Perfect blue /Will.A.Spencer
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~Princesse Side~
世界中の女性たちが憧れるノーブルミッシェル城での挙式は、滞りなく執り行われた。
過去の事情を考えて、いくぶん慎ましく行われたが、それでも、高貴な人々が見守る式は、緊張の連続だった。
「大丈夫?」
控室に移って椅子に座ると、ウィルが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「はい。緊張してしまって」
「……俺も」
ウィルが小さく口角を上げる。
「え、全然、そんな風には見えませんでしたよ」
今日のウィルも、いつもと同じように凛として、未来の王の風格に見惚れてしまうほどだったのに。
「ずっと恋焦がれてきた女性を妻にする、誓いの式だよ。震えそうなくらい、神聖な気持ちになった」
「ウィル……」
返す言葉がみつからなかった。
愛する人に愛されている喜びに、胸が震える。
小さなウィルが駆け寄ってきた。
今日はこの子も、白いタキシードを着て、私のブーケと同じ花のブートニアを胸にさしている。
「ママ、とってもきれいだね。本物のお姫さまみたいだ」
「そう?」
「ははっ。ママは、本物のプリンセスだよ」
ふたりの王子に囲まれて笑えるときが来ようとは、二度と彼には会うまいと城を去ったあの日には夢にも思わなかった。
瞼を閉じれば、今までの彼との出来事が思い出された。
はじめて踊ったダンス。
お城での日々。
過ちの一夜。
新しい命を胸にいだいて、喜びに満たされた朝。
すべてが、今日この日に繋がっていたなんて。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ウィル王子、Princessさん。よいお式だったの。結婚おめでとう」
控室にゆったりと入ってきたのは、ノンちゃ……いや、ノーブル様だ。
「ノーブル様。再び、由緒あるノーブルミッシェル城で、式を挙げさせていただき、ありがとうございました」
彼が、胸に手を当てて腰を折るのを見て、私も慌てて立ち上がり、ドレスの脇を持ちながら頭を下げる。
「おめでたいことに変わりはないからの。じゃが……」
ノーブル様が長いひげを撫でながら、柔らかだった視線を引き締めた。
「ふたりは、結ばれた経緯が、経緯じゃ。国民の中には、嫌悪感をぬぐい切れない者もいるじゃろう。さらに、一般から迎え入れられたプリンセスとなるPrincessさんには、国民の関心も高い。厳しい道のりであっても、ふたりで助け合って歩みなさい。頑張るのじゃぞ?」
私たちを思ってくれるがゆえの忠告に、ウィルが、もう一段深く、腰をたたむ。
「はい。お言葉、肝に命じまして、ふたりでフィリップのために尽くす所存です」
「私も、彼を支え、一日も早くみなさんに信頼されるプリンセスに……あっ」
そのとき、真剣に頭を垂れる私たちの背中から、小柄な影が飛び出した。
「わあ、おひげがモフモフのおじいさんだ!」
「だめよ、ウィル、失礼でしょう。申し訳ありません」
慌てた私に、ノーブル様が首を横に振った。
止める間もなく、ウィルがノーブル様の真っ白な長いひげをひとふさ手に取って、眺めている。
「よいよい。子どもは元気が一番じゃ」
扉を打つノックの音がすると、あいたドアの向こうでクロードさんが丁寧なお辞儀をした。
「ウィル様、Princess様、そろそろお時間です」
「ああ。国民にプリンセスのお披露目をしなければ」
挙式のあとには、バルコニーに出て、初めてあいさつをする予定になっていた。
バルコニーが見える広場には、すでに多くの人が集まっていると聞いている。
一度はおさまった心拍が、また高まりはじめた。
挙式よりも緊張していた。
受け入れていただけるのか……
バルコニーに出たとたんの、罵声や投石までもを予感して、身体がこわばる。
それでも、この一歩を踏み出さなければ、何も始まらない。
鏡を見て、頭上に輝く、王家代々に伝わるティアラの位置を整える。
「不安がらないで? 俺がついてる」
夫となった彼が、手のひらを差し出した。
「さあ、プリンセス。お手を」
白い手袋をした彼の手のひらに、自らのそれを重ねると、引き寄せられ、同時にバルコニーに続く窓が開け放たれた。
瞬間、地から轟くほどの、歓声がわきおこる。
え……すごい……
「Congratulations!!」
口々に言いながら広場を埋め尽くす人々は、手にしたフィリップ王家の旗を振る。
フィリップブルーに満たされた広場は、さながら、海か、空かのようだった。
見上げる人々の頬はみな紅く、笑顔を浮かべてくれている。
