決戦はハロウィン・ナイト/Robert・Button
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「ここまでたどり着き、本物のオルゴールを探し当てたことは褒めてやろう。
だが、お前にそれを渡すわけにはいかない。命が惜しくば、オルゴールを置いて、今すぐここを去れ」
「……」
俺は無言のまま、じりじりと窓際に近づいた。
「ほう。私に逆らうとみえる」
大臣の指が、トリガーを一気に引いた。
脅しの弾丸は、俺のこめかみをかすめて、背面の窓ガラスを割った。
高層階を渡る風が、唸りをあげて吹き込んでくる。
「お前はなぜ、王妃の宝にこだわるのだ。
そればかりでない。
お前はダミーがあれば、必ず見破り、本物を盗み去る。まるで……王妃の遺品を直接見たことがあるかのように」
ベラルド大臣は、一歩、間合いを詰めた。
俺は奥歯を噛みしめる。もう逃げ場はない。
「ふふ……もしかして、お前は、ロベルト王子か?
おもしろい。だとしても、私は盗人を殺したまで。
屍 が王子本人とわかった結果、バトン家は王子がコソ泥を働いて死んだという不名誉に国を追われ、私が推す者が王子に繰り上がり、次期の国王となる。
莫大な富と権力……私の勝ちだ」
満月の光は、逆光になって、俺の顔を影にしていた。
大臣が、カチャリと撃鉄を起こした。
「冥土の土産に教えてやろう。王妃の宝を盗むように指示したのは私だ。
金が欲しいのはもちろんだが、それ以上に、ロベルト王子に絶望と悲嘆を味わわせてやりたかった」
嫉妬、欲望、憤怒。
装填 された弾には、大臣を突き動かす負の感情が強くこもっている。
――逃げられない。
「遊びはこれで終わりだ、怪盗ロベルト」
ぴたりと照準を当てたまま、引き金が引かれる。
「くっ……」
と、乾いた銃声がとどろくと同時に、俺の前に黒い影が躍り出た。
「だめだっ! 撃つなーっ!」
その影は、叫びながら、一瞬で、懐から出した銃を撃つ。
交錯する銃声。
ほとんど明かりのない中で、銃弾は、ベラルド大臣の構える拳銃を正確な狙いで跳ね飛ばした。
だが、すでに発せられた大臣の弾は、俺をかばう影の腕を撃ち抜いた。
短いうめき声をあげた影が、仰向けに宙に飛び、スローモーションのように床に落下していった。
雲間にのぞいた月の光が、部屋全体を青く刺す。
「……っ!」
我が目を疑った。
映ったのは、血しぶきを上げて堕ちる、俺の――
「アルっ!」
俺は思わずアルの名を呼んで、手を伸ばした。
宙に舞うアルの瞳が、ハッと大きく見開かれる。
しかし、伸ばした手はつかまれることなく、アルは床に叩きつけられた。
「アルっ、アルっ!」
俺は夢中で駆け寄って、アルを抱き起こした。
首に巻いた赤いスカーフを引き抜いて、彼の左腕を強く縛る。
「アル、しっかり」
苦悶の表情を浮かべるアルの息は荒い。
巻きつけたスカーフの赤は血液が染みて、みるみる黒みを帯びていく。
「俺の肩につかまって」
俺は、アルの片腕を俺の肩に絡めさせ、立ち上がろうとした。
しかし、アルは自ら腕を下ろしてしまう。
「私にかまわず、逃げなさい。怪盗ロベルト」
「嫌だ、そんなことできない」
