Bitter編:さいごの恋 /Will.A.Spencer
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思えば、そのあとからだった。
ウィルがアナの失敗について、楽しそうに話すようになったのは。
もともと他人に心を許さない彼が、どんな内容であれ特定の人間に興味をもつこと自体、珍しい。
もちろん、Princessにとって心穏やかな話題ではなかったが、ここで不満を言ってしまえば、アナに惹かれる想いにきづいていないウィルが、自身の気持ちに向き合ってしまうかもしれない。
彼女の話はさらりと流して、一緒に笑ってしまえばいい。
わざわざアナに塩を送ることはあるまい。
ウィルは、自分の恋人なのだ。
Princessは、足しげくフィリップ城に通った。
仕事があるから会えないと言われても、出かけた。
彼が、執務室でひとりで仕事をしている姿を見れば安心した。
少なくともアナと一緒でないならそれでよかった。
大学で講義を受けているときも、こうしている間に、同じ場所に住む二人が距離を縮めているのではないかと思うと、気が気ではなかった。
朝起きてから眠りにつくまで、日がな一日、ウィルとアナのことを考える毎日は、片思いだったころとは違う苦さを含んで、Princessを苦しめた。
そんなある日、ぷつりとウィルの話からアナの話題がなくなった。
だからといって、ウィルの心から彼女が排除されたのではないとPrincessは知っている。
むしろその逆だ。
ウィルの中でアナへの気持ちを確信したか、もうすでにふたりの間に何かがあったから、恋人の前で彼女を引き合いにだすことをためらっているのだ。
こうなってしまえばもう、Princessは邪魔者以外のなんでもない。
電話もメールも、一日おきになり、二日おきになり、だんだんと鳴らなくなった。
この愛を、疎ましがられているのがつらかった。
メールの返事がないのは当たり前で、電話も5回に1回くらいしか繋がらない。
いつ会えるのかと尋ねたところで、いつも答えは同じだった。
忙しくて会えないな、と。
だからこうやって、ウィルに断られても押しかける。
もしかしたら今日こそは、彼がかつてのように自分をいとおしげに見つめてくれるのではないかと期待して。
しかし、淡い期待は毎回見事に打ち砕かれた。
今日もウィルは、Princessを避けるようにふるまう。
ボタンがとれたジャケットにですら、Princessが触れることを許さず、衣装係のメイド、つまりアナには抱えさせるのだ。
ウィルの涼やかな香りがする服を彼女が包んで、ひとはりひとはりボタンを縫い付ける姿が目に浮かんだ。
身がちぎれんばかりの苦しさに、息もできない。
別れの足音が、ひたひたと近づいていた。
「Princess、俺はこれから出かけるから、キミも帰ってくれ」
「……どちらへ?」
行き先まで疑う声音のPrincessに、明らかに不快な表情を浮かべてウィルは答えた。
「公務に決まっているだろう」
「あの、お帰りを待っていてもいいですか?」
Princessはできるだけ悲壮感が漂わないように、笑顔で尋ねる。
「……」
しかし、ウィルは、クロードが持ってきた替えのジャケットを手早く羽織り、その問いには答えずに執務室をあとにする。
何もかも空まわりだった。
嫌われたくて聞いているんじゃない。
彼を好きなだけなのに。
彼に好きでいて欲しいだけなのに。
「Princess様、本日の公務は深夜に及びます。ウィル様が帰るようにとおっしゃっておられますから、そのようになさったほうが」
ため息をついてうつむくPrincessにクロードが言った。
顔を上げれば、彼のダークグレーのまなざしに憐憫 の色が見える。
「そうですね……」
力なくうなずいて、Princessは執務室の高い窓を仰いだ。
重苦しい灰色の空からは、今にも雪が舞い落ちそうだった。
本当に公務なのなら、そのほうがいい。
アナと一緒でないなら、それでいい。
(……今夜はむしろ、ゆっくり眠れるかも)
