ブルー×ブルー(1)/Will.A.Spencer
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あの日、病院から微笑みを浮かべて出てきたPrincessに声をかけると、彼女の顔はみるみる青ざめた。
「ク、クロードさん?」
すぐに、どうしてクロードがそこにいるか、わけがわかったようだった。
ただお互いに立ち尽くしたあと、無言で背を向けたクロードの前をふさぐようにまわりこんだPrincessは、彼の両腕を掴んだ。
「……言わないで。見なかったことにして」
頼むというより脅しているような低い声音に、クロードは驚いた。
あの、内気だったPrincessとは思えなかった。
だが、できない相談だ。
主とほんの少しでも接点のあった女性たちに間違いがおこっていないか確認するのも執事の仕事だった。
「それはできません」
きっぱりと言い放ち、掴まれた腕を引き剥がした。
しかし、彼女はさらにクロードの行く手に立ちはだかって、今度は爪がくいこむほど強く両手をつかんできた。
道ゆく人が、好奇のまなざしを向ける。
「ずっとじゃなくていいです。生まれるまで黙っていて。王家に迷惑はかけません。赤ちゃんまで、私から奪わないで」
いつもの穏やかなPrincessとは違う、鬼気迫る表情に、クロードは気おされた。
Princessは両手でおなかをそっと包んだ。
「お願い。この子、きっと生まれたがってる」
慈しみと強さに満ちたPrincessの顔は、もうすでに母のそれだった。
執事としての命を賭けたといっても過言ではないその秘密を、クロードは数ヶ月胸に秘めた。
小さなウィルの誕生を報告したとき、もちろん、クロードは王から尋常でない叱責を受け、辞職を迫られた。
しかし、ほかにあっては完璧な仕事ぶりを見せるクロードを、王の権限でやめさせるとなれば、本来の主、ウィルにいぶかしがられると判断したのだろう。
クロードを排除するより、ウィルの鋭い疑念を怖れた王は、彼を執事の職にとどまらせた。
なぜ、乞われるままにゆきの妊娠をだれにも告げなかったのか、今でもクロードにはわからない。
アパルトマンの窓にかかったカーテンが揺れる。
カーテンのすそから顔をだしたウィルが、クロードにひらひらと小さな手を振った。
口をパクパクと一言づつ「ま・た・き・て・ね」とひらいてみせる。
自分がアパルトマンにくるのは王家から良くない知らせを持ってくるときだけなのにと、クロードの良心が痛んだ。
子どもの真っ白な心に比べて、大人たちはなんとけがれているのだろう。
クロードは、軽く手を振り返す。
これでよかったのだ。
自分の選択は間違っていなかったと、クロードは確かに思う。
胸に揺れる温かいともしびを感じながら、クロードは、青を深める夜の街に車を走らせた。
「ク、クロードさん?」
すぐに、どうしてクロードがそこにいるか、わけがわかったようだった。
ただお互いに立ち尽くしたあと、無言で背を向けたクロードの前をふさぐようにまわりこんだPrincessは、彼の両腕を掴んだ。
「……言わないで。見なかったことにして」
頼むというより脅しているような低い声音に、クロードは驚いた。
あの、内気だったPrincessとは思えなかった。
だが、できない相談だ。
主とほんの少しでも接点のあった女性たちに間違いがおこっていないか確認するのも執事の仕事だった。
「それはできません」
きっぱりと言い放ち、掴まれた腕を引き剥がした。
しかし、彼女はさらにクロードの行く手に立ちはだかって、今度は爪がくいこむほど強く両手をつかんできた。
道ゆく人が、好奇のまなざしを向ける。
「ずっとじゃなくていいです。生まれるまで黙っていて。王家に迷惑はかけません。赤ちゃんまで、私から奪わないで」
いつもの穏やかなPrincessとは違う、鬼気迫る表情に、クロードは気おされた。
Princessは両手でおなかをそっと包んだ。
「お願い。この子、きっと生まれたがってる」
慈しみと強さに満ちたPrincessの顔は、もうすでに母のそれだった。
執事としての命を賭けたといっても過言ではないその秘密を、クロードは数ヶ月胸に秘めた。
小さなウィルの誕生を報告したとき、もちろん、クロードは王から尋常でない叱責を受け、辞職を迫られた。
しかし、ほかにあっては完璧な仕事ぶりを見せるクロードを、王の権限でやめさせるとなれば、本来の主、ウィルにいぶかしがられると判断したのだろう。
クロードを排除するより、ウィルの鋭い疑念を怖れた王は、彼を執事の職にとどまらせた。
なぜ、乞われるままにゆきの妊娠をだれにも告げなかったのか、今でもクロードにはわからない。
アパルトマンの窓にかかったカーテンが揺れる。
カーテンのすそから顔をだしたウィルが、クロードにひらひらと小さな手を振った。
口をパクパクと一言づつ「ま・た・き・て・ね」とひらいてみせる。
自分がアパルトマンにくるのは王家から良くない知らせを持ってくるときだけなのにと、クロードの良心が痛んだ。
子どもの真っ白な心に比べて、大人たちはなんとけがれているのだろう。
クロードは、軽く手を振り返す。
これでよかったのだ。
自分の選択は間違っていなかったと、クロードは確かに思う。
胸に揺れる温かいともしびを感じながら、クロードは、青を深める夜の街に車を走らせた。