ですか?」
今、クロードの主はノーブルだ。
なのに、ウィルを主と自然に口にしてしまう彼に思わず笑みが零れる。
「どなたにお仕えしていても、クロードさんの心はやっぱりウィル王子のそばに控えているんですね」
「そうかもしれないですね。あの方のおかげでPrincessにも出会えました。どんなに感謝してもしきれないくらいです」
Princessは小さくうなずいた。
と、クロードが段上でぴたりと足を止める。
「……雨?」
「え?」
手のひらを上に向けると、確かに細かいしずくが肌を濡らした。
雲ひとつない空だというのに、雨の粒が絹の糸になってさらさらと落ちだした。
「天気雨ですね。すぐにやみますよ。雨が降らない時期なのに……きっとジュノーが私たちを祝ってくれているのでしょう」
クロードが顔を向けた。
「そうですね。クロードさんに初めて気持ちを伝えたときも、雨でしたから」
ウィルと別れ、クロードに甘えて一つ屋根の下に暮らした。
悲しみにえぐれた心をいつの間にかクロードに癒されて、ウィルか、クロードかの選択を迫られたときにはもう、迷いはなかった。
土砂降りの雨のあとにはクロードとの穏やかな日々があった。
恵みの雨は、今度はどんな幸福を運んできてくれるのだろう。
「幸せになりましょう、Princess」
「クロードさん……」
ささめの雨にしっとりと濡らされたクロードのまつ毛が迫って、ふわり、唇が重なった。