Heart to Heart/Edward=Levainçois
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幕がおりたあとも、観劇の余韻にひたる紳士淑女のざわめきで場内は華やいでいた。
「さすがはシャルルトップのオペラだね。あの歌唱力と演技力は世界のどこで公演しても恥ずかしくない。素晴らしいよ」
エドワードは満足そうにうなずいて、深紅のビロードでおおわれた席から立ち上がった。
そうですねと同意したものの、正直にいうならPrincessはいまだにオペラがよくわからない。
何回かエドワードに連れられて観てはいる。
しかし、喜劇にしろ、悲劇にしろ、胸に迫る感情はあっても、どの部分がどんなふうにと表現するには知識がなさすぎた。
本来、こんな付け焼き刃でみるものではないのだろうとPrincessは、恥ずかしくなる。
一方で、幼いころから芸術に親しんできたエドワードはオペラについても造詣が深く、専門家とも対等に渡り合えるほどだった。
さらにいうなら、金箔を貼った壁ときらめくシャンデリアを背にするエドワードはオペラハウスにぴったりの優雅さで、彼以上にこの場所が似合う人はいないと思わせる雰囲気をまとっている。
Princessは、肩を並べるエドワードをちらりと見た。
どう考えても、エドワードのすべてに自分はミスマッチだった。
指折り数えて待った週末だったにもかかわらず、実際にエドワードの隣に立てば、不釣合い加減を思い知らされてしまう。
エドワードに腰を引き寄せられながら大理石の階段を降りていくと、大勢の人がひとりの女性を取り囲んでいた。
花束を抱えたその女性はエドワードの姿を見ると、あっと声をあげて取り巻きを押しのけ、真紅のドレスの裾を細い指先でつまみ、階段を駆けのぼってくる。
「エドワード様! 来てくださったのですね」
グレーの瞳を喜びに揺らめかせ、頬を紅潮させる姿は、彼女の整った顔立ちをますます魅力的にさせていた。
……あれ、このかた……主役のひと?
間違いない。
彼女は先ほどまで、舞台の中央でスポットライトを浴び、高らかに歌い上げていた女性だ。
「ありがとう、ナタリー。最高のオペラを楽しませてもらったよ。
昨日のリハーサルより、格段によかった」
ナタリーと呼ばれた女性は切れ長の目を細めた。
「昨日、エドワード様からいただいたアドバイスが良かったのです。エドワード様のおかげですわ。相手役をエドワード様と思いましたら、自然と気持ちが込められましたのよ」
Princessは、ふたりの会話が気にかかった。
昨日……
以前その土曜日に会えないかと聞いたら、「先約がある」とエドワードに言われた。
とりあえず当たりさわりのない笑みを浮かべて、Princessは目の前のナタリーを見つめる。
はじめて湧き上がるエドワードへの猜疑心を、打ち消せなかった。
この人に会ってたんだ。……だから、私、断られたんだ……
週末の公務は休みのはずなのに、ここのところずっと、エドワードから連絡が入ったことはなかった。
なぜだろう、どうしてだろうと悶々と過ごす二日間に耐え切れなくてPrincessのほうから誘えば、いつも、先約があると言われた。
Princessは戸惑いながらも、仕方がないと納得してきたのだ。
先約とは、ナタリーとの約束だったのだろうか。
忙しいエドワードと会えない時間を独りで過ごせないほど子どもじゃない。
でも、彼がほかの女性と休日を過ごしているとなれば、心はざわめく。
「Princess?」
エドワードが腰をたたんでPrincessをのぞきこんできた。
いつの間にか、うつむいてしまっていたようだ。
「こちらは我がシャルルで一番の歌姫、ナタリーだ」
エドワードの差し出す白い手袋の先を視線で追ってPrincessはぺこりと頭を下げた。
「まあ、かわいらしいかた。エドワード様に妹さんがいらしたら、きっとこんな風に大事にされるのでしょうね」
