Heart to Heart/Edward=Levainçois
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Princessはエドワードの名前を叫んで、門を揺すった。
「エド! 私です、Princessです! エド!」
衛兵が、見張り小屋で壁掛け電話の受話器をとっている。
「夜分に申し訳ありません。エドワード様と約束があるという女が来ておりまして。女の風体ですか? 黒髪で、アジア系のようですが……ああ!あの女、また騒いで……ん? ルイス様? ……切ってしまわれた」
Princessは両脇を衛兵に抱え込まれた。
こうなっては、誰がどうみてもPrincessのほうが不審者だ。
「痛いっ。離してください、ウソなんかついていません!」
「まだ言うか、こいつ……」
背の高いふたりに引き上げられて、Princessの両足は地面から浮いた。
「手間をかけさせやがって。駅の近くにでも、捨ててやる」
「お願い、エドに……エドに会いたいだけなんです!」
静寂の闇にPrincessの声が響きわたる。
不意に、正門の脇の通用門があいてルイスが飛び出してきた。
深夜であっても、ルイスの執事としての身なりに乱れはない。
「やはり……Princess様」
ルイスが姿勢を正した。
「そのかたを離しなさい。エドワード様の大切なお方で間違いありません」
ふたりの衛兵が、顔を見合わせて動きをとめた。
はやく、とルイスに促され、彼らははじかれたようにPrincessに絡めた腕をといた。
「ルイスさん」
門を照らす冴え冴えとした明かりがPrincessの泣き顔を浮かび上がらせていた。
もみあったせいで、チョコレートの箱は地面に落ちて、美しくかたどったバラは粉々に砕け、飛び散っている。
「ルイスさん、私、約束したんです。エドと。14日は会うって……なのに……」
「はい。存じ上げております」
ルイスは、彼の上着を脱いでPrincessの肩にかけ、目を伏せた。
寒空にコートを着ることもなしにここまでやってきた自分にすら、Princessは気付いていなかった。
「エドワード様は、まだお戻りになっていません」
ルイスの長いまつ毛が、申し訳なさそうに揺れている。
その時、街から続く直線の道を照らすヘッドライトがふたつの点となって見えた。
ライトはみるみる迫り、シルバーの車が前のめりになって門の間近に停まる。
運転席のドアを開けて長身をかがめ、降り立ったのは、エドワードだ。
涙をながしたままのPrincessと、困惑したルイスを見れば、この場で何がおきていたかは容易に想像できたのだろう。
「Princess、本当にすまない。連絡しようとしたのだが、ナタリーにスマホをとりあげられてしまって」
エドワードの車からは、華やかなコロンの香りがただよっていた。
助手席には以前Princessが買えなかったブランドのロゴがはいった包みと、高級チョコの箱が置かれている。
さっきまで、ナタリーがここにいた。
愛する彼の、隣に。
エドワードは自ら車を走らせて、ほかの女性のもとに行ってしまった。
そして、Princessが買いたくても買えなかった時計とチョコレートをもらって、ふたりきりの時間を過ごしていたのだ。
Princessが、悲しみにくれている間にも。
Princessの唇が歪む。
「ナタリーさんが悩んでるからって」
Princessは濡れる瞳をエドワードに向けた。
「ナタリーさんが悩んでるからって、なんでエドが駆けつけるんですか。それって、エドがしなくちゃならないことなんですか。おかしいです」
不満が熱くたぎっていくのは、もう止められなかった。
「いや、でも、放ってはおけないよ。彼女は僕の妹みたいなものだ」
エドワードはPrincessのいうことが理解できないといった様子で瞬きをする。
「妹? エドでもそんな陳腐 な男の人の言い訳、使うんですね。驚きです」
「……! Princess、どうしたんだい?」
嫌味をふくんだ物言いに困惑したエドワードの瞳は、どこまでも澄んでいた。
エドワードは誠実な人だ。
彼のしたことは間違っていない。
ただ、自分の助けを求める人の、手のひらをとっただけだ。
でも、今日は。
今日は、その優しさが許せない。
「私とずっと会えなかったのって、ナタリーさんと約束をしていたからっておっしゃってましたよね」
「ああ。予定もないのに断るのが申し訳なくてね。もちろん、キミとの約束が先にあれば、キミと会っていた」
「……っ!」
体中の毛穴が沸騰する。
「どうして私がナタリーさんとエドの休日を取り合わないとならないのですか! なんですか、その先着順って」
本当なら毎日だってエドワードに会いたい。
休日も、ゆっくり休みたいのかもしれないと彼を思いやって無理を言わなかっただけだ。
だまって想いを封じ込めた自分のほうが、どうしてこんなに心をかき乱されなければならないのか。
Princessは震えた。何かがおかしかった。
「エドは……私のことを軽んじておいでですか。私はどう扱ってもいいって。私には、身分も、地位も、美しさもなくて、ナタリーさんにはあるから?」
Princessの怒りは、まとう空気を数度、上げていた。
エドワードがPrincessに歩み寄る。
「違う、Princess。全部誤解だ。僕の話を聞いてほしい」
ぱりっと、エドワードの足が何かを踏んだ。
彼が視線を落とせば、無残にくだけたバラのチョコレートがさらに粉々に崩れている。
身をかがめたエドワードは、そっと花びらのかけらを拾った。
いくつかを合わせてみると、繊細なバラをかたどったものなのだとわかる。
「Princess、これ……」
「もう、いいです。そんなもの!」
お互いに好きなら、どんな苦難も手を取り合って越えられると信じていた。
だけど、信じていたのが自分だけだったら?
