ブルー×ブルー(3)/Will.A.Spencer
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「気をつかわなくていい。キミも早く休んで。もう、夜も遅い」
ウィルは、Princessが差し出した紅茶に首を振った。
「ウィル王子こそ、お疲れですのにウィルを連れてきていただいて……ありがとうございました」
Princessは頭を下げた。
「顔を上げてくれ。 自分の子のために、当然のことをしたまでだ」
穏やかな声音が頭上から降ってくる。
正装のままのウィルは、ネルヴァンでの公務から戻り、その足でアパルトマンにやって来たに違いない。
一刻も早くウィルを自分の元に返そうとした、彼の変わらない誠実さがPrincessの胸に沁みた。
けれど、次の言葉は続かなかった。
一人の子の父と母が向かい合っているのに、ふたりの間には不思議な溝があった。
病院の廊下でも感じたとまどいだった。
6年の歳月のせいなのだろうか。
互いの心の距離をはかりかねるような沈黙が苦しい。
やがて、ウィルが口をひらいた。
「キミたちの館を、城に近いところに用意させる。いや、城の中でいい。ウィルの学校も、王族の一員としての教育がうけられるところに……」
言いかけた言葉をPrincessが声高に遮った。
「いいえ!」
Princessの声音の鋭さに、ウィルの瞳が見開かれる。
「いいえ、それはできません。ウィルがおなかにいるってわかったとき、私、誓ったんです。
この子をひとりで育てるって。王家の皆様に迷惑はかけないって」
Princessは口を引き結んだ。
強がりではなかった。実際、王家と関わってしまえば、つらいことばかりだ。
「迷惑なんかじゃない」
「迷惑に感じるかたが、いらっしゃるのです。人としてのルールを破ったのは私です。
私はこの子がいれば、それで十分です。私たちは、ここを出ます。ウィル王子は、ウィル王子のなさるべきことをなさってください」
頭を下げながら、言う。
ウィルの歪んだ薄い唇が見もせずとも、目に浮かんだ。
「そうか……キミにとって大切な人間は、もう、ウィルひとりだけなのか」
「いいえ」とPrincessは首を振る。
「私は今でもウィル王子を大切に思っています。でも……私は今度こそ、道理をわきまえたいだけです。今さらと思われたとしても」
子どもをたてに城に行けば、いや、行かずとも、ウィルと関わりを持てば、セシルを苦しめることになる。
セシルに非は何もない。
「キミは強くなった。母の強さだ。俺はもう、要らない?」
乾いた声が胸に刺さった。愛する人に強くなったと言われるのはつらかった。
そうじゃない。そうじゃないけれど――
強くならざるを得なかった6年。
ウィルを想わない日は一日だってなかった。
助けて欲しいと、心まで凍える夜には何度も枕を濡らした。
流れた歳月に、そんな弱さを隠す仮面をつける術を覚えてしまったのかもしれない。
ウィルは、Princessの応えを待つことなしに、彼自身を納得させるかのように頷き、玄関へと向かう。
ウィルが向けた背中に駆け寄りたいのは、初めて彼と迎えた朝と同じだった。
彼の閉じたドアに残る影すら愛おしいのも。
(私たちは何度出会っても結ばれない。もう終わっていることじゃない……6年も前に)
わかっているのに、再び別れを選択するとなればやはり目の奥が熱くなる。
Princessは、寝室の細くあいた扉から見える小さなウィルに目を向けた。
眠りながらも慣れた寝床に戻ったのだとわかるのだろうか、穏やかな寝息がすぅすぅと聞こえてくる。
(ごめんね……ウィル……本当に、本当に、もうパパには会えない)
ソファの背もたれに体をあずけると、とたんに重い疲れが全身に巡った。
ウィルは、Princessが差し出した紅茶に首を振った。
「ウィル王子こそ、お疲れですのにウィルを連れてきていただいて……ありがとうございました」
Princessは頭を下げた。
「顔を上げてくれ。 自分の子のために、当然のことをしたまでだ」
穏やかな声音が頭上から降ってくる。
正装のままのウィルは、ネルヴァンでの公務から戻り、その足でアパルトマンにやって来たに違いない。
一刻も早くウィルを自分の元に返そうとした、彼の変わらない誠実さがPrincessの胸に沁みた。
けれど、次の言葉は続かなかった。
一人の子の父と母が向かい合っているのに、ふたりの間には不思議な溝があった。
病院の廊下でも感じたとまどいだった。
6年の歳月のせいなのだろうか。
互いの心の距離をはかりかねるような沈黙が苦しい。
やがて、ウィルが口をひらいた。
「キミたちの館を、城に近いところに用意させる。いや、城の中でいい。ウィルの学校も、王族の一員としての教育がうけられるところに……」
言いかけた言葉をPrincessが声高に遮った。
「いいえ!」
Princessの声音の鋭さに、ウィルの瞳が見開かれる。
「いいえ、それはできません。ウィルがおなかにいるってわかったとき、私、誓ったんです。
この子をひとりで育てるって。王家の皆様に迷惑はかけないって」
Princessは口を引き結んだ。
強がりではなかった。実際、王家と関わってしまえば、つらいことばかりだ。
「迷惑なんかじゃない」
「迷惑に感じるかたが、いらっしゃるのです。人としてのルールを破ったのは私です。
私はこの子がいれば、それで十分です。私たちは、ここを出ます。ウィル王子は、ウィル王子のなさるべきことをなさってください」
頭を下げながら、言う。
ウィルの歪んだ薄い唇が見もせずとも、目に浮かんだ。
「そうか……キミにとって大切な人間は、もう、ウィルひとりだけなのか」
「いいえ」とPrincessは首を振る。
「私は今でもウィル王子を大切に思っています。でも……私は今度こそ、道理をわきまえたいだけです。今さらと思われたとしても」
子どもをたてに城に行けば、いや、行かずとも、ウィルと関わりを持てば、セシルを苦しめることになる。
セシルに非は何もない。
「キミは強くなった。母の強さだ。俺はもう、要らない?」
乾いた声が胸に刺さった。愛する人に強くなったと言われるのはつらかった。
そうじゃない。そうじゃないけれど――
強くならざるを得なかった6年。
ウィルを想わない日は一日だってなかった。
助けて欲しいと、心まで凍える夜には何度も枕を濡らした。
流れた歳月に、そんな弱さを隠す仮面をつける術を覚えてしまったのかもしれない。
ウィルは、Princessの応えを待つことなしに、彼自身を納得させるかのように頷き、玄関へと向かう。
ウィルが向けた背中に駆け寄りたいのは、初めて彼と迎えた朝と同じだった。
彼の閉じたドアに残る影すら愛おしいのも。
(私たちは何度出会っても結ばれない。もう終わっていることじゃない……6年も前に)
わかっているのに、再び別れを選択するとなればやはり目の奥が熱くなる。
Princessは、寝室の細くあいた扉から見える小さなウィルに目を向けた。
眠りながらも慣れた寝床に戻ったのだとわかるのだろうか、穏やかな寝息がすぅすぅと聞こえてくる。
(ごめんね……ウィル……本当に、本当に、もうパパには会えない)
ソファの背もたれに体をあずけると、とたんに重い疲れが全身に巡った。