Princessは、曇った窓に手のひらを伸ばして、ガラスをなでる。
愛する人の吐息を含んだ露が、Princessの指先に冷たく凍みた。
ウィルがアナの失敗について、楽しそうに話すようになったのは。
もともと他人に心を許さない彼が、どんな内容であれ特定の人間に興味をもつこと自体、珍しい。
もちろん、Princessにとって心穏やかな話題ではなかったが、ここで不満を言ってしまえば、アナに惹かれる想いにきづいていないウィルが、自身の気持ちに向き合ってしまうかもしれない。
彼女の話はさらりと流して、一緒に笑ってしまえばいい。
わざわざアナに塩を送ることはあるまい。
ウィルは、自分の恋人なのだ。
Princessは、足しげくフィリップ城に通った。
仕事があるから会えないと言われても、出かけた。
彼が、執務室でひとりで仕事をしている姿を見れば安心した。
少なくともアナと一緒でないならそれでよかった。
大学で講義を受けているときも、こうしている間に、同じ場所に住む二人が距離を縮めているのではないかと思うと、気が気ではなかった。
朝起きてから眠りにつくまで、日がな一日、ウィルとアナのことを考える毎日は、片思いだったころとは違う苦さを含んで、Princessを苦しめた。
そんなある日、ぷつりとウィルの話からアナの話題がなくなった。
だからといって、ウィルの心から彼女が排除されたのではないとPrincessは知っている。
むしろその逆だ。
ウィルの中でアナへの気持ちを確信したか、もうすでにふたりの間に何かがあったから、恋人の前で彼女を引き合いにだすことをためらっているのだ。
こうなってしまえばもう、Princessは邪魔者以外のなんでもない。
電話もメールも、一日おきになり、二日おきになり、だんだんと鳴らなくなった。
この愛を、疎ましがられているのがつらかった。
メールの返事がないのは当たり前で、電話も5回に1回くらいしか繋がらない。
いつ会えるのかと尋ねたところで、いつも答えは同じだった。
忙しくて会えないな、と。
だからこうやって、ウィルに断られても押しかける。
もしかしたら今日こそは、彼がかつてのように自分をいとおしげに見つめてくれるのではないかと期待して。
しかし、淡い期待は毎回見事に打ち砕かれた。
今日もウィルは、Princessを避けるようにふるまう。
ボタンがとれたジャケットにですら、Princessが触れることを許さず、衣装係のメイド、つまりアナには抱えさせるのだ。
ウィルの涼やかな香りがする服を彼女が包んで、ひとはりひとはりボタンを縫い付ける姿が目に浮かんだ。
身がちぎれんばかりの苦しさに、息もできない。
別れの足音が、ひたひたと近づいていた。
「Princess、俺はこれから出かけるから、キミも帰ってくれ」
「……どちらへ?」
行き先まで疑う声音のPrincessに、明らかに不快な表情を浮かべてウィルは答えた。
「公務に決まっているだろう」
「あの、お帰りを待っていてもいいですか?」
Princessはできるだけ悲壮感が漂わないように、笑顔で尋ねる。
「……」
しかし、ウィルは、クロードが持ってきた替えのジャケットを手早く羽織り、その問いには答えずに執務室をあとにする。
何もかも空まわりだった。
嫌われたくて聞いているんじゃない。
彼を好きなだけなのに。
彼に好きでいて欲しいだけなのに。
「Princess様、本日の公務は深夜に及びます。ウィル様が帰るようにとおっしゃっておられますから、そのようになさったほうが」
ため息をついてうつむくPrincessにクロードが言った。
顔を上げれば、彼のダークグレーのまなざしに
「そうですね……」
力なくうなずいて、Princessは執務室の高い窓を仰いだ。
重苦しい灰色の空からは、今にも雪が舞い落ちそうだった。
本当に公務なのなら、そのほうがいい。
アナと一緒でないなら、それでいい。
(……今夜はむしろ、ゆっくり眠れるかも)
Princessは、曇った窓に手のひらを伸ばして、ガラスをなでる。
愛する人の吐息を含んだ露が、Princessの指先に冷たく凍みた。