Heart to Heart/Edward=Levainçois
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ハート模様のデコレーションが目に入るこの季節は、ただ街をそぞろ歩くだけで最愛の人思い浮かべてしまう。
でもPrincessは、愛する彼をまぶたの裏に見ても心が浮き立つどころか深いため息をつくばかりだ。
昨夜までの雪がやみ、晴れた冬の空に一瞬、吐息が白く長く尾をひいて、それから立ち消える。
困ったことにPrincessは、エドワードに贈るバレンタインのチョコレートも、プラスアルファの贈り物もいまだに準備ができていなかった。
大学の試験に忙しくて、というのは自分への言い訳で、理由は別にある。
街ゆく女性たちの楽しそうな姿を見れば、間近に迫ったバレンタインデーまでもう時間がないと気だけが焦った。
エドワードと付きあいはじめて半年。
クリスマスとバレンタイン。
贈り物をする機会は2度目になる。
本来なら愛する人を思い浮かべてのプレゼント選びは、それだけでも心躍るものだとういうのに、Princessにとっては悩みの種以外のなんでもなかた。
すべてを持っている人が、望むもの――
あれが欲しい、これが欲しいと、気がつけば物欲まみれになることもある庶民の自分には毎回難題だった。
アパルトマンのベッドに突っ伏して思い巡らすだけでは埒があかず、Princessは街に出た。
これ、という一品との出会いがあるかもしれない偶然に賭けて、当てもなく、ハイブランドの店が軒を連ねる通りを歩く。
豊かにふくらむ毛皮のコートをまとい、高級そうなジュエリーやバッグを自らの身体の一部みたいに持つ女性たちが行き交うところで、
紺のコートを着て、こぶりのバッグを斜めがけにしたPrincessは、かなり浮いている。
「あ、これ……」
Princessは足止めた。
ちらりと目の端にとらえたショーウィンドーに、
エドワードが時おり身につけているブランドの時計を見つけた。
店の中に続く入り口の扉は小ぢんまりとしていて、ベルを押さなければ入れないしくみになっている。
Princessには気後れせずにその店のベルを鳴らす品格はもちろん、勇気すらない。
時計はとりあえず、ガラス越しに拝むしかなさそうだ。
ただでさえ高価な品がかもしだす厳かな雰囲気に気負されているところに、小さく置かれたプライスに目が留まった。
目を凝らし、遠くのプライスカードに人差し指を揺らしながら、ゼロの数を数える。
いち、じゅう、ひゃく……ええっと……ごじゅうまんクルス……
「えーっ!!」
Princessは背中をのけぞらすと同時に、はしたなく声を立ててしまった口元を両手で押さえた。
宝石ひとつついてもいないのに、家が買えるほどの値段のこの時計のどこに、それほどまでの価値があるというのか。
Princessはウィンドーにぴったり顔をつけて、右に左に移動しながら角度を変えて見つめた。
王子であるエドワードの持ち物は、何であっても超がつくほどの一級品だ。
もちろんPrincessに知識があるわけではなかったけれど、本当にいいものというのは、わからない人間にだってわかるくらい、鮮やかなオーラを放っているものらしい。
その証拠に、エドワードの周りの品々は、はじめから彼のために存在するかのように、彼の雰囲気になじんでいる。
ガラスの向こうの時計もまた、例外でなかった。
エドワードが、この種の時計をいくつも持っていることを知っている。
Princessは、斜めがけのバッグにそっと手を添えた。
財布の中にあるぶんではおそらく、エドワードの好む時計の秒針すら買えない。
「愛する想いに身分は関係ないよ」
いつだって彼はそう言って、Princessをバラが香る胸におさめる。
でも、現実は。
生まれが違い、育ちが違い、価値観も違った。
エドワードにあげられる何もかもが、彼にとっては取るに足らないものに違いない。
Princessがプレゼントを差し出せば、どんなものでもエドワードは心から喜んでくれるだろう。
彼はそういう人だ。
しかし、同時に自分が差し出せるどんなものも、彼には不釣り合いだとPrincessにはわかっていた。
言わずもがな、自分自身も。
どこかの貴族のお姫様だったら、堂々とエドを愛せたのに……
Princessがみじめさに、きゅうと肩をすぼませるのはいつものことだ。
大好きな人への贈り物に思いを巡らせているのに、気持ちはどんどん沈んでいく。
