Perfect blue /Will.A.Spencer
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ウィルのチェスの駒運びは、ずいぶん上達したようだ。
時おり、クロードさんが真顔で腕組みをしながら次の手を考えている。
ささやかなディナーを終えて、私と彼は並んでソファに腰掛け、ウィルとクロードさんはチェスを始めた。
「……それで、ウィルの学校はどう? 相変わらず、イジメはひどいのか」
彼が、我が子の横顔をちらりと伺ってから尋ねた。
私は頷いて立ち上がり、棚から一枚の画用紙を取って彼に渡した。
視線を紙に落とした彼の表情は、とたんにほころぶ。
「よく描けてる。まるで俺の肖像画だ」
「大好きな人の顔を描きましょうっていう課題だったらしくて」
でも、と私は画用紙に縦横に貼られたテープを、指でなぞった。
フィリップの正装をまとって柔らかく笑う父の絵は、引き裂かれ、テープで張り合わされた跡が残る。
「嘘つきだって。自分の顔を描くなとか、なんでフィリップの王子を描くんだとか言われて、破かれたと……泣いて帰ってきました」
「心無いことをするものだな。教師には伝えてある?」
「ええ、だけど、先生も『ウィルくんは、空想をまるで本当にあったことのように話してしまうから』って。いじめる子たちに注意はしてくれているみたいですが、なかなか……」
私は視線を伏せた。
ウィルが学校で話す内容には、少しの嘘もない。
フィリップ城に遊びに行ったときに見る庭の美しさや、執事やメイドたちの礼儀正しさ、大広間の華やかさを、見たまま、感じ取ったままに友達に話しているのだろう。
でも、聞かされる側としては、頭の中で練られたファンタジーを語られるようなものだ。
教師ですら、ウィルの話を、父のいない子がみる幸せな妄想だと疑わないくらいなのに、どこの子どもが、隣に座る友人を王子の息子と信じるというのか。
もし、ウィルがフィリップの王立アカデミーに通っていたなら、最高位の人の息子として丁寧に接せられ、こんなイジメとは無縁だったはずだ。
我が子の命を身体に感じたとき、すべての責任は私が負うのだと決めた。
誰にも語らず、産み育てる。
大切に慈しんで、この子に最高に幸せな人生を。
けれど現実は、出自を秘密にするがゆえの負を、私ではなく、ウィルが受けていた。
「この前の話……まだ決心がつかない?」
気がつけば、彼が私の表情の硬さを感じ取ったように、心配そうに青い瞳を揺らしていた。
彼は伸ばした腕で私の肩を引き寄せ、細い指先で私の髪を梳く。
「俺は、キミ以外との結婚はこれから先も考えられないよ」
「……」
結ばれることなど許されなかったはずなのに、このところ、彼からは結婚話が持ちかけられるようになった。
あれほど私やウィルの存在を隠したがった王様や王妃様も、ウィルがお城に出向くようになってからは、孫かわいさなのか、彼と私の正式な結婚を望んでいると聞いている。
気後れもあって、私がお城に行くことはないが、ウィルが彼の子であることは使用人の間では公然の秘密であり、ずいぶんとかわいがられてもいるらしい。
けれどだからといって、二度返事ができる問題ではなかった。
「……セシルのことだね?」
ガラスの目は、私がなんの言葉を発しなくても心の奥を見通してしまう。
もし、彼のそばに一生いられるとしたら、どんな試練にも立ち向かう覚悟はできている。
でも、セシル様のことを思えば、喜びをあらわに頷けはしなかった。
ウィルと離婚したセシル様は、当時、徹底的にメディアに付きまとわれた。
行く先々で「今のお気持ちは」とマイクを向けられ、うつむくだけのセシル様のお姿を忘れてはいけない。
高貴な身分でありながら私を友達だと言い、ウィルとの甘い日々を瞳を輝かせ語ってくれたセシル様。
そんなあのかたを、私は裏切った。
まるで味方のようにふるまっておきながら、ウィルに魅かれ、ウィルに抱かれ、ふたりの仲を決定的に壊した。
年月が経とうと、詫びようと、その罪は消えない。
「Princess……俺が、セシルになんの承諾も得ないで、キミにプロポーズをしていると思う?」