「ほら、Princessも手を振って?」
すでに慣れた様子で手を振っているウィルに促され、おずおずと手を振ると、さらに広場の歓声が高まった。
当然、これまで、たくさんの人に注目されたことなどない。
本来なら、私は向こうにいる国民の立場だった。
だからこそ、わかる。
皆の笑顔は、新しいフィリップに対する期待なのだ。
これが、プリンセスになるということ。
一国の未来を担う、責任。
気持ちが引き締まる。
「ウィルくーん!」
不意に、バルコニーの真下に近い場所から、しきりに小さなウィルを呼ぶ声に気づいた。
見れば、シャルルでウィルと同じ学校だった子どもたちが数人、手を振っている。
ウィルは、フィリップ城に住むようになってからは、シャルルの学校から王立アカデミーに移っていた。
「みんな! 来てくれたんだね。ありがとう!」
父に抱き上げられたウィルが、満面の笑みで、手を振り返した。
「僕がクロードに頼んで、前の学校のみんなを招待してもらったんだよ」
得意げに胸を張る我が子に、父は少しばかり首を傾げた。
「クラスメイトには、嫌な思いをさせられてたんじゃないのか? どうして?」
「うーん……どうしてかな」
ウィルは視線を宙にさまよわせて考えるしぐさを見せたが、すぐに「うん」と深くうなずいた。
「だって、僕は、王様になるんでしょ? だったら、いっぱい怒る人より、いっぱい許せる人のほうがいいと思うんだ」
すでに王の気質を感じさせる言葉に、彼が目を細めた。
「きっとお前は、素晴らしい王になる。俺以上に、ね」
現われた小さな王子に、広場はよりいっそう沸いた。
「そっくり!」
「かわいい!」
バルコニーに降ろされた我が子は、しきりに跳ね上がって声にこたえようとしている。
「Princess、国民の前で、あたらめて誓うよ。俺は、キミを生涯愛し続ける。そして、守っていく」
「ウィル……」
彼の手が頬に伸びて引き寄せられ、再び重なる、誓いのキス。
バルコニーが揺れるほどの歓声が耳に届く。
純白のハトが、一斉に解き放たれた。
「わーっ!!」
ウィルが、両手をいっぱいに広げた。
小さな手のひらの先は、指先を染めかえるほど青く澄む空。
ふたりのウィルが交わしあう瞳もまた、透明なブルー。
私は、幸せの青い世界が永遠に続くことを強く願う。
今日の日を忘れることなく、彼とともに、王国のために尽くそう。
愛する人と、フィリップの土に還る――その日まで。
--fin
世界中の女性たちが憧れるノーブルミッシェル城での挙式は、滞りなく執り行われた。
過去の事情を考えて、いくぶん慎ましく行われたが、それでも、高貴な人々が見守る式は、緊張の連続だった。
「大丈夫?」
控室に移って椅子に座ると、ウィルが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「はい。緊張してしまって」
「……俺も」
ウィルが小さく口角を上げる。
「え、全然、そんな風には見えませんでしたよ」
今日のウィルも、いつもと同じように凛として、未来の王の風格に見惚れてしまうほどだったのに。
「ずっと恋焦がれてきた女性を妻にする、誓いの式だよ。震えそうなくらい、神聖な気持ちになった」
「ウィル……」
返す言葉がみつからなかった。
愛する人に愛されている喜びに、胸が震える。
小さなウィルが駆け寄ってきた。
今日はこの子も、白いタキシードを着て、私のブーケと同じ花のブートニアを胸にさしている。
「ママ、とってもきれいだね。本物のお姫さまみたいだ」
「そう?」
「ははっ。ママは、本物のプリンセスだよ」
ふたりの王子に囲まれて笑えるときが来ようとは、二度と彼には会うまいと城を去ったあの日には夢にも思わなかった。
瞼を閉じれば、今までの彼との出来事が思い出された。
はじめて踊ったダンス。
お城での日々。
過ちの一夜。
新しい命を胸にいだいて、喜びに満たされた朝。
すべてが、今日この日に繋がっていたなんて。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ウィル王子、Princessさん。よいお式だったの。結婚おめでとう」
控室にゆったりと入ってきたのは、ノンちゃ……いや、ノーブル様だ。
「ノーブル様。再び、由緒あるノーブルミッシェル城で、式を挙げさせていただき、ありがとうございました」
彼が、胸に手を当てて腰を折るのを見て、私も慌てて立ち上がり、ドレスの脇を持ちながら頭を下げる。
「おめでたいことに変わりはないからの。じゃが……」
ノーブル様が長いひげを撫でながら、柔らかだった視線を引き締めた。