Princessは石畳の道に視線を落とすと、とけ残った日陰の雪をブーツのつま先でさくさくと何度も踏んだ。
「Princess様」
ふいに名前を呼ばれて顔をあげれば、目を細めるルイスが立っていた。
胸の前で大きな紙袋を抱えているところをみると、城に来る外商では買えない品物を調達するために街へやってきたのだろう。
「あ、あの、私……」
エドワードの好む時計を扱う店の前で、もじもじと卑屈になっているところをルイスにみられてPrincessは、彼に向ける表情に迷った。
「……Princess様がおそばにいてくださることが、エドワード様にとっては一番の贈り物ですよ」
あいさつよりも先に心の内を見透かされた言葉を差し出され、目をしばたたかせたPrincessは、また視線を下げてしまう。
ルイスが、ウィンドーに張り付くように時計を見つめる自分に気付いていて声をかけるタイミングを見計らっていたのかと思うと、それはそれで恥ずかしかった。
Princessは上目づかいに、戸惑うまなざしをルイスに向けた。
「そうでしょうか……」
「もちろんでございます。
そういえば、次の日曜日、エドワード様が貴女様をオペラ鑑賞にお誘いするとおっしゃっておられましたよ」
「ほんとですか!」
とたんにPrincessは、頬を赤く染めた。
ここ2、3か月の間、会えるかどうかとエドワードに聞いても、先約があるといって断られ続けてきた。
「しばらくエドに会えてなかったものですから」と訴えるように言うと、ルイスは一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
一抹の違和感を感じ取らないわけではなかったが、エドワードに会えるのならそれでよかった。
あれこれ弱気な考えになってしまうのは、心にエドワードが足りないからだ。
彼に会えば、きっとまた、自分の好きな自分に戻れる。
「楽しみにしています」
Princessは身を跳ねさせて、うなずいた。
「あ、このことはご内密に。先にPrincess様に伝えたとエドワード様に知られたら叱られてしまいますから」
ふたりは顔を見合わせてふふっと笑った。
日曜日、久しぶりに最愛の彼の瞳の中に映る自分を想うと、Princessの胸は、甘く満たされた。
でもPrincessは、愛する彼をまぶたの裏に見ても心が浮き立つどころか深いため息をつくばかりだ。
昨夜までの雪がやみ、晴れた冬の空に一瞬、吐息が白く長く尾をひいて、それから立ち消える。
困ったことにPrincessは、エドワードに贈るバレンタインのチョコレートも、プラスアルファの贈り物もいまだに準備ができていなかった。
大学の試験に忙しくて、というのは自分への言い訳で、理由は別にある。
街ゆく女性たちの楽しそうな姿を見れば、間近に迫ったバレンタインデーまでもう時間がないと気だけが焦った。
エドワードと付きあいはじめて半年。
クリスマスとバレンタイン。
贈り物をする機会は2度目になる。
本来なら愛する人を思い浮かべてのプレゼント選びは、それだけでも心躍るものだとういうのに、Princessにとっては悩みの種以外のなんでもなかた。
すべてを持っている人が、望むもの――
あれが欲しい、これが欲しいと、気がつけば物欲まみれになることもある庶民の自分には毎回難題だった。
アパルトマンのベッドに突っ伏して思い巡らすだけでは埒があかず、Princessは街に出た。
これ、という一品との出会いがあるかもしれない偶然に賭けて、当てもなく、ハイブランドの店が軒を連ねる通りを歩く。
豊かにふくらむ毛皮のコートをまとい、高級そうなジュエリーやバッグを自らの身体の一部みたいに持つ女性たちが行き交うところで、
紺のコートを着て、こぶりのバッグを斜めがけにしたPrincessは、かなり浮いている。
「あ、これ……」
Princessは足止めた。
ちらりと目の端にとらえたショーウィンドーに、
エドワードが時おり身につけているブランドの時計を見つけた。
店の中に続く入り口の扉は小ぢんまりとしていて、ベルを押さなければ入れないしくみになっている。
Princessには気後れせずにその店のベルを鳴らす品格はもちろん、勇気すらない。
時計はとりあえず、ガラス越しに拝むしかなさそうだ。
ただでさえ高価な品がかもしだす厳かな雰囲気に気負されているところに、小さく置かれたプライスに目が留まった。
