Perfect blue /Will.A.Spencer
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~Princess side~
車の後部座席で落ち着かないのは、私だけだ。
彼が自らハンドルを握る車にウィルははしゃぎ過ぎ、アパルトマンからずっとおしゃべりが止まらない。
「いくら何でも無茶なんじゃないでしょうか、動物園。ウィルにはよく言ってきかせますから、引き返してください」
「大丈夫、俺にまかせて?」
彼は、バックミラー越しに視線を送って、口角を上げた。
秘密はまだ言わないとでも言うような笑みは、とても楽しそうだ。
ウィルが、動物園に行きたいとせがんだのは数週間前の週末のことだった。
ウィルにはかわいそうだけれど、父親は立場上、公の場所に気軽にいける身分じゃない。
約束した「いつか」は叶わない夢なのだと、ウィルにどう説明しようかと思っていた。
ところが、突然の動物園行きの提案だ。
どこの誰かともわからないように変装するのかと思いきや、彼は輝くばかりのブロンドを隠そうともしていない。
私の心配をよそに、車は、王立動物園の駐車場に着いた。
満車に近いパーキングに車を停めて、入場ゲートをくぐり抜け、園内に入る。
たくさんの家族連れや、友人同士のグループ、カップルがいるなか、誰一人として私たちに気づかないようだった。
どこにいようと彼の持つオーラは、瞬時に人の視線を引くはずなのに、だ。
私だけが強く感じる違和感。
「どうして」と小さくつぶやいた声を、彼が拾った。
「貸し切りだからね」
「貸し切り? 王家のですか? だって、こんなに人がいっぱい……」
「みんな、城の使用人と、その家族や仲間、恋人たちだ。俺たちに協力してくれている」
「え?」
事態がうまくのみこめない。
「小さいころ、公務に同行する途中で、公園で遊ぶ子どもをみかけると、うらやましくてね。両親に頼んだんだ。公園で遊びたいって。許可が出て、願いはかなったんだけど……」
ウィルが肩をすくめた。
「遊んでいた子どもたちを追い払って、SPにぐるっと囲まれた中で、ひとりだけでの砂遊びだよ。おもしろいわけがない」
「……」
「ウィルにそういう思いはさせたくない。だからといって、まったく警戒しないで一般の場所に交じるわけにもいかないから、貸し切りにしたうえで、城の者に協力を頼んだんだ」
「じゃあ、お城はからっぽ?」
声をたてて、彼が笑った。
「まさか。ここに来てくれているのはみんな、今日が休みの使用人だけだよ。しかも、クロードが言うには、参加の希望が多すぎて抽選になったとか。みんな、ウィルのために集まってくれている」
「ウィルの、ために……」
周囲を見回すと、ごく自然に客を装った人たちばかりだ。
ウィルが、エキストラに気づくことは絶対にないだろう。
「パパ、ママ、早く!」
「ああ。今行くよ」
両手をいっぱいにあげたウィルの呼ぶ声に、彼が駆け寄っていく。
みなの善意で作り上げられた、ありふれた家族の、ありふれた週末。
ウィルだけをお城に行かせてはいたけれど、いつの間にかウィルは、幼いながらも皆の信頼を得ていたのだろうか。
私が知らない世界での我が子は、もしかしたらもう、王子なのかもしれない。
キリン、ゾウと見て回り、いよいよフィリップ国内で唯一飼われているパンダの飼育舎までやってきた。
大人気のはずの場所に、それほどの人だかりができていないのも、皆さんの気遣いに違いない。
ウィルは、コロコロと愛らしい2頭のパンダの姿にくぎ付けになった。
もともと興味をもつと、とことんまで突き詰める性格のウィルは、パンダが歩く方向へと付いていっては背伸びをしたり、かがんだりしてじっくりと観察している。
ずいぶんと長い時間、ガラスの向こうのパンダに熱い視線を送り続けて「しっぽは白なんだね」「あれっ、足の裏にも毛が生えてる」と口が休まる暇がない。
「パンダも、毎日たくさんの人間に見られて大変だな」
苦笑いと同時に彼が言うと、ウィルが、青い眼をしばたたかせ、顔を上げた。
