決戦はハロウィン・ナイト/Robert・Button
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償いにすらならないのはわかっていたけれど、傷のせいで熱にうなされるアルを、眠りも忘れて介抱した。
数日後ドクターから、アルが順調に回復している、後遺症の心配もないと聞いて、俺は胸をなでおろした。
アルにもしものことがあったらと、それだけが怖かった。
アルは、起き上がれるようになるとすぐに仕事に戻った。
もっと十分に休みをとればいいと勧める俺に「執事としての業務が滞っていますので」と腰を折ってみせる彼は、ハロウィンの夜以来、怪盗ロベルトに関するすべてから手を引いている。
ベラルド大臣はと言えば、別の盗品が美術館におさめられていたことをきっかけに、母さんの遺品を盗ませた件についても調べが進み、どうやら逮捕も近いらしい。
捜査の陣頭指揮をとっていたアルが執事に専念しはじめ、もともと世間的には義賊扱いだった怪盗ロベルトを責めたてる者はいなくなった。
怪盗ロベルトが引き起こした事件は、このまま、日々の雑多な出来事にうずもれていくように風化するのだろう。
母さんの遺品すべてが手元に戻り、今は、俺とPrincessにとって、3年ぶりの静かな夜が続いている。
ある日、公務を終えてPrincessとふたりで寝室へと戻る廊下で、アルを見かけた。
両手でなにやら黒い物体を抱えている。
俺より先に声をかけたのは、Princessのほうだ。
「わあ。かわいい招きネコちゃんですね。どうしたんですか、これ」
「ひろいモノです。捨てられそうだったので、私が飼うことにしました」
……!
どう見ても見覚えのあるロボットネコの出現に目をしばたたかせている俺の前で、アルが答えた。
しかし、その顔はポーカーフェイス。眉ひとつ動かない。
俺がハロウィンナイトに置き去りにしたクロネコは、警官たちの手に渡り、証拠として調査されたのち、廃棄処分となる予定だったのだろう。
このネコがどこでどんな役割を果たしたかを知らないPrincessが、「かわいいですね」と頭をなでたとたん、ネコがパチッと目を開け、両耳をたてた。
「トリック・オア・トリート! オカシヲ クレナキャ イタズラシチャウゾ。 プリンセス、キレイダニャ~」
「こら、だまりなさい。失礼ですよ」
ピシャリとアルに言われたネコは、どこからか、ぶーぶーと不満げな音をたてた。
まるで……俺だ。
「まったく、お調子者で困ったものです。しつけをきちんとしなければ」
ちょっと、アル。
それ、さりげなく俺宛のメッセージでしょ。
Princessは、傍らでくすくすと笑っている。
たぶんすごく複雑な表情をしている俺に、アルは素知らぬ顔をして「おやすみなさいませ」と頭を下げ、俺たちに道をあけた。
窓の外に駆ける秋のペガサスは、もう、天頂に近い時間だ。
「うん、おやすみ、アル」
「おやすみなさい、アルベルトさん」
すれ違いざま、ふと、目の端に鮮やかな赤を感じて、俺はもう一度アルを振り返った。
アルは、視線を伏せたまま腰を折り、俺たちが見えなくなるまで、おそらくその姿勢を崩さない。
アルの抱えたクロネコの首に蝶結びにされているのは、真紅のスカーフ。
俺の目尻に残った鮮明な赤色は、スカーフの色彩だった。
あのスカーフ……
俺は、目を凝らした。
忘れるはずもなかった。
それは、夢中でアルの名を呼び、血に染まった彼の腕を覆った、俺のスカーフだった。
格好つけに巻いていただけのものだったから、アルの出血を少しでも止められたのなら、十分すぎるくらいに役割は果たした。
捨てたかどうかすら気にしていなかったのに、きれいに染み抜きをされたスカーフは、今、俺の作ったクロネコの首を飾る。
アル……
アルの秘めた想いが胸に迫って、俺は呼吸さえ苦しくなった。
アルは、怪盗ロベルトが関わる一連の事件について、黙して語らない。
いつかちゃんと、アルに謝りたかった。
全部を話して、許しを乞いたい。
たぶん、みんな、お見通しなのだろうけれど……
「ロベルト? どうしたの、大丈夫?」
瞳をまんまるにしたPrincessが、いつの間にか、間近で俺を覗き込んでいる。
「あ、うん。大丈夫だよ。行こっか」
