ブルー×ブルー(2)/Will.A.Spencer
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包帯でぐるぐる巻きになった左腕を首に下げたまま、空いた手でウィルが王のあごひげをなでている。
「おじいちゃんのおひげ、もふもふだね」
王は、膝にのせたウィルが銀のひげを珍しそうに触れる様子に相好を崩した。
小さなウィルはただその場にいるだけで注目を集め、誰もがその愛らしさに口元を緩める。
「そうか、そうか、もふもふか。本当にウィルくんはかわいいのう」
王がウィルを抱いたまま玉座から立ち上がって、右に左にと体をねじってあやした。
セシルがすっかりウィルに惚れきった王をちらりと見てから、床にひれふすPrincessに視線を移した。
「おひさしぶりね、Princessさん。顔をあげてもらえるかしら」
Princessはおそるおそる頭をおこした。
王と王妃、そしてセシルのまなざしが痛い。
「お呼びだてしてしまって、ごめんなさい。どうしても提案したいことがあったものだから」
セシルは微笑んだ。
高貴な人というのは、怒りをコントロールする能力に優れているのだろうか。
彼女はあくまで穏やかだったが、それが逆にをPrincess震えあがらせた。
夫がほかの女との間に、子どもをもうけていたのだ。
夫の愛が自分にはないと、心を許して告白させたその女が、夫からの愛を受けていた。
自分だったら、とPrincessは思う。
きっと、何度刺しても刺したりない……
セシルをあざわらうつもりも、侮辱するつもりもなかった。
でも、結果は同じことだ。
Princessは再びこうべを垂れた。
「はっきり言うわね」
セシルの言葉が降ってくる。
「ウィルくんを、養子に出して欲しいの。私とウィルで、私たちの子として育てるわ。もちろん、彼はウィルの次の王よ」
「え」
Princessは、床につけた額を上げた。
とまどう彼女に王が諭すように言った。
「愛人との間の子どもを引き取って後継者として育てるのは、われわれの中では珍しくないのだよ、Princessさん」
「愛人……」
Princessは唱えた。
どんなに純粋にPrincessがウィルを愛していようが、ほかから見ればそういう”くくり”になるのだ。
彼らにすれば、王子のたわむれの交わりでもうけた子、それがウィルだった。
「ありがたいことじゃあないか、Princessさん。普通は愛人の子など疎 まれても仕方ないのに、このセシルは自分の子として育てるといっているのだ。ウィルくんのためにもそのほうがいい」
王が、抱いたウィルを2、3度跳ね上げるように揺する。
しかしウィルは賢い瞳を曇らせてPrincessを見つめていた。
「そ、それだけは、それだけは許してください。私にはこの子しかいないんです。取り上げないでください。お願いですっ!」
Princessは早口で訴えて、床がくぼむほどに頭を擦り付けた。
「……私にも……私にも、ウィルしかいなかったわ。でも、Princessさん、あなたが彼を取り上げたの。しかも、こんな風に予告することもなく、突然に」
さめたセシルの声はどこまでも平坦だった。
「そうですが……おっしゃるとおりですが、二度と王家の皆様にご迷惑をおかけしません。どこか遠くに行けとおっしゃるのなら、そうします。ですから……」
Princessは這ったままセシルににじり寄った。
「バカにするのも大概にして」
セシルがぴしゃりと言い放つ。
「わからないの。あなたが子どもを産んだ時点で、十分迷惑なのよ。でも、夫にとってウィルくんが大切なら、妻にとっても同じことよ。だから、こうやってウィルくんを引き取って、未来の王にふさわしいように育てたいと言っているの」
「あ……」
Princessの顔がこわばっていく。
お金の次は、子どもなのか。
ただ、ふたりでつつましく暮らしたいだけなのに。
しかし、セシルの言うことにはなんの不条理もなかった。
夫の不貞を許し、その子を王として育て上げると彼女は言っている。
セシルはむしろ、賞賛に値する申し出をしているのだ。
わからない、私にはなにがいいのか…
Princessはうずくまった。
「みんなでママをいじめるな!」
ウィルが、王の腕から身を躍らせた。
Princessと玉座の間に片手だけをいっぱいに広げたウィルが立ちはだかり、つぶらなブルーの瞳で、その場にいる者たちを睨みつける。
「ウィルくん、違うよ、いじめてはおらんよ」
王がニコニコと取りつくろうとするが、ウィルは聞く耳をもたない。
「うそだっ!」
子どもは不思議だった。
言葉の意味がわからなくても、母親の胸のひだのふるえを感じ取る。
Princessが喜べば笑い、涙すれば不安げに見つめ、怒れば共に不機嫌になった。
「うそだっ、いじめてるよ!だって……だって、ママ、泣いてるもぉぉんっ!」
ウィルの青い目にじわじわと透明な涙がたまって、うわーんと高い天井をあおいで泣き出した。
泣きながらもPrincessをかばって広げた腕を下ろそうとしない我が子がいとおしい。
「ごめんね、ウィル。ほら、ママは大丈夫だよ」
Princessはウィルの肩に両手を置いて笑って見せた。
ホントに?とウィルが疑うように上目遣いに見つめる。
「もちろん。さ、おうち、かえろっか」
Princessは、立ち上がって王たちに静かに頭をさげた。
城の外はもう太陽が砕けはじめ、みかん色の残照がふたりの行く道を照らしていた。
けなげに母をおもって流したウィルの涙は、まだ彼の長いまつげを濡らしている。
その小さな水滴は、夕日を受けて、一粒また一粒ときらきらと輝きながら空へと帰っていく。
Princessは、握っていた手のひらが、いつの間にか小さなウィルに握り返されていることに気がついた。