優しくナタリーは言ったが、声にも視線にも、女同士にしか感じられない牽制が含まれていた。
「……」
ナタリーは、エドワードに好意をいだいている。
女の推量は時として、男が「確信だ」というそれよりずっと、当たっているのだ。
「こちらはPrincessさん。大切な友人だ」
エドワードの紹介にPrincessは着慣れないドレスをつまんで腰を折った。
最愛の人から発せられた、友人、の言葉が胸を刺す。
そう言うしかないのはわかっている。
婚約は王族会の猛反対もあって未だ宙に浮いている状態で、不用意な発言はできなかった。
彼に好意を持つ女性にだからこそ特別な存在なのだと紹介して欲しいと願う思いを、懸命に封じ込める。
ただお互いの気持ちを信じるだけの、おぼつかない結婚の約束は、こんなとき、Princessをさらに不安にさせた。
ナタリーの美しい容姿も、社会的な地位も自分よりエドワードにふさわしい。
きっとナタリーなら、だれもがエドワードのプリンセスとして認め、喜んで迎えられるだろう。
彼女が、エドワードとの穏やかな日々にさす影になるのではないかと、Princessの心臓が嫌な音をたてはじめた。
「お約束どおり、食事に行きましょう。もちろん、Princessさんも私たちとご一緒に」
Princessの心のさざ波を知ってか知らずか、ナタリーはにっこりとほほ笑んだ。
あらかじめの食事の約束、さらに、エドワードとナタリーのほうをひとくくりにして「私たち」とまで言われれば、彼女の上乗せのけん制を感じる。
傍らのエドワードは、ナタリーの悪意に気付いていないようだ。
なにもかもが不愉快で、もどかしい。
エドワードにとって特別な存在は、自分なのではなかったのか。
会えなかった数か月間に、エドワードと彼女に何があったのだろう。
「おや、ナタリー。襟が折れてしまっている」
エドワードは一歩歩み寄ると、ナタリーの毛皮のコートの襟に手を伸ばして整えた。
彼の手がナタリーの白い首すじに触れる。
ナタリーの息も、エドワードの美しい指先にかかっているのだろう。
「あらっ、ありがとうございます」
ほんのりと頬を染めるナタリー。
Princessは視線を伏せた。
もう、二人を見ていられない。
「さすがはシャルルトップのオペラだね。あの歌唱力と演技力は世界のどこで公演しても恥ずかしくない。素晴らしいよ」
エドワードは満足そうにうなずいて、深紅のビロードでおおわれた席から立ち上がった。
そうですねと同意したものの、正直にいうならPrincessはいまだにオペラがよくわからない。
何回かエドワードに連れられて観てはいる。
しかし、喜劇にしろ、悲劇にしろ、胸に迫る感情はあっても、どの部分がどんなふうにと表現するには知識がなさすぎた。
本来、こんな付け焼き刃でみるものではないのだろうとPrincessは、恥ずかしくなる。
一方で、幼いころから芸術に親しんできたエドワードはオペラについても造詣が深く、専門家とも対等に渡り合えるほどだった。
さらにいうなら、金箔を貼った壁ときらめくシャンデリアを背にするエドワードはオペラハウスにぴったりの優雅さで、彼以上にこの場所が似合う人はいないと思わせる雰囲気をまとっている。
Princessは、肩を並べるエドワードをちらりと見た。
どう考えても、エドワードのすべてに自分はミスマッチだった。
指折り数えて待った週末だったにもかかわらず、実際にエドワードの隣に立てば、不釣合い加減を思い知らされてしまう。
エドワードに腰を引き寄せられながら大理石の階段を降りていくと、大勢の人がひとりの女性を取り囲んでいた。
花束を抱えたその女性はエドワードの姿を見ると、あっと声をあげて取り巻きを押しのけ、真紅のドレスの裾を細い指先でつまみ、階段を駆けのぼってくる。
「エドワード様! 来てくださったのですね」
グレーの瞳を喜びに揺らめかせ、頬を紅潮させる姿は、彼女の整った顔立ちをますます魅力的にさせていた。
……あれ、このかた……主役のひと?
