ブルー×ブルー(2)/Will.A.Spencer
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ウィルの手を引いて、Princessはフィリップ城をあおいだ。
そびえたつ城は、雨のもやで頂をかすませ、しっとりとしたたたずまいを見せていた。
降り出した雨に、ウィルが機嫌よく傘をくるくると回している。
今日のお菓子はなにかなぁ、今日のお話はなにかなぁ、お花は咲いているかなぁとウィルは首を右に、左にと傾け、いつもよりも饒舌 だ。
Princessはウィルの手を離した。
傘を閉じてしゃがみ、ウィルに視線を合わせる。
雨がしとしとと、Princessの髪を、肩を濡らしていく。
「あのね、ウィル、今日はママ、お城には行かないの。ウィルがひとりでいくのよ」
「どうして?」
ウィルが瞬きをする。
「ウィル……パパとセシル様の言うことをよくききなさいね」
「えっ、ここにパパがいるの! ママは会わないの?」
Princessはうなずいた。
「ママは行けないの。今日から、このお城がウィルのおうちになるの。ウィル……元気で……いっぱいかわいがってもらうのよ。そして、みんなに愛される王子に……」
ウィルの髪をPrincessがゆっくりとすきあげれば、さらさらのブロンドが指の隙間から落ちていく。
「ママ? どうして泣くの? ヘンだよ」
Princessにつられて、ウィルの唇もふるふるとゆがみだした。
自分自身の半分がもぎとられるようだった。
まぶしく伸びる我が子の育ちを間近で見ることができない日が訪れるとは、思いもよらなかった。
ウィルはもともと利発だ。
きちんと教育を受ければ、きっと、フィリップを牽引する立派な王に育つだろう。
ウィル、あなたは陽の当たる道を堂々と歩いて。
私のことは忘れていい。
そのほうがウィルにとって幸せなのだから。
Princessは門番に幼子を示した。
「あの、この子をセシル様のもとに。言えばわかります。よろしくお願いします」
頭を下げてウィルを押し付けるように渡したPrincessは、一気に駆け出した。
ウィルが体をしならせて大声をあげる。
「ママっ、ねえ、ママ、待って!」
ウィル、もう私はあなたのママじゃない。
バシャンと水が飛び散る音に振り向くと、傘を投げ捨ててPrincessを追ったウィルが、雨のすべりに足をとられて転んでいる。
あっ、ウィル。
Princessは数歩戻りかけて歩みを止める。
ここで助け起こしてしまったら、もう離せなくなる。
門番があわててウィルを引き上げるが、ウィルは雨と涙でぐしゃぐしゃになった顔で
叫び続けた。
「ママっ、ママ、ママー!」
Princessは耳を押さえる。
この気持ちは、忘れもしない、6年前に城を去ったときと同じだった。
愛する人と別れなければならなかった、あの時と。
胸がえぐられ、背中まで穴があいてしまうかのような激しい痛み。
過ぎた日の傷は、幼いウィルが、無垢な瞳で癒してくれた。
ならば、この痛みは?
……もう、きっと癒えない。永遠に。
Princessはそれでも満足だった。
ウィルの幸せのためなら、命すら惜しくない。
魂の痛みくらい、何だというのだ。
母の強さを、今こそ見せるときだ。
Princessは、銀の雨が糸になって降りしきるなかを、まっすぐに前をにらんで歩き続けた。
つづく
そびえたつ城は、雨のもやで頂をかすませ、しっとりとしたたたずまいを見せていた。
降り出した雨に、ウィルが機嫌よく傘をくるくると回している。
今日のお菓子はなにかなぁ、今日のお話はなにかなぁ、お花は咲いているかなぁとウィルは首を右に、左にと傾け、いつもよりも
Princessはウィルの手を離した。
傘を閉じてしゃがみ、ウィルに視線を合わせる。
雨がしとしとと、Princessの髪を、肩を濡らしていく。
「あのね、ウィル、今日はママ、お城には行かないの。ウィルがひとりでいくのよ」
「どうして?」
ウィルが瞬きをする。
「ウィル……パパとセシル様の言うことをよくききなさいね」
「えっ、ここにパパがいるの! ママは会わないの?」
Princessはうなずいた。
「ママは行けないの。今日から、このお城がウィルのおうちになるの。ウィル……元気で……いっぱいかわいがってもらうのよ。そして、みんなに愛される王子に……」
ウィルの髪をPrincessがゆっくりとすきあげれば、さらさらのブロンドが指の隙間から落ちていく。
「ママ? どうして泣くの? ヘンだよ」
Princessにつられて、ウィルの唇もふるふるとゆがみだした。
自分自身の半分がもぎとられるようだった。
まぶしく伸びる我が子の育ちを間近で見ることができない日が訪れるとは、思いもよらなかった。
ウィルはもともと利発だ。
きちんと教育を受ければ、きっと、フィリップを牽引する立派な王に育つだろう。
ウィル、あなたは陽の当たる道を堂々と歩いて。
私のことは忘れていい。
そのほうがウィルにとって幸せなのだから。
Princessは門番に幼子を示した。
「あの、この子をセシル様のもとに。言えばわかります。よろしくお願いします」
頭を下げてウィルを押し付けるように渡したPrincessは、一気に駆け出した。
ウィルが体をしならせて大声をあげる。
「ママっ、ねえ、ママ、待って!」
ウィル、もう私はあなたのママじゃない。
バシャンと水が飛び散る音に振り向くと、傘を投げ捨ててPrincessを追ったウィルが、雨のすべりに足をとられて転んでいる。
あっ、ウィル。
Princessは数歩戻りかけて歩みを止める。
ここで助け起こしてしまったら、もう離せなくなる。
門番があわててウィルを引き上げるが、ウィルは雨と涙でぐしゃぐしゃになった顔で
叫び続けた。
「ママっ、ママ、ママー!」
Princessは耳を押さえる。
この気持ちは、忘れもしない、6年前に城を去ったときと同じだった。
愛する人と別れなければならなかった、あの時と。
胸がえぐられ、背中まで穴があいてしまうかのような激しい痛み。
過ぎた日の傷は、幼いウィルが、無垢な瞳で癒してくれた。
ならば、この痛みは?
……もう、きっと癒えない。永遠に。
Princessはそれでも満足だった。
ウィルの幸せのためなら、命すら惜しくない。
魂の痛みくらい、何だというのだ。
母の強さを、今こそ見せるときだ。
Princessは、銀の雨が糸になって降りしきるなかを、まっすぐに前をにらんで歩き続けた。
つづく
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