幼子の力強いぬくもりが、最愛のウィルの腕とリンクする。
愛してる。ふたりとも……愛してる。
Princessは一気に熱くなった目頭をウィルに気付かれないように、そっとおさえた。
「おじいちゃんのおひげ、もふもふだね」
王は、膝にのせたウィルが銀のひげを珍しそうに触れる様子に相好を崩した。
小さなウィルはただその場にいるだけで注目を集め、誰もがその愛らしさに口元を緩める。
「そうか、そうか、もふもふか。本当にウィルくんはかわいいのう」
王がウィルを抱いたまま玉座から立ち上がって、右に左にと体をねじってあやした。
セシルがすっかりウィルに惚れきった王をちらりと見てから、床にひれふすPrincessに視線を移した。
「おひさしぶりね、Princessさん。顔をあげてもらえるかしら」
Princessはおそるおそる頭をおこした。
王と王妃、そしてセシルのまなざしが痛い。
「お呼びだてしてしまって、ごめんなさい。どうしても提案したいことがあったものだから」
セシルは微笑んだ。
高貴な人というのは、怒りをコントロールする能力に優れているのだろうか。
彼女はあくまで穏やかだったが、それが逆にをPrincess震えあがらせた。
夫がほかの女との間に、子どもをもうけていたのだ。
夫の愛が自分にはないと、心を許して告白させたその女が、夫からの愛を受けていた。
自分だったら、とPrincessは思う。
きっと、何度刺しても刺したりない……
セシルをあざわらうつもりも、侮辱するつもりもなかった。
でも、結果は同じことだ。
Princessは再びこうべを垂れた。
「はっきり言うわね」
セシルの言葉が降ってくる。
「ウィルくんを、養子に出して欲しいの。私とウィルで、私たちの子として育てるわ。もちろん、彼はウィルの次の王よ」
「え」
Princessは、床につけた額を上げた。
とまどう彼女に王が諭すように言った。
「愛人との間の子どもを引き取って後継者として育てるのは、われわれの中では珍しくないのだよ、Princessさん」
「愛人……」
Princessは唱えた。
どんなに純粋にPrincessがウィルを愛していようが、ほかから見ればそういう”くくり”になるのだ。
彼らにすれば、王子のたわむれの交わりでもうけた子、それがウィルだった。
「ありがたいことじゃあないか、Princessさん。普通は愛人の子など
王が、抱いたウィルを2、3度跳ね上げるように揺する。
しかしウィルは賢い瞳を曇らせてPrincessを見つめていた。
「そ、それだけは、それだけは許してください。私にはこの子しかいないんです。取り上げないでください。お願いですっ!」
Princessは早口で訴えて、床がくぼむほどに頭を擦り付けた。
「……私にも……私にも、ウィルしかいなかったわ。でも、Princessさん、あなたが彼を取り上げたの。しかも、こんな風に予告することもなく、突然に」
さめたセシルの声はどこまでも平坦だった。
「そうですが……おっしゃるとおりですが、二度と王家の皆様にご迷惑をおかけしません。どこか遠くに行けとおっしゃるのなら、そうします。ですから……」
Princessは這ったままセシルににじり寄った。
「バカにするのも大概にして」
セシルがぴしゃりと言い放つ。
「わからないの。あなたが子どもを産んだ時点で、十分迷惑なのよ。でも、夫にとってウィルくんが大切なら、妻にとっても同じことよ。だから、こうやってウィルくんを引き取って、未来の王にふさわしいように育てたいと言っているの」
「あ……」
Princessの顔がこわばっていく。
お金の次は、子どもなのか。
ただ、ふたりでつつましく暮らしたいだけなのに。
しかし、セシルの言うことにはなんの不条理もなかった。
夫の不貞を許し、その子を王として育て上げると彼女は言っている。
セシルはむしろ、賞賛に値する申し出をしているのだ。
わからない、私にはなにがいいのか…
Princessはうずくまった。
「みんなでママをいじめるな!」
ウィルが、王の腕から身を躍らせた。
Princessと玉座の間に片手だけをいっぱいに広げたウィルが立ちはだかり、つぶらなブルーの瞳で、その場にいる者たちを睨みつける。
「ウィルくん、違うよ、いじめてはおらんよ」
王がニコニコと取りつくろうとするが、ウィルは聞く耳をもたない。
「うそだっ!」
子どもは不思議だった。
言葉の意味がわからなくても、母親の胸のひだのふるえを感じ取る。
Princessが喜べば笑い、涙すれば不安げに見つめ、怒れば共に不機嫌になった。
「うそだっ、いじめてるよ!だって……だって、ママ、泣いてるもぉぉんっ!」
ウィルの青い目にじわじわと透明な涙がたまって、うわーんと高い天井をあおいで泣き出した。
泣きながらもPrincessをかばって広げた腕を下ろそうとしない我が子がいとおしい。
「ごめんね、ウィル。ほら、ママは大丈夫だよ」
Princessはウィルの肩に両手を置いて笑って見せた。
ホントに?とウィルが疑うように上目遣いに見つめる。
「もちろん。さ、おうち、かえろっか」
Princessは、立ち上がって王たちに静かに頭をさげた。
城の外はもう太陽が砕けはじめ、みかん色の残照がふたりの行く道を照らしていた。
けなげに母をおもって流したウィルの涙は、まだ彼の長いまつげを濡らしている。
その小さな水滴は、夕日を受けて、一粒また一粒ときらきらと輝きながら空へと帰っていく。
Princessは、握っていた手のひらが、いつの間にか小さなウィルに握り返されていることに気がついた。
幼子の力強いぬくもりが、最愛のウィルの腕とリンクする。
愛してる。ふたりとも……愛してる。
Princessは一気に熱くなった目頭をウィルに気付かれないように、そっとおさえた。