「なんで? みんながかわいいねって見てくれるのに? ライオンは、みんながかっこいいねって褒めてくれるのに? どうして?」
「それは……」
まっすぐに向けられた疑問に、さすがの彼も返答に困って顎をさする。
彼は、常に人の目にさらされる生活をしている自分の息苦しさと動物たちを重ね合わせているのだろう。
でも、それをそのまま幼い子に伝えるのは、私も、少しためらう。
言葉を探しているうちに、先に深くうなずいて、笑顔を見せたのは我が子のほうだった。
「僕だったらね、どうしたらもっとみんなが喜んでくれるかなって考えるよ。こーんなポーズしたら、もっとみんながかわいいね、カッコイイねって言ってくれるかなって。そういうの、すっごく楽しい!」
伸びあがって言うウィルに、彼がかがんで視線を合わせた。
「ウィル」
細められたブルーの瞳を細やかに揺らし、大きな手のひらを子どもの頭に載せる。
「お前は、俺よりずっと立派な王になりそうだな」
「王様? 僕は王様になるの?」
「そうだ。お前は、王だ。未来のフィリップの王だよ」
向かい合うふたりの王子は、笑みを交わしあった。
セシル様は、彼のお兄様であるスティーヴ様と結ばれ、お子様が生まれたと聞いた。
ウィルは、セシル様に口止めされていたと言い、「キミに話さなくてごめん」と眉根を寄せた。
愛する人を奪った女に、自分の近況など知られたくもないだろう。
当然だ。
私に、とやかくいう資格は何もない。
でも、今は私たちが結婚をするなら、祝う気持ちに至ってくださっているという。
彼が深く私を愛し、他に妻を迎えるつもりがないことはわかっている。
王家の直系の男子が、小さなウィルだけだということも。
身分の違いや、これまでの不実のために、たとえ結婚しても、国民にも、王家にも認められず、つらい毎日を送ることが怖かった。
すべては、私自身を守るために。
でも、それは身勝手に過ぎず、本当の意味で責任をとったことにはならないのではないか。
私は、手を繋いで先を行く、彼と我が子の背中を見つめた。
――過去の過ちは、自らの未来の行動でしか、償うことはできない。
車の後部座席で落ち着かないのは、私だけだ。
彼が自らハンドルを握る車にウィルははしゃぎ過ぎ、アパルトマンからずっとおしゃべりが止まらない。
「いくら何でも無茶なんじゃないでしょうか、動物園。ウィルにはよく言ってきかせますから、引き返してください」
「大丈夫、俺にまかせて?」
彼は、バックミラー越しに視線を送って、口角を上げた。
秘密はまだ言わないとでも言うような笑みは、とても楽しそうだ。
ウィルが、動物園に行きたいとせがんだのは数週間前の週末のことだった。
ウィルにはかわいそうだけれど、父親は立場上、公の場所に気軽にいける身分じゃない。
約束した「いつか」は叶わない夢なのだと、ウィルにどう説明しようかと思っていた。
ところが、突然の動物園行きの提案だ。
どこの誰かともわからないように変装するのかと思いきや、彼は輝くばかりのブロンドを隠そうともしていない。
私の心配をよそに、車は、王立動物園の駐車場に着いた。
満車に近いパーキングに車を停めて、入場ゲートをくぐり抜け、園内に入る。
たくさんの家族連れや、友人同士のグループ、カップルがいるなか、誰一人として私たちに気づかないようだった。
どこにいようと彼の持つオーラは、瞬時に人の視線を引くはずなのに、だ。
私だけが強く感じる違和感。
「どうして」と小さくつぶやいた声を、彼が拾った。
「貸し切りだからね」
「貸し切り? 王家のですか? だって、こんなに人がいっぱい……」
「みんな、城の使用人と、その家族や仲間、恋人たちだ。俺たちに協力してくれている」
「え?」
事態がうまくのみこめない。
「小さいころ、公務に同行する途中で、公園で遊ぶ子どもをみかけると、うらやましくてね。両親に頼んだんだ。公園で遊びたいって。許可が出て、願いはかなったんだけど……」
ウィルが肩をすくめた。
「遊んでいた子どもたちを追い払って、SPにぐるっと囲まれた中で、ひとりだけでの砂遊びだよ。おもしろいわけがない」