間違いない。
彼女は先ほどまで、舞台の中央でスポットライトを浴び、高らかに歌い上げていた女性だ。
「ありがとう、ナタリー。最高のオペラを楽しませてもらったよ。
昨日のリハーサルより、格段によかった」
ナタリーと呼ばれた女性は切れ長の目を細めた。
「昨日、エドワード様からいただいたアドバイスが良かったのです。エドワード様のおかげですわ。相手役をエドワード様と思いましたら、自然と気持ちが込められましたのよ」
Princessは、ふたりの会話が気にかかった。
昨日……
以前その土曜日に会えないかと聞いたら、「先約がある」とエドワードに言われた。
とりあえず当たりさわりのない笑みを浮かべて、Princessは目の前のナタリーを見つめる。
はじめて湧き上がるエドワードへの猜疑心を、打ち消せなかった。
この人に会ってたんだ。……だから、私、断られたんだ……
週末の公務は休みのはずなのに、ここのところずっと、エドワードから連絡が入ったことはなかった。
なぜだろう、どうしてだろうと悶々と過ごす二日間に耐え切れなくてPrincessのほうから誘えば、いつも、先約があると言われた。
Princessは戸惑いながらも、仕方がないと納得してきたのだ。
先約とは、ナタリーとの約束だったのだろうか。
忙しいエドワードと会えない時間を独りで過ごせないほど子どもじゃない。
でも、彼がほかの女性と休日を過ごしているとなれば、心はざわめく。
「Princess?」
エドワードが腰をたたんでPrincessをのぞきこんできた。
いつの間にか、うつむいてしまっていたようだ。
「こちらは我がシャルルで一番の歌姫、ナタリーだ」
エドワードの差し出す白い手袋の先を視線で追ってPrincessはぺこりと頭を下げた。
「まあ、かわいらしいかた。エドワード様に妹さんがいらしたら、きっとこんな風に大事にされるのでしょうね」
優しくナタリーは言ったが、声にも視線にも、女同士にしか感じられない牽制が含まれていた。
「……」
ナタリーは、エドワードに好意をいだいている。
女の推量は時として、男が「確信だ」というそれよりずっと、当たっているのだ。
「こちらはPrincessさん。大切な友人だ」
エドワードの紹介にPrincessは着慣れないドレスをつまんで腰を折った。
最愛の人から発せられた、友人、の言葉が胸を刺す。
そう言うしかないのはわかっている。
婚約は王族会の猛反対もあって未だ宙に浮いている状態で、不用意な発言はできなかった。
彼に好意を持つ女性にだからこそ特別な存在なのだと紹介して欲しいと願う思いを、懸命に封じ込める。
ただお互いの気持ちを信じるだけの、おぼつかない結婚の約束は、こんなとき、Princessをさらに不安にさせた。
ナタリーの美しい容姿も、社会的な地位も自分よりエドワードにふさわしい。
きっとナタリーなら、だれもがエドワードのプリンセスとして認め、喜んで迎えられるだろう。
彼女が、エドワードとの穏やかな日々にさす影になるのではないかと、Princessの心臓が嫌な音をたてはじめた。
「お約束どおり、食事に行きましょう。もちろん、Princessさんも私たちとご一緒に」
Princessの心のさざ波を知ってか知らずか、ナタリーはにっこりとほほ笑んだ。
あらかじめの食事の約束、さらに、エドワードとナタリーのほうをひとくくりにして「私たち」とまで言われれば、彼女の上乗せのけん制を感じる。
傍らのエドワードは、ナタリーの悪意に気付いていないようだ。
なにもかもが不愉快で、もどかしい。
エドワードにとって特別な存在は、自分なのではなかったのか。
会えなかった数か月間に、エドワードと彼女に何があったのだろう。
「おや、ナタリー。襟が折れてしまっている」
エドワードは一歩歩み寄ると、ナタリーの毛皮のコートの襟に手を伸ばして整えた。
彼の手がナタリーの白い首すじに触れる。
ナタリーの息も、エドワードの美しい指先にかかっているのだろう。
「あらっ、ありがとうございます」
ほんのりと頬を染めるナタリー。
Princessは視線を伏せた。
もう、二人を見ていられない。