ブルー×ブルー(1)/Will.A.Spencer
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早咲きのブルーベルにPrincessは足をとめた。
街角の花屋に揺れる花を見かけるたびに買い求め、6度目になる。
……もうブルーベルの季節かあ。
咲きみだれたブルーベルの中をPrincessを抱きしめたまま転がったウィルの温かい腕。
声をたてて笑うウィルの笑顔。
鮮やかな記憶は、まるで昨日のことのようだった。
ウィル王子……わたし、今でもあなたを……
胸の苦しさにPrincessは、はずしたことのないブルーベルのネックレスを握りしめた。
「あれっ、このお花、ママのネックレスと一緒だ」
ウィルのくりくりとした目がもっと丸くなる。
「うん。このお花はパパとママの想い出のお花なの。ネックレスもパパがくれたんだよ」
「そうなの? じゃあ、このお花、買お!」
Princessとウィルは同時にうなずいて笑いあう。
こんななんでもない瞬間が、さっきまで痛んでいたPrincessの胸の傷をあっという間に癒してくれる。
ブルーベルの花束をかかえて、ウィルがPrincessの数歩先を歩く。
雨上がりの歩道にはいくつもの水溜りができ、青い空をうつしとっていた。
ウィルが水溜りをわざと踏みしめて、「ママ、お空を踏み踏みできるよ」と嬉しそうにしている。
ノートルダム教会に差しかかると、教会を囲むように人だかりができていた。
観光地としては、さして有名でもないこの教会にこれだけ人が集まるのは珍しい。
Princessは先をゆくウィルが気になって、足早に人ごみを通り抜ける。
「フィリップのウィル王子がお忍びで立ち寄られているそうだよ」
「ここのマリア様は願い事を叶えてくださるありがたいおかただからね」
Princessの歩みがぴたりと止まった。
人々の話に神経を研ぎ澄ます。
いま、ウィル王子って……
「ウィル王子みたいに高貴なおかたでも、神頼みじゃないとかなわないことがあるのかね」
「まあ、ご結婚なさって6年たってるのにお子様に恵まれていないから。その願掛けなんじゃないか?」
Princessはふらふらと人をかき分けて前に進んだ。
「ねえ、ママったらどうしたの」
戻ってきたウィルが、手を引くがPrincessはぼんやりとしたままだ。
Princessの視線は、教会の扉ただ一点に注がれる。
観音開きの片方がゆっくり、細くひらくとその隙間からすべり出た、しなやかな人。
午後の陽差しにきらめく見事なブロンド。
集まる人々に一瞬驚いて見開かれた、ブルーの瞳。
6年前、もう二度と会うこともかなわないと別れた最愛の。
……ウィル王子。
朝もやにけむる城の窓辺にたたずむ彼を目に焼き付けた、あの日のままのウィルが、そこに。
Princessの体が小刻みに震えだす。
懐かしいくらいのときが経っているのに、Princessの胸に息づく彼への愛は色あせることなく、今も強く、激しく燃えていた。
その想いの強さに、Princessをおおう体という殻がたえきれずにバーストしそうになる。
ウィルは、カメラのフラッシュを避けるようにうつむいて、白い階段を一気に駆け下りた。
「ママっ、あれ、パパだよっ。お写真と同じ、パパだよっ。ね、早くしないと行っちゃうよ!」
ウィルが彼を指さして、Princessの腕を引く。
ウィルを乗せた黒塗りの車が土けむりをあげて急発進した。
「あっ、だめっ、ウィル!」
Princessの腕を握る小さな手が離れた。
「パパーっ、パパーっ!!」
飛び出したウィルを引き止めるPrincessの腕が虚空をつかむ。
鈍い音と同時に、幼子の体が宙を舞った。
「ウィルーっっ!」
青い空に、ブルーベルの花束がばらばらと散っていく。
つづく
街角の花屋に揺れる花を見かけるたびに買い求め、6度目になる。
……もうブルーベルの季節かあ。
咲きみだれたブルーベルの中をPrincessを抱きしめたまま転がったウィルの温かい腕。
声をたてて笑うウィルの笑顔。
鮮やかな記憶は、まるで昨日のことのようだった。
ウィル王子……わたし、今でもあなたを……
胸の苦しさにPrincessは、はずしたことのないブルーベルのネックレスを握りしめた。
「あれっ、このお花、ママのネックレスと一緒だ」
ウィルのくりくりとした目がもっと丸くなる。
「うん。このお花はパパとママの想い出のお花なの。ネックレスもパパがくれたんだよ」
「そうなの? じゃあ、このお花、買お!」
Princessとウィルは同時にうなずいて笑いあう。
こんななんでもない瞬間が、さっきまで痛んでいたPrincessの胸の傷をあっという間に癒してくれる。
ブルーベルの花束をかかえて、ウィルがPrincessの数歩先を歩く。
雨上がりの歩道にはいくつもの水溜りができ、青い空をうつしとっていた。
ウィルが水溜りをわざと踏みしめて、「ママ、お空を踏み踏みできるよ」と嬉しそうにしている。
ノートルダム教会に差しかかると、教会を囲むように人だかりができていた。
観光地としては、さして有名でもないこの教会にこれだけ人が集まるのは珍しい。
Princessは先をゆくウィルが気になって、足早に人ごみを通り抜ける。
「フィリップのウィル王子がお忍びで立ち寄られているそうだよ」
「ここのマリア様は願い事を叶えてくださるありがたいおかただからね」
Princessの歩みがぴたりと止まった。
人々の話に神経を研ぎ澄ます。
いま、ウィル王子って……
「ウィル王子みたいに高貴なおかたでも、神頼みじゃないとかなわないことがあるのかね」
「まあ、ご結婚なさって6年たってるのにお子様に恵まれていないから。その願掛けなんじゃないか?」
Princessはふらふらと人をかき分けて前に進んだ。
「ねえ、ママったらどうしたの」
戻ってきたウィルが、手を引くがPrincessはぼんやりとしたままだ。
Princessの視線は、教会の扉ただ一点に注がれる。
観音開きの片方がゆっくり、細くひらくとその隙間からすべり出た、しなやかな人。
午後の陽差しにきらめく見事なブロンド。
集まる人々に一瞬驚いて見開かれた、ブルーの瞳。
6年前、もう二度と会うこともかなわないと別れた最愛の。
……ウィル王子。
朝もやにけむる城の窓辺にたたずむ彼を目に焼き付けた、あの日のままのウィルが、そこに。
Princessの体が小刻みに震えだす。
懐かしいくらいのときが経っているのに、Princessの胸に息づく彼への愛は色あせることなく、今も強く、激しく燃えていた。
その想いの強さに、Princessをおおう体という殻がたえきれずにバーストしそうになる。
ウィルは、カメラのフラッシュを避けるようにうつむいて、白い階段を一気に駆け下りた。
「ママっ、あれ、パパだよっ。お写真と同じ、パパだよっ。ね、早くしないと行っちゃうよ!」
ウィルが彼を指さして、Princessの腕を引く。
ウィルを乗せた黒塗りの車が土けむりをあげて急発進した。
「あっ、だめっ、ウィル!」
Princessの腕を握る小さな手が離れた。
「パパーっ、パパーっ!!」
飛び出したウィルを引き止めるPrincessの腕が虚空をつかむ。
鈍い音と同時に、幼子の体が宙を舞った。
「ウィルーっっ!」
青い空に、ブルーベルの花束がばらばらと散っていく。
つづく
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