何度も名前を呼ぶエドワードの声を背に、Princessは星がまばらに散る夜を駆けた。
「エド! 私です、Princessです! エド!」
衛兵が、見張り小屋で壁掛け電話の受話器をとっている。
「夜分に申し訳ありません。エドワード様と約束があるという女が来ておりまして。女の風体ですか? 黒髪で、アジア系のようですが……ああ!あの女、また騒いで……ん? ルイス様? ……切ってしまわれた」
Princessは両脇を衛兵に抱え込まれた。
こうなっては、誰がどうみてもPrincessのほうが不審者だ。
「痛いっ。離してください、ウソなんかついていません!」
「まだ言うか、こいつ……」
背の高いふたりに引き上げられて、Princessの両足は地面から浮いた。
「手間をかけさせやがって。駅の近くにでも、捨ててやる」
「お願い、エドに……エドに会いたいだけなんです!」
静寂の闇にPrincessの声が響きわたる。
不意に、正門の脇の通用門があいてルイスが飛び出してきた。
深夜であっても、ルイスの執事としての身なりに乱れはない。
「やはり……Princess様」
ルイスが姿勢を正した。
「そのかたを離しなさい。エドワード様の大切なお方で間違いありません」
ふたりの衛兵が、顔を見合わせて動きをとめた。
はやく、とルイスに促され、彼らははじかれたようにPrincessに絡めた腕をといた。
「ルイスさん」
門を照らす冴え冴えとした明かりがPrincessの泣き顔を浮かび上がらせていた。
もみあったせいで、チョコレートの箱は地面に落ちて、美しくかたどったバラは粉々に砕け、飛び散っている。
「ルイスさん、私、約束したんです。エドと。14日は会うって……なのに……」
「はい。存じ上げております」
ルイスは、彼の上着を脱いでPrincessの肩にかけ、目を伏せた。
寒空にコートを着ることもなしにここまでやってきた自分にすら、Princessは気付いていなかった。
「エドワード様は、まだお戻りになっていません」
ルイスの長いまつ毛が、申し訳なさそうに揺れている。
その時、街から続く直線の道を照らすヘッドライトがふたつの点となって見えた。
ライトはみるみる迫り、シルバーの車が前のめりになって門の間近に停まる。
運転席のドアを開けて長身をかがめ、降り立ったのは、エドワードだ。
涙をながしたままのPrincessと、困惑したルイスを見れば、この場で何がおきていたかは容易に想像できたのだろう。
「Princess、本当にすまない。連絡しようとしたのだが、ナタリーにスマホをとりあげられてしまって」
エドワードの車からは、華やかなコロンの香りがただよっていた。
助手席には以前Princessが買えなかったブランドのロゴがはいった包みと、高級チョコの箱が置かれている。
さっきまで、ナタリーがここにいた。
愛する彼の、隣に。
エドワードは自ら車を走らせて、ほかの女性のもとに行ってしまった。
そして、Princessが買いたくても買えなかった時計とチョコレートをもらって、ふたりきりの時間を過ごしていたのだ。
Princessが、悲しみにくれている間にも。
Princessの唇が歪む。
「ナタリーさんが悩んでるからって」
Princessは濡れる瞳をエドワードに向けた。
「ナタリーさんが悩んでるからって、なんでエドが駆けつけるんですか。それって、エドがしなくちゃならないことなんですか。おかしいです」
不満が熱くたぎっていくのは、もう止められなかった。
「いや、でも、放ってはおけないよ。彼女は僕の妹みたいなものだ」
エドワードはPrincessのいうことが理解できないといった様子で瞬きをする。
「妹? エドでもそんな
「……! Princess、どうしたんだい?」
嫌味をふくんだ物言いに困惑したエドワードの瞳は、どこまでも澄んでいた。
エドワードは誠実な人だ。
彼のしたことは間違っていない。
ただ、自分の助けを求める人の、手のひらをとっただけだ。
でも、今日は。
今日は、その優しさが許せない。
「私とずっと会えなかったのって、ナタリーさんと約束をしていたからっておっしゃってましたよね」
「ああ。予定もないのに断るのが申し訳なくてね。もちろん、キミとの約束が先にあれば、キミと会っていた」
「……っ!」
体中の毛穴が沸騰する。
「どうして私がナタリーさんとエドの休日を取り合わないとならないのですか! なんですか、その先着順って」
本当なら毎日だってエドワードに会いたい。
休日も、ゆっくり休みたいのかもしれないと彼を思いやって無理を言わなかっただけだ。
だまって想いを封じ込めた自分のほうが、どうしてこんなに心をかき乱されなければならないのか。
Princessは震えた。何かがおかしかった。
「エドは……私のことを軽んじておいでですか。私はどう扱ってもいいって。私には、身分も、地位も、美しさもなくて、ナタリーさんにはあるから?」
Princessの怒りは、まとう空気を数度、上げていた。
エドワードがPrincessに歩み寄る。
「違う、Princess。全部誤解だ。僕の話を聞いてほしい」
ぱりっと、エドワードの足が何かを踏んだ。
彼が視線を落とせば、無残にくだけたバラのチョコレートがさらに粉々に崩れている。
身をかがめたエドワードは、そっと花びらのかけらを拾った。
いくつかを合わせてみると、繊細なバラをかたどったものなのだとわかる。
「Princess、これ……」
「もう、いいです。そんなもの!」
お互いに好きなら、どんな苦難も手を取り合って越えられると信じていた。
だけど、信じていたのが自分だけだったら?
何度も名前を呼ぶエドワードの声を背に、Princessは星がまばらに散る夜を駆けた。