「ふたりは、結ばれた経緯が、経緯じゃ。国民の中には、嫌悪感をぬぐい切れない者もいるじゃろう。さらに、一般から迎え入れられたプリンセスとなるPrincessさんには、国民の関心も高い。厳しい道のりであっても、ふたりで助け合って歩みなさい。頑張るのじゃぞ?」
私たちを思ってくれるがゆえの忠告に、ウィルが、もう一段深く、腰をたたむ。
「はい。お言葉、肝に命じまして、ふたりでフィリップのために尽くす所存です」
「私も、彼を支え、一日も早くみなさんに信頼されるプリンセスに……あっ」
そのとき、真剣に頭を垂れる私たちの背中から、小柄な影が飛び出した。
「わあ、おひげがモフモフのおじいさんだ!」
「だめよ、ウィル、失礼でしょう。申し訳ありません」
慌てた私に、ノーブル様が首を横に振った。
止める間もなく、ウィルがノーブル様の真っ白な長いひげをひとふさ手に取って、眺めている。
「よいよい。子どもは元気が一番じゃ」
扉を打つノックの音がすると、あいたドアの向こうでクロードさんが丁寧なお辞儀をした。
「ウィル様、Princess様、そろそろお時間です」
「ああ。国民にプリンセスのお披露目をしなければ」
挙式のあとには、バルコニーに出て、初めてあいさつをする予定になっていた。
バルコニーが見える広場には、すでに多くの人が集まっていると聞いている。
一度はおさまった心拍が、また高まりはじめた。
挙式よりも緊張していた。
受け入れていただけるのか……
バルコニーに出たとたんの、罵声や投石までもを予感して、身体がこわばる。
それでも、この一歩を踏み出さなければ、何も始まらない。
鏡を見て、頭上に輝く、王家代々に伝わるティアラの位置を整える。
「不安がらないで? 俺がついてる」
夫となった彼が、手のひらを差し出した。
「さあ、プリンセス。お手を」
白い手袋をした彼の手のひらに、自らのそれを重ねると、引き寄せられ、同時にバルコニーに続く窓が開け放たれた。
瞬間、地から轟くほどの、歓声がわきおこる。
え……すごい……
「Congratulations!!」
口々に言いながら広場を埋め尽くす人々は、手にしたフィリップ王家の旗を振る。
フィリップブルーに満たされた広場は、さながら、海か、空かのようだった。
見上げる人々の頬はみな紅く、笑顔を浮かべてくれている。
「ほら、Princessも手を振って?」
すでに慣れた様子で手を振っているウィルに促され、おずおずと手を振ると、さらに広場の歓声が高まった。
当然、これまで、たくさんの人に注目されたことなどない。
本来なら、私は向こうにいる国民の立場だった。
だからこそ、わかる。
皆の笑顔は、新しいフィリップに対する期待なのだ。
これが、プリンセスになるということ。
一国の未来を担う、責任。
気持ちが引き締まる。
「ウィルくーん!」
不意に、バルコニーの真下に近い場所から、しきりに小さなウィルを呼ぶ声に気づいた。
見れば、シャルルでウィルと同じ学校だった子どもたちが数人、手を振っている。
ウィルは、フィリップ城に住むようになってからは、シャルルの学校から王立アカデミーに移っていた。
「みんな! 来てくれたんだね。ありがとう!」
父に抱き上げられたウィルが、満面の笑みで、手を振り返した。
「僕がクロードに頼んで、前の学校のみんなを招待してもらったんだよ」
得意げに胸を張る我が子に、父は少しばかり首を傾げた。
「クラスメイトには、嫌な思いをさせられてたんじゃないのか? どうして?」
「うーん……どうしてかな」
ウィルは視線を宙にさまよわせて考えるしぐさを見せたが、すぐに「うん」と深くうなずいた。
「だって、僕は、王様になるんでしょ? だったら、いっぱい怒る人より、いっぱい許せる人のほうがいいと思うんだ」
すでに王の気質を感じさせる言葉に、彼が目を細めた。
「きっとお前は、素晴らしい王になる。俺以上に、ね」
現われた小さな王子に、広場はよりいっそう沸いた。
「そっくり!」
「かわいい!」
バルコニーに降ろされた我が子は、しきりに跳ね上がって声にこたえようとしている。
「Princess、国民の前で、あたらめて誓うよ。俺は、キミを生涯愛し続ける。そして、守っていく」
「ウィル……」
彼の手が頬に伸びて引き寄せられ、再び重なる、誓いのキス。
バルコニーが揺れるほどの歓声が耳に届く。
純白のハトが、一斉に解き放たれた。
「わーっ!!」
ウィルが、両手をいっぱいに広げた。
小さな手のひらの先は、指先を染めかえるほど青く澄む空。
ふたりのウィルが交わしあう瞳もまた、透明なブルー。
私は、幸せの青い世界が永遠に続くことを強く願う。
今日の日を忘れることなく、彼とともに、王国のために尽くそう。
愛する人と、フィリップの土に還る――その日まで。
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