「早く。私の傷は浅い。だから、警官隊が来る前に……」
気がつけば、廊下に複数の靴音が鳴る。
アルに続いて、警官たちがやってきたのだ。
もし、捕まったら……
だけど……
俺は、激しくためらった。
不意に、強くつかむ力を感じて視線を落とすと、アルが血だらけの手のひらで、俺の腕をしかと握っていた。
向けられた瞳は強い意志をたたえ、まるで主従が逆転したかのように、俺に選択の余地を与えない。
「行ってください。私は大丈夫です。さあ、お早く!」
「……」
多くを語り合えないとき、幾度なく、俺たちは視線だけでお互いの意思を知った。
今もまた、交し合う瞳の奥は、いつもの信頼のまなざし。
俺はうなずいてから立ち上がり、窓際へと走った。
ベラルド大臣が銃を拾い3度目の構えを見せ、警官隊は保管室の扉に指を掛ける。
大臣の銃口が火を噴き、警官たちが飛び込んできたまさにその時、俺は窓枠を思い切り蹴って、闇夜に身体を躍らせた。
「ああっ、逃げたぞ。外だ、追えっ!」
俺は頭を下にして、ビルの谷間を急速に落ちる。
すさまじい風の音が耳をつんざき、マントがはげしくはためいた。
危うく意識を失いそうになりながらも、高速道路に流れるヘッドライトのまぶしさに我に返り、俺は、腰につけたボタンを押し込んだ。
シャキンと音がして、小型のハンググライダーが翼を広げると同時に、身体が空に向かって、グッと引き上げられる。
俺は体勢を整え、グライダーのバーを握った。
振り向けば、眠るビル群の中にそびえる美術館だけが、煌々と光を放つ。
アル……
俺をかばって、凶弾に倒れたアルが気がかりだった。
でも今は、逃げるしかない。
意を決して目を逸らし、眼下に広がる街へ視線を移せば、ハロウィン・ナイトに沸く通りはイルミネーションに彩られ、深夜だというのに人の影が多い。
今年の仮装の一番人気は、怪盗コスチュームだと聞いている。
あまたいるだろう“怪盗ロベルト”にまぎれてしまえば、今夜はかえって逃げやすいだろう。
さらにぐるりと見渡すと、繁華街から少し離れたところに、規則的に点滅する赤い光が見えた。
車で待機しているはずのPrincessからの合図だ。
……あそこか。
俺は胸に収めた母さんのオルゴールに触れて、今一度存在を確かめてから、身体を右へと傾ける。
グライダーは、音もなく旋回する。
怪盗ロベルト最後の翼は、アルタリアの夜風をとらえて、緩やかに降下した。
だが、お前にそれを渡すわけにはいかない。命が惜しくば、オルゴールを置いて、今すぐここを去れ」
「……」
俺は無言のまま、じりじりと窓際に近づいた。
「ほう。私に逆らうとみえる」
大臣の指が、トリガーを一気に引いた。
脅しの弾丸は、俺のこめかみをかすめて、背面の窓ガラスを割った。
高層階を渡る風が、唸りをあげて吹き込んでくる。
「お前はなぜ、王妃の宝にこだわるのだ。
そればかりでない。
お前はダミーがあれば、必ず見破り、本物を盗み去る。まるで……王妃の遺品を直接見たことがあるかのように」
ベラルド大臣は、一歩、間合いを詰めた。
俺は奥歯を噛みしめる。もう逃げ場はない。
「ふふ……もしかして、お前は、ロベルト王子か?