私はウィルに顔を向けた。
「……承諾?」
「俺は、セシルに会っているよ」
ウィルが金色のまつ毛をゆっくりと瞬かせた。
時おり、クロードさんが真顔で腕組みをしながら次の手を考えている。
ささやかなディナーを終えて、私と彼は並んでソファに腰掛け、ウィルとクロードさんはチェスを始めた。
「……それで、ウィルの学校はどう? 相変わらず、イジメはひどいのか」
彼が、我が子の横顔をちらりと伺ってから尋ねた。
私は頷いて立ち上がり、棚から一枚の画用紙を取って彼に渡した。
視線を紙に落とした彼の表情は、とたんにほころぶ。
「よく描けてる。まるで俺の肖像画だ」
「大好きな人の顔を描きましょうっていう課題だったらしくて」
でも、と私は画用紙に縦横に貼られたテープを、指でなぞった。
フィリップの正装をまとって柔らかく笑う父の絵は、引き裂かれ、テープで張り合わされた跡が残る。
「嘘つきだって。自分の顔を描くなとか、なんでフィリップの王子を描くんだとか言われて、破かれたと……泣いて帰ってきました」
「心無いことをするものだな。教師には伝えてある?」
「ええ、だけど、先生も『ウィルくんは、空想をまるで本当にあったことのように話してしまうから』って。いじめる子たちに注意はしてくれているみたいですが、なかなか……」
私は視線を伏せた。
ウィルが学校で話す内容には、少しの嘘もない。
フィリップ城に遊びに行ったときに見る庭の美しさや、執事やメイドたちの礼儀正しさ、大広間の華やかさを、見たまま、感じ取ったままに友達に話しているのだろう。
でも、聞かされる側としては、頭の中で練られたファンタジーを語られるようなものだ。
教師ですら、ウィルの話を、父のいない子がみる幸せな妄想だと疑わないくらいなのに、どこの子どもが、隣に座る友人を王子の息子と信じるというのか。
もし、ウィルがフィリップの王立アカデミーに通っていたなら、最高位の人の息子として丁寧に接せられ、こんなイジメとは無縁だったはずだ。
我が子の命を身体に感じたとき、すべての責任は私が負うのだと決めた。
誰にも語らず、産み育てる。
大切に慈しんで、この子に最高に幸せな人生を。
けれど現実は、出自を秘密にするがゆえの負を、私ではなく、ウィルが受けていた。
「この前の話……まだ決心がつかない?」
気がつけば、彼が私の表情の硬さを感じ取ったように、心配そうに青い瞳を揺らしていた。
彼は伸ばした腕で私の肩を引き寄せ、細い指先で私の髪を梳く。
「俺は、キミ以外との結婚はこれから先も考えられないよ」
「……」
結ばれることなど許されなかったはずなのに、このところ、彼からは結婚話が持ちかけられるようになった。
あれほど私やウィルの存在を隠したがった王様や王妃様も、ウィルがお城に出向くようになってからは、孫かわいさなのか、彼と私の正式な結婚を望んでいると聞いている。
気後れもあって、私がお城に行くことはないが、ウィルが彼の子であることは使用人の間では公然の秘密であり、ずいぶんとかわいがられてもいるらしい。
けれどだからといって、二度返事ができる問題ではなかった。
「……セシルのことだね?」
ガラスの目は、私がなんの言葉を発しなくても心の奥を見通してしまう。
もし、彼のそばに一生いられるとしたら、どんな試練にも立ち向かう覚悟はできている。
でも、セシル様のことを思えば、喜びをあらわに頷けはしなかった。
ウィルと離婚したセシル様は、当時、徹底的にメディアに付きまとわれた。
行く先々で「今のお気持ちは」とマイクを向けられ、うつむくだけのセシル様のお姿を忘れてはいけない。
高貴な身分でありながら私を友達だと言い、ウィルとの甘い日々を瞳を輝かせ語ってくれたセシル様。
そんなあのかたを、私は裏切った。
まるで味方のようにふるまっておきながら、ウィルに魅かれ、ウィルに抱かれ、ふたりの仲を決定的に壊した。
年月が経とうと、詫びようと、その罪は消えない。
「Princess……俺が、セシルになんの承諾も得ないで、キミにプロポーズをしていると思う?」
私はウィルに顔を向けた。
「……承諾?」
「俺は、セシルに会っているよ」
ウィルが金色のまつ毛をゆっくりと瞬かせた。