Perfect blue /Will.A.Spencer
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~Princess side~
つま先立ちになって、腰高の窓から半身を乗り出す息子ウィルは、もう20分近くも身じろぎひとつすらしない。
視線の先は、市街地からほぼ一直線に伸びてくる道路だ。
シャルルの中心地から外れた田舎町では、夜8時を過ぎるととたんに車どおりが少なくなる。
「部屋の中にいても車が通ればわかるよ」と、言って聞かせたところで、ウィルは今夜も聞く耳をもたない。
窓を全開にしてベランダの格子をつかみ、ぎゅうっと睨むように道の彼方を見つめるのは、ウィルの金曜の夜の恒例だった。
やがてウィルが人差し指で宙を示して、高い声を上げた。
「あっ、パパの車だ! ママ! パパが来たよ!」
言うが早いか窓を思い切り閉めて、今度は足音を鳴らしながら玄関へと走り出す。
リビングと寝室、それに小さなキッチンがついただけのアパルトマンは、幼子が駆ければ、とたんに騒々しさが増した。
私は夕食の支度をする手を止めて、ウィルに眉をしかめた顔を向ける。
「ウィル、静かに!」
注意する自分の声のほうがよっぽど大きいだろうに、そうせずにはいられないのが子どもを持つ母の常である。
ウィルは私の注意を気に留めることもなしに、チャイムが鳴るよりも先に扉を開けた。
――週末だけの家族。
我が子ウィルだけでなく、私もまた、この日を糧にウィークデーを乗り越えている。
かかとから丁寧にフロアを踏む足音は、かつては幻に耳に聞き、今は現実に耳に届く、最愛の人のものだ。
「パパ!」
「……ウィル。いい子でいたかな?」
「うんっ」
最近ウィルは、幼いながらも彼と声まで似てきた。
まぶしいばかりのブロンドも、空を映しとったような青い瞳も、輝く白い肌も、どこをとっても彼と同じで、声もまた同じ。
ひた隠しにしてきた親子の関係は、ウィルの成長と共に隠し切れなくなるのではないかと、不安に思う日がないと言ったら嘘になる。
ずっとこのままでいいのか、悪いのか、答えはまだ、手探りをする指先にも触れていない。
「ママー、ママ、来て! パパとクロードが喧嘩してるー!」
ウィルの呼び声に、ハッと我に返った。
今は、週末だけ通ってくる恋人であり、父である彼との時間を大事にしたい。
すべてを望んですべてを失うよりも、小さくても、幸せの粒を拾って生きたほうがいい。
それが、長く孤独だった私が、自分の心を保つために身に着けた処世術だ。
「だから! クロードさんって呼びなさいって言ってるでしょ」
濡れた両手をタオルで手早く拭くと、私は、玄関に続く扉を開けた。
「クロード。お前は入るな」
「お言葉ですが、私も今夜はウィル様とチェスをする約束をしております」
「俺が相手になるからいい。家族の団欒を邪魔するな、帰れ」
玄関先では、閉めようとする扉に、クロードさんが靴のつま先を差し入れ、ふたりで帰れ、帰らないと押し問答をしている。
私は長いため息をついた。これもまた、金曜の夜の恒例なのだ。
「おふたりとも何をなさっているのですか、毎回、毎回……子どもの前ですよ」
私は、小さなウィルを背中にかばって、彼とクロードさんを交互ににらんだ。
かつてはお城で言い合うふたりの間に立ち、ただオロオロとするばかりだったけれど、守るべき小さな存在ができてからは、私も強くなった。
「Princess、クロードとキミたちは十分に俺の知らない時間を一緒に過ごしただろう? 俺が家族だけで過ごしたいと思うことがいけないとは思えないが」
「悪いとは言っていません。この子もクロードさんと約束してるって言うんですから、いいじゃありませんか。さ、全員分の食事ができてますよ」
ウィルが「わあい」と両手を挙げれば、さすがの彼も観念してクロードさんを招きいれた。
「パパ、僕、今度、動物園に行きたいよ。みんな家族で行くのに、僕は行ったことないんだもん」
廊下を歩く彼のシャツの裾を、ウィルが引いてねだった。
「無理を言ってはだめ。パパは忙しいのよ」
もちろん、彼が答えるより前に、私が制す。
王子が子連れでひょっこりそんな場所に現れたら、大騒ぎだ。
けれども彼は、ウィルの頭を撫でた。
「Princess、そう言うな。いつか……ね」
「いつかって、いつ? ねえ、ねえ」
「ウィル。パパを困らせてはダメ」