目を凝らし、遠くのプライスカードに人差し指を揺らしながら、ゼロの数を数える。
いち、じゅう、ひゃく……ええっと……ごじゅうまんクルス……
「えーっ!!」
Princessは背中をのけぞらすと同時に、はしたなく声を立ててしまった口元を両手で押さえた。
宝石ひとつついてもいないのに、家が買えるほどの値段のこの時計のどこに、それほどまでの価値があるというのか。
Princessはウィンドーにぴったり顔をつけて、右に左に移動しながら角度を変えて見つめた。
王子であるエドワードの持ち物は、何であっても超がつくほどの一級品だ。
もちろんPrincessに知識があるわけではなかったけれど、本当にいいものというのは、わからない人間にだってわかるくらい、鮮やかなオーラを放っているものらしい。
その証拠に、エドワードの周りの品々は、はじめから彼のために存在するかのように、彼の雰囲気になじんでいる。
ガラスの向こうの時計もまた、例外でなかった。
エドワードが、この種の時計をいくつも持っていることを知っている。
Princessは、斜めがけのバッグにそっと手を添えた。
財布の中にあるぶんではおそらく、エドワードの好む時計の秒針すら買えない。
「愛する想いに身分は関係ないよ」
いつだって彼はそう言って、Princessをバラが香る胸におさめる。
でも、現実は。
生まれが違い、育ちが違い、価値観も違った。
エドワードにあげられる何もかもが、彼にとっては取るに足らないものに違いない。
Princessがプレゼントを差し出せば、どんなものでもエドワードは心から喜んでくれるだろう。
彼はそういう人だ。
しかし、同時に自分が差し出せるどんなものも、彼には不釣り合いだとPrincessにはわかっていた。
言わずもがな、自分自身も。
どこかの貴族のお姫様だったら、堂々とエドを愛せたのに……
Princessがみじめさに、きゅうと肩をすぼませるのはいつものことだ。
大好きな人への贈り物に思いを巡らせているのに、気持ちはどんどん沈んでいく。
Princessは石畳の道に視線を落とすと、とけ残った日陰の雪をブーツのつま先でさくさくと何度も踏んだ。
「Princess様」
ふいに名前を呼ばれて顔をあげれば、目を細めるルイスが立っていた。
胸の前で大きな紙袋を抱えているところをみると、城に来る外商では買えない品物を調達するために街へやってきたのだろう。
「あ、あの、私……」
エドワードの好む時計を扱う店の前で、もじもじと卑屈になっているところをルイスにみられてPrincessは、彼に向ける表情に迷った。
「……Princess様がおそばにいてくださることが、エドワード様にとっては一番の贈り物ですよ」
あいさつよりも先に心の内を見透かされた言葉を差し出され、目をしばたたかせたPrincessは、また視線を下げてしまう。
ルイスが、ウィンドーに張り付くように時計を見つめる自分に気付いていて声をかけるタイミングを見計らっていたのかと思うと、それはそれで恥ずかしかった。
Princessは上目づかいに、戸惑うまなざしをルイスに向けた。
「そうでしょうか……」
「もちろんでございます。
そういえば、次の日曜日、エドワード様が貴女様をオペラ鑑賞にお誘いするとおっしゃっておられましたよ」
「ほんとですか!」
とたんにPrincessは、頬を赤く染めた。
ここ2、3か月の間、会えるかどうかとエドワードに聞いても、先約があるといって断られ続けてきた。
「しばらくエドに会えてなかったものですから」と訴えるように言うと、ルイスは一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
一抹の違和感を感じ取らないわけではなかったが、エドワードに会えるのならそれでよかった。
あれこれ弱気な考えになってしまうのは、心にエドワードが足りないからだ。
彼に会えば、きっとまた、自分の好きな自分に戻れる。
「楽しみにしています」
Princessは身を跳ねさせて、うなずいた。
「あ、このことはご内密に。先にPrincess様に伝えたとエドワード様に知られたら叱られてしまいますから」
ふたりは顔を見合わせてふふっと笑った。
日曜日、久しぶりに最愛の彼の瞳の中に映る自分を想うと、Princessの胸は、甘く満たされた。
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