おもしろい。だとしても、私は盗人を殺したまで。
莫大な富と権力……私の勝ちだ」
満月の光は、逆光になって、俺の顔を影にしていた。
大臣が、カチャリと撃鉄を起こした。
「冥土の土産に教えてやろう。王妃の宝を盗むように指示したのは私だ。
金が欲しいのはもちろんだが、それ以上に、ロベルト王子に絶望と悲嘆を味わわせてやりたかった」
嫉妬、欲望、憤怒。
――逃げられない。
「遊びはこれで終わりだ、怪盗ロベルト」
ぴたりと照準を当てたまま、引き金が引かれる。
「くっ……」
と、乾いた銃声がとどろくと同時に、俺の前に黒い影が躍り出た。
「だめだっ! 撃つなーっ!」
その影は、叫びながら、一瞬で、懐から出した銃を撃つ。
交錯する銃声。
ほとんど明かりのない中で、銃弾は、ベラルド大臣の構える拳銃を正確な狙いで跳ね飛ばした。
だが、すでに発せられた大臣の弾は、俺をかばう影の腕を撃ち抜いた。
短いうめき声をあげた影が、仰向けに宙に飛び、スローモーションのように床に落下していった。
雲間にのぞいた月の光が、部屋全体を青く刺す。
「……っ!」
我が目を疑った。
映ったのは、血しぶきを上げて堕ちる、俺の――
「アルっ!」
俺は思わずアルの名を呼んで、手を伸ばした。
宙に舞うアルの瞳が、ハッと大きく見開かれる。
しかし、伸ばした手はつかまれることなく、アルは床に叩きつけられた。
「アルっ、アルっ!」
俺は夢中で駆け寄って、アルを抱き起こした。
首に巻いた赤いスカーフを引き抜いて、彼の左腕を強く縛る。
「アル、しっかり」
苦悶の表情を浮かべるアルの息は荒い。
巻きつけたスカーフの赤は血液が染みて、みるみる黒みを帯びていく。
「俺の肩につかまって」
俺は、アルの片腕を俺の肩に絡めさせ、立ち上がろうとした。
しかし、アルは自ら腕を下ろしてしまう。
「私にかまわず、逃げなさい。怪盗ロベルト」
「嫌だ、そんなことできない」
「早く。私の傷は浅い。だから、警官隊が来る前に……」
気がつけば、廊下に複数の靴音が鳴る。
アルに続いて、警官たちがやってきたのだ。
もし、捕まったら……
だけど……
俺は、激しくためらった。
不意に、強くつかむ力を感じて視線を落とすと、アルが血だらけの手のひらで、俺の腕をしかと握っていた。
向けられた瞳は強い意志をたたえ、まるで主従が逆転したかのように、俺に選択の余地を与えない。
「行ってください。私は大丈夫です。さあ、お早く!」
「……」
多くを語り合えないとき、幾度なく、俺たちは視線だけでお互いの意思を知った。
今もまた、交し合う瞳の奥は、いつもの信頼のまなざし。
俺はうなずいてから立ち上がり、窓際へと走った。
ベラルド大臣が銃を拾い3度目の構えを見せ、警官隊は保管室の扉に指を掛ける。
大臣の銃口が火を噴き、警官たちが飛び込んできたまさにその時、俺は窓枠を思い切り蹴って、闇夜に身体を躍らせた。
「ああっ、逃げたぞ。外だ、追えっ!」
俺は頭を下にして、ビルの谷間を急速に落ちる。
すさまじい風の音が耳をつんざき、マントがはげしくはためいた。
危うく意識を失いそうになりながらも、高速道路に流れるヘッドライトのまぶしさに我に返り、俺は、腰につけたボタンを押し込んだ。
シャキンと音がして、小型のハンググライダーが翼を広げると同時に、身体が空に向かって、グッと引き上げられる。
俺は体勢を整え、グライダーのバーを握った。
振り向けば、眠るビル群の中にそびえる美術館だけが、煌々と光を放つ。
アル……
俺をかばって、凶弾に倒れたアルが気がかりだった。
でも今は、逃げるしかない。
意を決して目を逸らし、眼下に広がる街へ視線を移せば、ハロウィン・ナイトに沸く通りはイルミネーションに彩られ、深夜だというのに人の影が多い。
今年の仮装の一番人気は、怪盗コスチュームだと聞いている。
あまたいるだろう“怪盗ロベルト”にまぎれてしまえば、今夜はかえって逃げやすいだろう。
さらにぐるりと見渡すと、繁華街から少し離れたところに、規則的に点滅する赤い光が見えた。
車で待機しているはずのPrincessからの合図だ。
……あそこか。
俺は胸に収めた母さんのオルゴールに触れて、今一度存在を確かめてから、身体を右へと傾ける。
グライダーは、音もなく旋回する。
怪盗ロベルト最後の翼は、アルタリアの夜風をとらえて、緩やかに降下した。