「……」
「ウィルにそういう思いはさせたくない。だからといって、まったく警戒しないで一般の場所に交じるわけにもいかないから、貸し切りにしたうえで、城の者に協力を頼んだんだ」
「じゃあ、お城はからっぽ?」
声をたてて、彼が笑った。
「まさか。ここに来てくれているのはみんな、今日が休みの使用人だけだよ。しかも、クロードが言うには、参加の希望が多すぎて抽選になったとか。みんな、ウィルのために集まってくれている」
「ウィルの、ために……」
周囲を見回すと、ごく自然に客を装った人たちばかりだ。
ウィルが、エキストラに気づくことは絶対にないだろう。
「パパ、ママ、早く!」
「ああ。今行くよ」
両手をいっぱいにあげたウィルの呼ぶ声に、彼が駆け寄っていく。
みなの善意で作り上げられた、ありふれた家族の、ありふれた週末。
ウィルだけをお城に行かせてはいたけれど、いつの間にかウィルは、幼いながらも皆の信頼を得ていたのだろうか。
私が知らない世界での我が子は、もしかしたらもう、王子なのかもしれない。
キリン、ゾウと見て回り、いよいよフィリップ国内で唯一飼われているパンダの飼育舎までやってきた。
大人気のはずの場所に、それほどの人だかりができていないのも、皆さんの気遣いに違いない。
ウィルは、コロコロと愛らしい2頭のパンダの姿にくぎ付けになった。
もともと興味をもつと、とことんまで突き詰める性格のウィルは、パンダが歩く方向へと付いていっては背伸びをしたり、かがんだりしてじっくりと観察している。
ずいぶんと長い時間、ガラスの向こうのパンダに熱い視線を送り続けて「しっぽは白なんだね」「あれっ、足の裏にも毛が生えてる」と口が休まる暇がない。
「パンダも、毎日たくさんの人間に見られて大変だな」
苦笑いと同時に彼が言うと、ウィルが、青い眼をしばたたかせ、顔を上げた。
「なんで? みんながかわいいねって見てくれるのに? ライオンは、みんながかっこいいねって褒めてくれるのに? どうして?」
「それは……」
まっすぐに向けられた疑問に、さすがの彼も返答に困って顎をさする。
彼は、常に人の目にさらされる生活をしている自分の息苦しさと動物たちを重ね合わせているのだろう。
でも、それをそのまま幼い子に伝えるのは、私も、少しためらう。
言葉を探しているうちに、先に深くうなずいて、笑顔を見せたのは我が子のほうだった。
「僕だったらね、どうしたらもっとみんなが喜んでくれるかなって考えるよ。こーんなポーズしたら、もっとみんながかわいいね、カッコイイねって言ってくれるかなって。そういうの、すっごく楽しい!」
伸びあがって言うウィルに、彼がかがんで視線を合わせた。
「ウィル」
細められたブルーの瞳を細やかに揺らし、大きな手のひらを子どもの頭に載せる。
「お前は、俺よりずっと立派な王になりそうだな」
「王様? 僕は王様になるの?」
「そうだ。お前は、王だ。未来のフィリップの王だよ」
向かい合うふたりの王子は、笑みを交わしあった。
セシル様は、彼のお兄様であるスティーヴ様と結ばれ、お子様が生まれたと聞いた。
ウィルは、セシル様に口止めされていたと言い、「キミに話さなくてごめん」と眉根を寄せた。
愛する人を奪った女に、自分の近況など知られたくもないだろう。
当然だ。
私に、とやかくいう資格は何もない。
でも、今は私たちが結婚をするなら、祝う気持ちに至ってくださっているという。
彼が深く私を愛し、他に妻を迎えるつもりがないことはわかっている。
王家の直系の男子が、小さなウィルだけだということも。
身分の違いや、これまでの不実のために、たとえ結婚しても、国民にも、王家にも認められず、つらい毎日を送ることが怖かった。
すべては、私自身を守るために。
でも、それは身勝手に過ぎず、本当の意味で責任をとったことにはならないのではないか。
私は、手を繋いで先を行く、彼と我が子の背中を見つめた。
――過去の過ちは、自らの未来の行動でしか、償うことはできない。