クロネコが、俺に向かってピコピコと、挙がった右手を振っていた。
寝室のカーテンを引きながらPrincessは、星降る夜空を見上げた。
「なんだか、少し前までふたりで泥棒してたなんて、嘘みたいね」
俺は「そうだね」とうなずいて、Princessの隣に立った。
あれほどにグライダーで舞い飛び、つかめるくらい近かった星空がもう、遠く感じる。
俺の中の“怪盗ロベルト”もこうやって少しずつ思い出になっていくのだろう。
「私……怪盗のロベルトがいなくなって、寂しいかも」
Princessが肩をすくめて、小さく笑った。
「え、どうして?」
俺は、心底不思議で、Princessの横顔を見る。
母さんの遺品を取り戻すためとはいえ、結果として彼女を巻き込んでしまったことに変わりはない。
俺自身、大切な人を危険にさらしてしまった事実に、深い後悔があった。
ホッとしているというのならまだしも、寂しいと告げられるのは意外だ。
「だって、ふたりで相談して、実行して、ハラハラして。けっこう楽しかった。それに……」
Princessが俺に顔を向けた。
「怪盗ロベルト、カッコよかったから」
「……!」
星明りの差し込む窓辺で、シャワーを浴びたばかりの頬をもう一段階、ピンクに染めるPrincess。
まるで付き合いはじめのような、ぎこちなくも甘い空気感に、俺はつい、どぎまぎとしてしまう。
「アルには散々な言われようだったけどね」と、かろうじておどけてはみせたけれど、いつでも、どんな俺でも受け入れてくれるPrincessに、あふれる愛しさは止められない。
「あのね」
Princessの頬に片手を伸ばして、そっと触れた。
「怪盗ロベルトは、ずーっと辞められないんだよ? 盗み続けたいものがあるからね」
Princessが、長いまつ毛を瞬かせ、小首をかしげた。
彼女は俺の答えを待って、わくわくと期待のこもった視線を向ける。
「それはね、Princessの……ハート」
言ったときにはもう、俺たちの唇は重なりあった。
どんなに永い時間が過ぎようとも、Princessと初めて出会い、結ばれたときと同じ気持ちで愛し合いたい。
ねえ、Princess。
キミもそう思ってくれているよね?
「Princess……大好き」
「わたしもだよ、ロベルト」
俺たちは、何度目かの柔らかいキスのあと、額をつけて微笑みあった。
Princess。
今夜はキミに、言葉以上の想いを伝えたい。
横抱きに抱き上げればPrincessは黙って俺の肩に顔をうずめる。
ベッドにゆっくりと彼女をおろしてから、片膝をベッドの端についた。
ちょうど、窓からの光が陰ったのは、薄雲がかかったせいだろうか。
いや、かまわない。
深く暗い夜であればあるほど、ひそやかで、怪盗ロベルトには都合がいい。
俺はPrincessの耳元にそっと唇を寄せた。
「今宵は、貴女を奪いにまいりました。どうぞ……お覚悟を」
fin.
数日後ドクターから、アルが順調に回復している、後遺症の心配もないと聞いて、俺は胸をなでおろした。
アルにもしものことがあったらと、それだけが怖かった。
アルは、起き上がれるようになるとすぐに仕事に戻った。
もっと十分に休みをとればいいと勧める俺に「執事としての業務が滞っていますので」と腰を折ってみせる彼は、ハロウィンの夜以来、怪盗ロベルトに関するすべてから手を引いている。
ベラルド大臣はと言えば、別の盗品が美術館におさめられていたことをきっかけに、母さんの遺品を盗ませた件についても調べが進み、どうやら逮捕も近いらしい。
捜査の陣頭指揮をとっていたアルが執事に専念しはじめ、もともと世間的には義賊扱いだった怪盗ロベルトを責めたてる者はいなくなった。
怪盗ロベルトが引き起こした事件は、このまま、日々の雑多な出来事にうずもれていくように風化するのだろう。
母さんの遺品すべてが手元に戻り、今は、俺とPrincessにとって、3年ぶりの静かな夜が続いている。
ある日、公務を終えてPrincessとふたりで寝室へと戻る廊下で、アルを見かけた。
両手でなにやら黒い物体を抱えている。
俺より先に声をかけたのは、Princessのほうだ。
「わあ。かわいい招きネコちゃんですね。どうしたんですか、これ」
「ひろいモノです。捨てられそうだったので、私が飼うことにしました」
……!