「ママはいつもダメばっかり!」
ウィルが頬を脹らませた。
金曜の夜は、和やかに、でも少し騒がしく更けていく。
つま先立ちになって、腰高の窓から半身を乗り出す息子ウィルは、もう20分近くも身じろぎひとつすらしない。
視線の先は、市街地からほぼ一直線に伸びてくる道路だ。
シャルルの中心地から外れた田舎町では、夜8時を過ぎるととたんに車どおりが少なくなる。
「部屋の中にいても車が通ればわかるよ」と、言って聞かせたところで、ウィルは今夜も聞く耳をもたない。
窓を全開にしてベランダの格子をつかみ、ぎゅうっと睨むように道の彼方を見つめるのは、ウィルの金曜の夜の恒例だった。
やがてウィルが人差し指で宙を示して、高い声を上げた。
「あっ、パパの車だ! ママ! パパが来たよ!」
言うが早いか窓を思い切り閉めて、今度は足音を鳴らしながら玄関へと走り出す。
リビングと寝室、それに小さなキッチンがついただけのアパルトマンは、幼子が駆ければ、とたんに騒々しさが増した。
私は夕食の支度をする手を止めて、ウィルに眉をしかめた顔を向ける。
「ウィル、静かに!」
注意する自分の声のほうがよっぽど大きいだろうに、そうせずにはいられないのが子どもを持つ母の常である。
ウィルは私の注意を気に留めることもなしに、チャイムが鳴るよりも先に扉を開けた。
――週末だけの家族。
我が子ウィルだけでなく、私もまた、この日を糧にウィークデーを乗り越えている。
かかとから丁寧にフロアを踏む足音は、かつては幻に耳に聞き、今は現実に耳に届く、最愛の人のものだ。
「パパ!」
「……ウィル。いい子でいたかな?」
「うんっ」
最近ウィルは、幼いながらも彼と声まで似てきた。
まぶしいばかりのブロンドも、空を映しとったような青い瞳も、輝く白い肌も、どこをとっても彼と同じで、声もまた同じ。
ひた隠しにしてきた親子の関係は、ウィルの成長と共に隠し切れなくなるのではないかと、不安に思う日がないと言ったら嘘になる。
ずっとこのままでいいのか、悪いのか、答えはまだ、手探りをする指先にも触れていない。
「ママー、ママ、来て! パパとクロードが喧嘩してるー!」
ウィルの呼び声に、ハッと我に返った。
今は、週末だけ通ってくる恋人であり、父である彼との時間を大事にしたい。
すべてを望んですべてを失うよりも、小さくても、幸せの粒を拾って生きたほうがいい。
それが、長く孤独だった私が、自分の心を保つために身に着けた処世術だ。
「だから! クロードさんって呼びなさいって言ってるでしょ」
濡れた両手をタオルで手早く拭くと、私は、玄関に続く扉を開けた。
「クロード。お前は入るな」
「お言葉ですが、私も今夜はウィル様とチェスをする約束をしております」
「俺が相手になるからいい。家族の団欒を邪魔するな、帰れ」
玄関先では、閉めようとする扉に、クロードさんが靴のつま先を差し入れ、ふたりで帰れ、帰らないと押し問答をしている。
私は長いため息をついた。これもまた、金曜の夜の恒例なのだ。
「おふたりとも何をなさっているのですか、毎回、毎回……子どもの前ですよ」
私は、小さなウィルを背中にかばって、彼とクロードさんを交互ににらんだ。
かつてはお城で言い合うふたりの間に立ち、ただオロオロとするばかりだったけれど、守るべき小さな存在ができてからは、私も強くなった。
「Princess、クロードとキミたちは十分に俺の知らない時間を一緒に過ごしただろう? 俺が家族だけで過ごしたいと思うことがいけないとは思えないが」
「悪いとは言っていません。この子もクロードさんと約束してるって言うんですから、いいじゃありませんか。さ、全員分の食事ができてますよ」
ウィルが「わあい」と両手を挙げれば、さすがの彼も観念してクロードさんを招きいれた。
「パパ、僕、今度、動物園に行きたいよ。みんな家族で行くのに、僕は行ったことないんだもん」
廊下を歩く彼のシャツの裾を、ウィルが引いてねだった。
「無理を言ってはだめ。パパは忙しいのよ」
もちろん、彼が答えるより前に、私が制す。
王子が子連れでひょっこりそんな場所に現れたら、大騒ぎだ。
けれども彼は、ウィルの頭を撫でた。
「Princess、そう言うな。いつか……ね」
「いつかって、いつ? ねえ、ねえ」
「ウィル。パパを困らせてはダメ」
「ママはいつもダメばっかり!」
ウィルが頬を脹らませた。
金曜の夜は、和やかに、でも少し騒がしく更けていく。