ジュノーの祝福/Claude
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「ゼン、クロードはどうした」
ウィルが書類の山を抱えて廊下をいくゼンを呼び止めた。
ノーブルミッシェルの定例会議に、クロードが控えていないのは珍しかった。
「クロードは休暇をとっております」
「なぜ? 具合でも悪いのか?」
フィリップ城にいるときも、骨の髄まで忠実なクロードが私用で休んだことなどない。
彼はまるで城に備え付けられたように、365日を働き続けた。
ゼンが少し言いづらそうに視線を泳がせただけで、ウィルは休暇の理由を感じ取る。
「……なるほど。結婚式、か」
はい、と答えようとしたそのときにゼンの電話が鳴った。
「ウィル様、少々失礼いたします……はい、ゼンでございます……それは、なぜ? はい。はい……わかりました」
ウィルが電話の応対にじっと耳を澄ませる。
「クロードたちに何かあったのか」
「はい。今日が結婚式だったのですが……何者かにキャンセルされたと。事後処理のために休暇を伸ばして欲しいとの連絡でございました。われわれとしても何かできることをと思いますので、ノーブル様に……」
せわしなく腰を折ったゼンを、ウィルが制した。
「待て。ノーブル様のお手を煩わせるほどのことでもない。フィリップ国内での式なのだろう? 俺が対応したほうが早い」
教会には続々とゲストが集まっていた。
こぢんまりとした式にする予定ではあったものの、それでも50人はくだらない。
皆一様に、閑散とした会場にとまどっているようだった。
クロードとPrincessは、手分けをして不手際を詫び、頭を下げた。
今から何をどう手配しようとも、今日、式を挙げ、ゲストをもてなすことなど出来はしなかった。
ふとPrincessは、土けむりを上げて橋を渡る数台のトラックとバンに気付いた。
「クロードさん、あれ、なんでしょう」
Princessはクロードに駆け寄って、彼方を指差した。
トラックの側面にはフィリップ王家の紋章が見える。
「王家所有の車両ですね」
さすがのクロードも怪訝そうにする。
やがて、トラックは教会の広場に横付けされ、荷台側面のウィングがゆっくりと跳ね上がった。
中にはいくつものガーデンパーティー用の丸テーブル、椅子、ビュッフェ用の調理台といった器材が満載だった。
他の車も次々と到着し、そこには食材や、ワイン、ビールをはじめ、装飾用の生花、リボン、真っ白いカバー、敷物がぎっしりと積まれている。
バンからはといえば、20人以上の執事やメイド、調理人たちが降り立って、てきぱきと荷をさげ、それらを抱えながら教会の中、広場のあちこちへと散っていった。
「これはいったい……みなフィリップ城の者たちだ」
予告なく目の前に展開される事柄に、クロードもPrincessもただただ、目をしばたたかせた。
そこに神父が息を切らしてやってきた。
興奮している様子で、頬が紅潮している。
「あ、あの、挙式は予定どおりさせていただきます。フィリップ王子、ウィル様より直接ご連絡いただきまして、すべての準備はこちらでするから、今日の式は予定どおり行うようにと」
「ウィル様が?」
「ウィル王子が……」
ふたりは顔を見合わせた。
窮地に差し伸べられた、かつての主の、かつての恋人の、温かい手。
「本当に、いつもできるお方だ」
クロードは晴れた空を仰いで息を吐き、それからPrincessに向き直った。
「せっかくのご厚意です。ありがたくいただきましょう、Princess」
「……はい!」
Princessは深くうなずいた。
目を閉じれば、ウィルの涼やかな顔の下の優しさが、懐かしく、ただ懐かしく、思い出された。
別れてしまったけれど、彼と過ごした日々を、今は涙を流すことなしに愛しむことができる。
クロードからの愛があるから――
あきらめかけた6月の花嫁の夢は叶う。