どう見ても見覚えのあるロボットネコの出現に目をしばたたかせている俺の前で、アルが答えた。
しかし、その顔はポーカーフェイス。眉ひとつ動かない。
俺がハロウィンナイトに置き去りにしたクロネコは、警官たちの手に渡り、証拠として調査されたのち、廃棄処分となる予定だったのだろう。
このネコがどこでどんな役割を果たしたかを知らないPrincessが、「かわいいですね」と頭をなでたとたん、ネコがパチッと目を開け、両耳をたてた。
「トリック・オア・トリート! オカシヲ クレナキャ イタズラシチャウゾ。 プリンセス、キレイダニャ~」
「こら、だまりなさい。失礼ですよ」
ピシャリとアルに言われたネコは、どこからか、ぶーぶーと不満げな音をたてた。
まるで……俺だ。
「まったく、お調子者で困ったものです。しつけをきちんとしなければ」
ちょっと、アル。
それ、さりげなく俺宛のメッセージでしょ。
Princessは、傍らでくすくすと笑っている。
たぶんすごく複雑な表情をしている俺に、アルは素知らぬ顔をして「おやすみなさいませ」と頭を下げ、俺たちに道をあけた。
窓の外に駆ける秋のペガサスは、もう、天頂に近い時間だ。
「うん、おやすみ、アル」
「おやすみなさい、アルベルトさん」
すれ違いざま、ふと、目の端に鮮やかな赤を感じて、俺はもう一度アルを振り返った。
アルは、視線を伏せたまま腰を折り、俺たちが見えなくなるまで、おそらくその姿勢を崩さない。
アルの抱えたクロネコの首に蝶結びにされているのは、真紅のスカーフ。
俺の目尻に残った鮮明な赤色は、スカーフの色彩だった。
あのスカーフ……
俺は、目を凝らした。
忘れるはずもなかった。
それは、夢中でアルの名を呼び、血に染まった彼の腕を覆った、俺のスカーフだった。
格好つけに巻いていただけのものだったから、アルの出血を少しでも止められたのなら、十分すぎるくらいに役割は果たした。
捨てたかどうかすら気にしていなかったのに、きれいに染み抜きをされたスカーフは、今、俺の作ったクロネコの首を飾る。
アル……
アルの秘めた想いが胸に迫って、俺は呼吸さえ苦しくなった。
アルは、怪盗ロベルトが関わる一連の事件について、黙して語らない。
いつかちゃんと、アルに謝りたかった。
全部を話して、許しを乞いたい。
たぶん、みんな、お見通しなのだろうけれど……
「ロベルト? どうしたの、大丈夫?」
瞳をまんまるにしたPrincessが、いつの間にか、間近で俺を覗き込んでいる。
「あ、うん。大丈夫だよ。行こっか」
クロネコが、俺に向かってピコピコと、挙がった右手を振っていた。
寝室のカーテンを引きながらPrincessは、星降る夜空を見上げた。
「なんだか、少し前までふたりで泥棒してたなんて、嘘みたいね」
俺は「そうだね」とうなずいて、Princessの隣に立った。
あれほどにグライダーで舞い飛び、つかめるくらい近かった星空がもう、遠く感じる。
俺の中の“怪盗ロベルト”もこうやって少しずつ思い出になっていくのだろう。
「私……怪盗のロベルトがいなくなって、寂しいかも」
Princessが肩をすくめて、小さく笑った。
「え、どうして?」
俺は、心底不思議で、Princessの横顔を見る。
母さんの遺品を取り戻すためとはいえ、結果として彼女を巻き込んでしまったことに変わりはない。
俺自身、大切な人を危険にさらしてしまった事実に、深い後悔があった。
ホッとしているというのならまだしも、寂しいと告げられるのは意外だ。
「だって、ふたりで相談して、実行して、ハラハラして。けっこう楽しかった。それに……」
Princessが俺に顔を向けた。
「怪盗ロベルト、カッコよかったから」
「……!」
星明りの差し込む窓辺で、シャワーを浴びたばかりの頬をもう一段階、ピンクに染めるPrincess。
まるで付き合いはじめのような、ぎこちなくも甘い空気感に、俺はつい、どぎまぎとしてしまう。
「アルには散々な言われようだったけどね」と、かろうじておどけてはみせたけれど、いつでも、どんな俺でも受け入れてくれるPrincessに、あふれる愛しさは止められない。
「あのね」
Princessの頬に片手を伸ばして、そっと触れた。
「怪盗ロベルトは、ずーっと辞められないんだよ? 盗み続けたいものがあるからね」
Princessが、長いまつ毛を瞬かせ、小首をかしげた。
彼女は俺の答えを待って、わくわくと期待のこもった視線を向ける。
「それはね、Princessの……ハート」
言ったときにはもう、俺たちの唇は重なりあった。
どんなに永い時間が過ぎようとも、Princessと初めて出会い、結ばれたときと同じ気持ちで愛し合いたい。
ねえ、Princess。
キミもそう思ってくれているよね?
「Princess……大好き」
「わたしもだよ、ロベルト」
俺たちは、何度目かの柔らかいキスのあと、額をつけて微笑みあった。
Princess。
今夜はキミに、言葉以上の想いを伝えたい。
横抱きに抱き上げればPrincessは黙って俺の肩に顔をうずめる。
ベッドにゆっくりと彼女をおろしてから、片膝をベッドの端についた。
ちょうど、窓からの光が陰ったのは、薄雲がかかったせいだろうか。
いや、かまわない。
深く暗い夜であればあるほど、ひそやかで、怪盗ロベルトには都合がいい。
俺はPrincessの耳元にそっと唇を寄せた。
「今宵は、貴女を奪いにまいりました。どうぞ……お覚悟を」
fin.
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