ジュノーの祝福/Claude
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ひとりきりの夜は、いつぶりだろう。
クロードのぬくもりが恋しくて、夜中に何度も目が覚めた。
寝心地のいい客室のベッドも、眠りをいざなうには足りない。
(お水、飲んでこよう)
Princessは足音をしのばせて階下におりた。
キッチンまで来ると、中から人の声が聞こえる。
(あれ? クロードさん?)
聞きなれた声にあいた扉の隙間からのぞくと、流し台に腰をもたれさせたナンシーと向かいあうクロードの背中。
「一流の執事になるまでは、特別な人は作らないって言ってたじゃない。ってことは、もう一流? そうよね。あのノーブル様の執事だものね」
薄く笑ったナンシーの顔が、切れかけた電球にちらちらと照らされる。
「そういうわけじゃない。まだ勉強することはたくさんある」
「じゃあ、どうして?」
Princessは握ったドアの取っ手を静かに離してあとずさった。
ナンシーとクロードは、メイドと主の関係なのではないのか。
親しげな口調に、Princessの心臓が嫌な音をたてる。
昼間のふたりは、主従にしか見えなかったのに。
「どうしても手放したくない人に出会った」
抑揚のない口調のクロードの表情はわからない。
「あのとき、ちゃんと私のこと、好きじゃないって言ってくれればよかったのに。クロードの言葉を信じた私がバカだったってこと? まだ、望みがあるって勘違いしたってこと? 待ってたのに……待ってたのに、いきなり『女性と暮らしてる』『フィアンセを連れて帰る』って手紙で見たときは……もう……奥様にも読みあげるのが、つらいくらいで……」
ナンシーが肩を震わせた。
彼女が、クロードに詰め寄る。見上げる視線は射抜くようだ。
「クロード、お願い。結婚はやめて。私を好きになってくれなんて言わない。だけど、やめて」
「それは、できない。……すまない」
「やめてよ」
「できない」
ナンシーがクロードの腕をつかんで、どうして、どうして、と揺する。
Princessは、来たときよりも慎重に廊下をわたり、部屋に戻った。
冴えていた目が、ますます冴えている。
見てはいけないものを見てしまった気がした。
クロードを信じている。
自分にできることは何もない。
同情すら、ナンシーにとっては屈辱だろう。
Princessは、壁に掛けられたウェディングドレスの前に立ち尽くした。
愛する人を得る喜びは、だれかの悲しみの犠牲の上に成り立っているのかもしれない。
ウィルを得たアナの喜びが、自分の悲しみと引き換えだったように。
(だれも悪いわけじゃないのに、どうにもならない……)
この世のたったひとりを想う素晴らしさと残酷さは表裏をなしている。
Princessは、薬指のリングを、右手でそっと包んだ。
クロードのぬくもりが恋しくて、夜中に何度も目が覚めた。
寝心地のいい客室のベッドも、眠りをいざなうには足りない。
(お水、飲んでこよう)
Princessは足音をしのばせて階下におりた。
キッチンまで来ると、中から人の声が聞こえる。
(あれ? クロードさん?)
聞きなれた声にあいた扉の隙間からのぞくと、流し台に腰をもたれさせたナンシーと向かいあうクロードの背中。
「一流の執事になるまでは、特別な人は作らないって言ってたじゃない。ってことは、もう一流? そうよね。あのノーブル様の執事だものね」
薄く笑ったナンシーの顔が、切れかけた電球にちらちらと照らされる。
「そういうわけじゃない。まだ勉強することはたくさんある」
「じゃあ、どうして?」
Princessは握ったドアの取っ手を静かに離してあとずさった。
ナンシーとクロードは、メイドと主の関係なのではないのか。
親しげな口調に、Princessの心臓が嫌な音をたてる。
昼間のふたりは、主従にしか見えなかったのに。
「どうしても手放したくない人に出会った」
抑揚のない口調のクロードの表情はわからない。
「あのとき、ちゃんと私のこと、好きじゃないって言ってくれればよかったのに。クロードの言葉を信じた私がバカだったってこと? まだ、望みがあるって勘違いしたってこと? 待ってたのに……待ってたのに、いきなり『女性と暮らしてる』『フィアンセを連れて帰る』って手紙で見たときは……もう……奥様にも読みあげるのが、つらいくらいで……」
ナンシーが肩を震わせた。
彼女が、クロードに詰め寄る。見上げる視線は射抜くようだ。
「クロード、お願い。結婚はやめて。私を好きになってくれなんて言わない。だけど、やめて」
「それは、できない。……すまない」
「やめてよ」
「できない」
ナンシーがクロードの腕をつかんで、どうして、どうして、と揺する。
Princessは、来たときよりも慎重に廊下をわたり、部屋に戻った。
冴えていた目が、ますます冴えている。
見てはいけないものを見てしまった気がした。
クロードを信じている。
自分にできることは何もない。
同情すら、ナンシーにとっては屈辱だろう。
Princessは、壁に掛けられたウェディングドレスの前に立ち尽くした。
愛する人を得る喜びは、だれかの悲しみの犠牲の上に成り立っているのかもしれない。
ウィルを得たアナの喜びが、自分の悲しみと引き換えだったように。
(だれも悪いわけじゃないのに、どうにもならない……)
この世のたったひとりを想う素晴らしさと残酷さは表裏をなしている。
Princessは、薬指のリングを、右手でそっと包んだ。