Bitter編:さいごの恋 /Will.A.Spencer
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(来ちゃったけど、いいよね……)
Princessは静まり返ったフィリップ城の廊下を、ウィルの執務室に向かっていた。
この時間ならまだ、彼は仕事をしているはずだ。
2月14日。
ウィルと付き合うようになってから、毎年必ずふたりで過ごしている。
どんなに公務が遅くなっても、どんなに大学の課題があっても、なんとか都合をつけてシャンパーニュを掲げあい、変わらない愛を確かめ合うのがこの日の決まりだった。
しかし、いつもどおりのバレンタインデーを過ごそうとしていたPrincessが手作りのトリュフチョコを作り終えた当日になっても、ウィルからの連絡はなかった。
ちょっとしたきっかけで恋に落ちるように、ちょっとしたきっかけで愛が息を吹き返すほうに、Princessは希望をつなぎたかった。
楽しかった日々を話題に、ほろ酔いに求め合って朝を迎えてしまえば、ここのところのぎくしゃくとした関係が一気に修復されるような気がしていた。
ラッピングを施したチョコを前に、Princessはウィルに電話をかけた。
数ヶ月前まで、舞い上がる想いをおさえていそいそと通話のボタンを押していたのに、今はウィルの抑揚のない声が怖くて、激しくためらわれた。
Princessは、勇気を奮い立たせる。
なのに、散々のコールのあとにでたウィルの答えは、つれないものだった。
聞きなれた言葉。
「今日は、会えない」
いや、違う、今日も、なのだ。
わかりましたと答えたものの、気持ちはおさまらなかった。
ただ、ウィルに直接、想いを伝えたいだけだ、いけないことは何もないと、Princessのつま先は自然にフィリップに向かった。
Princessは、豪奢な扉を押し開けた。
「ウィル? Princessです」
きょろっと見回しても彼の姿はない。
Princessはふと、部屋に物足りなさを感じた。
瞬時にそれがなぜなのかわからずに、しばらく執務室を眺めた。
(そうだ。あの絵がない)
アナが描いた、ウィルと自分がダンスをする華やかな絵。
先日までその絵がたてかけられていた暖炉の上は、がらんとしていた。
(なんでだろう……)
いぶかしく思いながら、彼女はチョコレートの包みをウィルの執務机に置いた。
公務で外出中なら、しばらく、彼の帰りを待ってみようかとも思ったが、もともと会えないと言われている。
わざわざ彼の意思に反することをして、機嫌を損ねることもない。
Princessは、執務室を出て、広く長い廊下を行った。
ふと、ひときわ大きな扉が半開きになっているのが見えた。
(あそこは確か、大広間、だったかな)
あふれ出る光に誘われて歩み寄り、ひょこりと顔だけをのぞかせ、Princessは目を見開いた。
吸った息はもどる場所を忘れる。
きらめくシャンデリア、磨きこまれた大理石のフロア、そして静かに流れる音楽は、ただ、そこに舞うふたりのためだけにあった。
正装をまとったウィルが手をとるのは……アナだ。
真紅のドレスを身に着けたアナは、頬を紅潮させて、たどたどしくもウィルに身を任せてステップを踏んでいる。
そんな彼女を優しく腕に包むウィル。
唇は、やわらかく微笑んで。
どうしてアナの描いた絵がなくなっていたのか、Princessにはたった今、わかった。
痛いほどに、思い知った。
ウィルのそばで舞うのは自分ではなく、アナになった。
ウィルにとって、描かれたふたりはもう……過去なのだ。
Princessは静まり返ったフィリップ城の廊下を、ウィルの執務室に向かっていた。
この時間ならまだ、彼は仕事をしているはずだ。
2月14日。
ウィルと付き合うようになってから、毎年必ずふたりで過ごしている。
どんなに公務が遅くなっても、どんなに大学の課題があっても、なんとか都合をつけてシャンパーニュを掲げあい、変わらない愛を確かめ合うのがこの日の決まりだった。
しかし、いつもどおりのバレンタインデーを過ごそうとしていたPrincessが手作りのトリュフチョコを作り終えた当日になっても、ウィルからの連絡はなかった。
ちょっとしたきっかけで恋に落ちるように、ちょっとしたきっかけで愛が息を吹き返すほうに、Princessは希望をつなぎたかった。
楽しかった日々を話題に、ほろ酔いに求め合って朝を迎えてしまえば、ここのところのぎくしゃくとした関係が一気に修復されるような気がしていた。
ラッピングを施したチョコを前に、Princessはウィルに電話をかけた。
数ヶ月前まで、舞い上がる想いをおさえていそいそと通話のボタンを押していたのに、今はウィルの抑揚のない声が怖くて、激しくためらわれた。
Princessは、勇気を奮い立たせる。
なのに、散々のコールのあとにでたウィルの答えは、つれないものだった。
聞きなれた言葉。
「今日は、会えない」
いや、違う、今日も、なのだ。
わかりましたと答えたものの、気持ちはおさまらなかった。
ただ、ウィルに直接、想いを伝えたいだけだ、いけないことは何もないと、Princessのつま先は自然にフィリップに向かった。
Princessは、豪奢な扉を押し開けた。
「ウィル? Princessです」
きょろっと見回しても彼の姿はない。
Princessはふと、部屋に物足りなさを感じた。
瞬時にそれがなぜなのかわからずに、しばらく執務室を眺めた。
(そうだ。あの絵がない)
アナが描いた、ウィルと自分がダンスをする華やかな絵。
先日までその絵がたてかけられていた暖炉の上は、がらんとしていた。
(なんでだろう……)
いぶかしく思いながら、彼女はチョコレートの包みをウィルの執務机に置いた。
公務で外出中なら、しばらく、彼の帰りを待ってみようかとも思ったが、もともと会えないと言われている。
わざわざ彼の意思に反することをして、機嫌を損ねることもない。
Princessは、執務室を出て、広く長い廊下を行った。
ふと、ひときわ大きな扉が半開きになっているのが見えた。
(あそこは確か、大広間、だったかな)
あふれ出る光に誘われて歩み寄り、ひょこりと顔だけをのぞかせ、Princessは目を見開いた。
吸った息はもどる場所を忘れる。
きらめくシャンデリア、磨きこまれた大理石のフロア、そして静かに流れる音楽は、ただ、そこに舞うふたりのためだけにあった。
正装をまとったウィルが手をとるのは……アナだ。
真紅のドレスを身に着けたアナは、頬を紅潮させて、たどたどしくもウィルに身を任せてステップを踏んでいる。
そんな彼女を優しく腕に包むウィル。
唇は、やわらかく微笑んで。
どうしてアナの描いた絵がなくなっていたのか、Princessにはたった今、わかった。
痛いほどに、思い知った。
ウィルのそばで舞うのは自分ではなく、アナになった。
ウィルにとって、描かれたふたりはもう……過去なのだ。