ブルー×ブルー(2)/Will.A.Spencer
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「Princess様! ……ああ、やはり……ウィル様、ウィル様のご容体は!」
廊下を駆けてきたクロードが、唇を噛みしめた。
落ち着きはらったいつものクロードらしからぬ動揺が彼の視界を狭くしていたのか、
それともウィルが気配を消していたのか。
クロード、と呼びかけるウィルの低い声に、彼の肩が小さく動いた。
「……ウィル様」
「おまえ、俺を裏切っていたのか?」
蒼く鋭い閃光がクロードを刺し貫いた。
一触即発、凍りついたふたりにPrincessが割りいる。
「ウィル王子、違うんです。クロードさんは私たちをかばってくれたんです。ウィルが生まれるまで、王様たちには黙っていてくれました。ウィル王子に伝えなかったのも、王家を守るためです。だから……」
手術室の照明が、ひとつふたつと消され、あわただしく触れ合う器材の金属音が漏れ聞こえた。
「あ……終わった?」
3人の視線が自動ドアに注がれる。
互いの息遣いが聞こえるほどの静寂の中、ドアがひらいて、ストレッチャーが引き出された。
「ウィル……ウィル、ああ……」
Princessがのぞきこんで、そっと我が子の頬をなでる。
「ドクター、この子の容体は」
横目で幼子の様子をうかがいながら、ウィルが尋ねた。
「出血はありましたが、止まりましたので大丈夫です。それから、骨折の処置をしました。あとは日がたてば徐々に回復していくでしょう」
ウィルが軽く息を吐いて、頭を下げた。
「よかっ……」
Princessは安堵のつぶやきを終えないうちに、膝から崩れ落ちる。
「Princess様!しっかり。さ、こちらへ」
ウィルより先にクロードに支えられて、Princessは長いすにもたれた。
愛する我が子を失う恐怖から解き放たれたPrincessは、わきあがる虚脱感のままに手足を投げ出す。
全身の毛穴から疲労がじわじわと染み出して、うすい衣となってPrincessをおおった。
「Princess、今夜は俺も付き添う」
クロードを引き剥がすようにして肩に置かれたウィルの手のひらが、温かく頼もしい。
「ウィル様、それはなりません」
クロードが眉を寄せた。さすがのクロードも、この状況下では声音も遠慮がちだった。
「明日はネルヴァンで会議がございます。これから向かいましても間に合うかどうか」
「こんなときですら公務、か?」
ウィルがため息混じりに片方の口角をあげる。
「ご存知のとおり視察もかねた2か月の長いものですし、ネルヴァンとはデリケートなやりとりもございます。ウィル様でなければならないご公務です。どうかお願いいたします」
クロードが深々と頭を下げた。
塗装がはがれた廊下のタイルを凝視して主からの返事を待つ。
自らの口から出した残酷な申し出に、主の顔がどれほどに歪んでいるかと思えば顔をあげられなかった。
「ウィル王子、行ってください。あの子も、もう大丈夫みたいですし、私、ひとりでも平気ですから」
Princessはうなずきながら笑顔を向けた。そうするしかなかった。
ウィルのブルーの瞳が深みを増して揺れる。
「Princess、すまない。また連絡する」
公人としての責務がある。だが、そのために最愛の女性 を傷つけ、放り出すばかり。自分の語る愛は、なんと軽いのだろう。
やり場のないいらだちがウィルの胸の澱 となって、ただ、つのっていく。
「いくぞ、クロード」
すばやく背中を向けた主に、クロードがもう一段腰を折ってから付き従った。
いつの間にか、強がる癖がついていたのかもしれない。
Princessは長い廊下に消えていくウィルの後姿をぼんやりと追う。
6年前、命がこの身に宿ったとき、なにがあってもこの子をひとりで守り抜くと誓った。
だれも助けてはくれない。
頼ることもない。
それでいい。
決して崩れない覚悟を決めたはずだった。
しかし、愛する彼を目にとらえてしまえば、張りつめていた心はあっけなくほどけていく。
身にまとい続けた寸分のすきもない鎧を脱ぎ捨て、彼の胸に飛び込みたかった。
どうしたらいいの?