愛したウィルが、愛するクロードへ続く道を、再びひらいてくれたのだ。
ウィルが書類の山を抱えて廊下をいくゼンを呼び止めた。
ノーブルミッシェルの定例会議に、クロードが控えていないのは珍しかった。
「クロードは休暇をとっております」
「なぜ? 具合でも悪いのか?」
フィリップ城にいるときも、骨の髄まで忠実なクロードが私用で休んだことなどない。
彼はまるで城に備え付けられたように、365日を働き続けた。
ゼンが少し言いづらそうに視線を泳がせただけで、ウィルは休暇の理由を感じ取る。
「……なるほど。結婚式、か」
はい、と答えようとしたそのときにゼンの電話が鳴った。
「ウィル様、少々失礼いたします……はい、ゼンでございます……それは、なぜ? はい。はい……わかりました」
ウィルが電話の応対にじっと耳を澄ませる。
「クロードたちに何かあったのか」
「はい。今日が結婚式だったのですが……何者かにキャンセルされたと。事後処理のために休暇を伸ばして欲しいとの連絡でございました。われわれとしても何かできることをと思いますので、ノーブル様に……」
せわしなく腰を折ったゼンを、ウィルが制した。
「待て。ノーブル様のお手を煩わせるほどのことでもない。フィリップ国内での式なのだろう? 俺が対応したほうが早い」
教会には続々とゲストが集まっていた。
こぢんまりとした式にする予定ではあったものの、それでも50人はくだらない。
皆一様に、閑散とした会場にとまどっているようだった。
クロードとPrincessは、手分けをして不手際を詫び、頭を下げた。
今から何をどう手配しようとも、今日、式を挙げ、ゲストをもてなすことなど出来はしなかった。
ふとPrincessは、土けむりを上げて橋を渡る数台のトラックとバンに気付いた。
「クロードさん、あれ、なんでしょう」
Princessはクロードに駆け寄って、彼方を指差した。
トラックの側面にはフィリップ王家の紋章が見える。
「王家所有の車両ですね」
さすがのクロードも怪訝そうにする。
やがて、トラックは教会の広場に横付けされ、荷台側面のウィングがゆっくりと跳ね上がった。
中にはいくつものガーデンパーティー用の丸テーブル、椅子、ビュッフェ用の調理台といった器材が満載だった。
他の車も次々と到着し、そこには食材や、ワイン、ビールをはじめ、装飾用の生花、リボン、真っ白いカバー、敷物がぎっしりと積まれている。
バンからはといえば、20人以上の執事やメイド、調理人たちが降り立って、てきぱきと荷をさげ、それらを抱えながら教会の中、広場のあちこちへと散っていった。
「これはいったい……みなフィリップ城の者たちだ」
予告なく目の前に展開される事柄に、クロードもPrincessもただただ、目をしばたたかせた。
そこに神父が息を切らしてやってきた。
興奮している様子で、頬が紅潮している。
「あ、あの、挙式は予定どおりさせていただきます。フィリップ王子、ウィル様より直接ご連絡いただきまして、すべての準備はこちらでするから、今日の式は予定どおり行うようにと」
「ウィル様が?」
「ウィル王子が……」
ふたりは顔を見合わせた。
窮地に差し伸べられた、かつての主の、かつての恋人の、温かい手。
「本当に、いつもできるお方だ」
クロードは晴れた空を仰いで息を吐き、それからPrincessに向き直った。
「せっかくのご厚意です。ありがたくいただきましょう、Princess」
「……はい!」
Princessは深くうなずいた。
目を閉じれば、ウィルの涼やかな顔の下の優しさが、懐かしく、ただ懐かしく、思い出された。
別れてしまったけれど、彼と過ごした日々を、今は涙を流すことなしに愛しむことができる。
クロードからの愛があるから――
あきらめかけた6月の花嫁の夢は叶う。
愛したウィルが、愛するクロードへ続く道を、再びひらいてくれたのだ。