次はどうしたらいいの、ねえ、教えて。
寄りかかりたい、正しい道を示して欲しいとすがりたくなる。
Princessは首を振った。
ウィルの負担にだけはなるまいと、今まで突っ走ってきたのだ。
ここで弱音を吐いてしまったら意味がない。
ウィルがさっきまでいた長いすに、彼の影が残っていた。
ウィルはどうして自分に寄り添い、抱きしめてはくれなかったのだろう。
「俺は、永遠にキミだけを愛する」
あの日のウィルの声が鮮やかに胸に残っていた。
歳月はウィルの心を変えたのだろうか。
Princessにとっては昨日のことのように確かな記憶でも、
ウィルにとっては過ぎ去った想い出にしかすぎないのかもしれない。
今は瞬時に過去になり、過去は過去として、より遠い過去になっていく。
たぐり寄せられないほどの遥かな記憶にいつまでもしがみつく自分のほうが、滑稽だった。
Princessは窓にうつる群青色の夜空を見上げた。
期待していたわけじゃない。でも……
闇夜のなかで一瞬ともった光には、誰もが目がくらむものだ。
ただ、そういうものなのだとPrincessは自らに言い聞かせるしかできなかった。
廊下を駆けてきたクロードが、唇を噛みしめた。
落ち着きはらったいつものクロードらしからぬ動揺が彼の視界を狭くしていたのか、
それともウィルが気配を消していたのか。
クロード、と呼びかけるウィルの低い声に、彼の肩が小さく動いた。
「……ウィル様」
「おまえ、俺を裏切っていたのか?」
蒼く鋭い閃光がクロードを刺し貫いた。
一触即発、凍りついたふたりにPrincessが割りいる。
「ウィル王子、違うんです。クロードさんは私たちをかばってくれたんです。ウィルが生まれるまで、王様たちには黙っていてくれました。ウィル王子に伝えなかったのも、王家を守るためです。だから……」
手術室の照明が、ひとつふたつと消され、あわただしく触れ合う器材の金属音が漏れ聞こえた。
「あ……終わった?」
3人の視線が自動ドアに注がれる。
互いの息遣いが聞こえるほどの静寂の中、ドアがひらいて、ストレッチャーが引き出された。
「ウィル……ウィル、ああ……」
Princessがのぞきこんで、そっと我が子の頬をなでる。
「ドクター、この子の容体は」
横目で幼子の様子をうかがいながら、ウィルが尋ねた。
「出血はありましたが、止まりましたので大丈夫です。それから、骨折の処置をしました。あとは日がたてば徐々に回復していくでしょう」
ウィルが軽く息を吐いて、頭を下げた。
「よかっ……」
Princessは安堵のつぶやきを終えないうちに、膝から崩れ落ちる。
「Princess様!しっかり。さ、こちらへ」
ウィルより先にクロードに支えられて、Princessは長いすにもたれた。
愛する我が子を失う恐怖から解き放たれたPrincessは、わきあがる虚脱感のままに手足を投げ出す。
全身の毛穴から疲労がじわじわと染み出して、うすい衣となってPrincessをおおった。
「Princess、今夜は俺も付き添う」
クロードを引き剥がすようにして肩に置かれたウィルの手のひらが、温かく頼もしい。
「ウィル様、それはなりません」
クロードが眉を寄せた。さすがのクロードも、この状況下では声音も遠慮がちだった。
「明日はネルヴァンで会議がございます。これから向かいましても間に合うかどうか」
「こんなときですら公務、か?」
ウィルがため息混じりに片方の口角をあげる。
「ご存知のとおり視察もかねた2か月の長いものですし、ネルヴァンとはデリケートなやりとりもございます。ウィル様でなければならないご公務です。どうかお願いいたします」
クロードが深々と頭を下げた。
塗装がはがれた廊下のタイルを凝視して主からの返事を待つ。
自らの口から出した残酷な申し出に、主の顔がどれほどに歪んでいるかと思えば顔をあげられなかった。
「ウィル王子、行ってください。あの子も、もう大丈夫みたいですし、私、ひとりでも平気ですから」
Princessはうなずきながら笑顔を向けた。そうするしかなかった。
ウィルのブルーの瞳が深みを増して揺れる。
「Princess、すまない。また連絡する」
公人としての責務がある。だが、そのために最愛の
やり場のないいらだちがウィルの胸の
「いくぞ、クロード」
すばやく背中を向けた主に、クロードがもう一段腰を折ってから付き従った。
いつの間にか、強がる癖がついていたのかもしれない。
Princessは長い廊下に消えていくウィルの後姿をぼんやりと追う。
6年前、命がこの身に宿ったとき、なにがあってもこの子をひとりで守り抜くと誓った。
だれも助けてはくれない。
頼ることもない。
それでいい。
決して崩れない覚悟を決めたはずだった。
しかし、愛する彼を目にとらえてしまえば、張りつめていた心はあっけなくほどけていく。
身にまとい続けた寸分のすきもない鎧を脱ぎ捨て、彼の胸に飛び込みたかった。
どうしたらいいの?
次はどうしたらいいの、ねえ、教えて。
寄りかかりたい、正しい道を示して欲しいとすがりたくなる。
Princessは首を振った。
ウィルの負担にだけはなるまいと、今まで突っ走ってきたのだ。
ここで弱音を吐いてしまったら意味がない。
ウィルがさっきまでいた長いすに、彼の影が残っていた。
ウィルはどうして自分に寄り添い、抱きしめてはくれなかったのだろう。
「俺は、永遠にキミだけを愛する」
あの日のウィルの声が鮮やかに胸に残っていた。
歳月はウィルの心を変えたのだろうか。
Princessにとっては昨日のことのように確かな記憶でも、
ウィルにとっては過ぎ去った想い出にしかすぎないのかもしれない。
今は瞬時に過去になり、過去は過去として、より遠い過去になっていく。
たぐり寄せられないほどの遥かな記憶にいつまでもしがみつく自分のほうが、滑稽だった。
Princessは窓にうつる群青色の夜空を見上げた。
期待していたわけじゃない。でも……
闇夜のなかで一瞬ともった光には、誰もが目がくらむものだ。
ただ、そういうものなのだとPrincessは自らに言い聞かせるしかできなかった。