決戦はハロウィン・ナイト/Robert・Button
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「こちらロベルト。準備OK」
「了解。こっちも大丈夫。警備員さんたちは完璧にぐっすりだよ」
細身のPrincessは通気孔に身を潜めて、打ち合わせどおり、美術館の警備室に催眠作用のある煙玉を投げ込んだ。
彼女はそのまま孔 づたいに、中央制御室に向かっているところだろう。
「午前2時ジャストまで、あと5分。予定通りにいくからね」
「うん。わかった。ロベルトも気をつけて」
イヤホンから聞こえるPrincessの声音に、いつも以上の緊張は感じられない。
入念に練られた計画と、これまでに得た経験を活かして……と言っていいのかわからないけど……落ち着いてコトを進めれば、オルゴールはきっとこの手に戻る。
俺はエレベーターの昇降路に宙吊りになって、わずかな隙間からロビーをうかがった。
ハロウィンの深夜、ベラルド大臣の美術館のロビーにはアルが警官隊を引き連れて、ネズミ一匹の通過も許さない警備体制をひいている。
腕時計の秒針をじっと見つめる。
午前1時59分。
55、56、57、58、59……
パチンと音をたてて、すべての照明が消えた。
Princessが制御室にたどりついて、ブレーカーを落としたのだ。
「来たぞ、ロベルトだ! 非常用電源に切り替えろ! なにっ、それも作動しない!? 制御システムはどうなっているんだ!」
いつもは穏やかなアルの怒号がロビーに反響した。
そのとき、薄暗闇の中にモーターの音が聞こえて、アルをはじめ警官たちの視線が正面の自動ドアに釘付けになった。
ドアがひらき、ゆっくりと向かってくる、光るふたつの……眼。
ジーッ、ジーッ、ジーッ。
モーター音を響かせた”それ”が、アルの目前でぴたりと止まる。
アルは向かいあって、腰をかがめた。
「なんだ、これは? オリエンスの……招き猫?」
えっ、違うよ、それ、ハロウィンのクロネコだってば。
壁の隙間からネコのリモコンを操作しつつ、唇を尖らせる。
背丈が50センチくらいの黒いネコ型ロボットは、ピコピコと、挙げた右手を前後に動かした。
「トリック・オア・トリート。 オカシヲ クレナキャ イタズラシチャウゾ」
「……はぁ? 一体何をしたいんだ、ロベルトは」
アルが首をかしげている。
よし、次はこれだ。
リモコンの赤いボタンを押し込むと、
今度はネコが唸りだして、その場でぐるぐると回転を始めた。
あ、あれっ?
「ウーン、ウーン、ナンダッケ、ナンダッケ、ツギハ ドウスルンダッケ」
ちょっ、勘弁してよ、また故障だ。
赤いボタンを押したら、目くらましに発光をするはずなのに、バグったネコは回りながら混乱している。
俺はボタンを必死で連打した。
頼む、クロネコちゃん!
「ソウダッ! オモイダシタ! ムー、ムムムーッ」
ネコが回転をやめていきみ始める。
すると突然、まばゆい光があたりを包んだ。
「ああああっ、目がっ!」
アルと警官隊は、その場にしゃがみこんで皆、目を押さえる。
よかった、今のうちだ。
背負った小型ブースターのスイッチを押すと、怪盗マントがひるがえり、俺の身体はエレベーターのシャフトに沿って一気に上がった。
20階の廊下を警戒する数人の警官たちを、みぞおちへの一撃や光の球でかわし、どうにか保管室までたどり着く。
「Princess。保管室のドアロック、解除」
「了解。ロック、解除します」
「開 いた。OKだよ」
制御室のPrincessに、あとは俺に任せるように告げて、美術館から離れるように指示した。
アルたちへの目くらましは一時的で、もうそろそろ、警官が階段を駆けおりたり、駆け上がったり、美術館全体が大騒ぎになるはずだ。
俺は保管室の奥へと慎重に歩みを進める。
場所を移動させられていたら面倒だなと思っていたけれど、母さんのオルゴールは前に視察をしたときのまま、その棚にあった。
警備システムはすべてPrincessがオフにしてくれたおかげで、虫の音 ほどの音もたてず、なんの危害を受ける心配もない。
ゆっくりと両手を伸ばし、オルゴールを包み込むようにして持ち上げる。
でも。
「……っ!」
瞬時に感じた違和感。
軽い……?
見かけこそ母さんのオルゴールだけれど、手にした物には木目の詰まった重量感がまるでない。
よく見れば、光沢は塗りで補われて安っぽく、縁の処理は雑で波打ち、手触りが悪すぎる。
……ワナだ。
どこだ。母さんのオルゴールは。
心臓がドキドキと嫌な音をたて始める。
探す時間が長くなればなるほど、危険が増すことはわかっていた。
もちろん、それが敵の目論見であることも。
考えに反して、俺は、手当たり次第に展示品を覆った包みを破る。
違う……違う、違う。
今夜はもうあきらめて、仕切りなおしたほうがいいとわかっているのに、はやる気持ちが俺の手をとめさせない。
不意に、耳にPrincessの切なげな声音がよみがえった。
―― 私には、ロベルト以上に大事な人は世界のどこにもいないの。
次の包みに伸ばしかけた指先が、ピタリと止まった。
俺は我に返った。
危ない……俺には、今、待つ人がいるのに。
その場で深く息を吸って、吐いて、気持ちを整える。
今夜は仕方がない。また、次のチャンスを待とう。
そのときだった。
ポロン……ポロロン……
聞き覚えのある優しい音色に、ハッと、音のするほうに顔を向けた。
求めるがあまりの、気のせい?
在りし日の母さんは、俺を膝に抱いてゆっくりとオルゴールのネジを回し、それから蓋をひらいたものだった。
温かく、染み入るようなメロディーが流れるなかで、母さんは言った。
『ロベルト、あなたはとっても強い子だわ。でも、もし、つらいことがあったらこのオルゴールをお聴きなさい。
きっと、私のかわりにあなたを慰めてくれるから』
『お母さん、どこかに行っちゃうの?』
『そうね。みんながいつかは行く美しい世界に、先に……ね』
ただ首をかしげただけだった俺が、言葉の意味を知るまでに、数か月はかからなかった。
母さんは、俺を“強い子だ”と言ってくれた。
だれにも、心配をかけてはいけない。
だれにも涙を見せてはいけない。
自分でも気づかぬうちに俺は、他人に寂しさを感づかれないための笑顔と、明るさを身につけた。
けれど、俺は母さんを失うにはあまりに幼かった。
内にあふれる孤独感をもてあまし、泣きながらオルゴールを抱きしめた長い夜。
それを誰が知っていよう。
母さんの子守唄に似た、柔らかい音色を聞き間違えるはずがなかった。
ポロン……ポロン……
そこかっ。
再びの音に、俺は、メロディーを奏でる上段の小包を引き下ろして、夢中で紙を解いた。
幾重にも重ねられた梱包の先に、捜し求めた母さんのオルゴールがあった。
50点目の母さんの思い出。
これですべてがそろった。
失われた母さんの遺品は、無傷で、かつての主のもとに戻る。
俺がマントのあわせを跳ね上げて、オルゴールをタキシードの胸の内側に押し込んだ、まさにその瞬間。
「そこまでだ。怪盗ロベルト。王妃のオルゴールを床に置いて、両手をあげろ」
抑揚のない低い声が、背後から届いた。
「!!」
ゆっくりと振り向くと、ベラルド大臣が銃口をぴたりと俺に向けて、冷徹な笑みを浮かべていた――
「了解。こっちも大丈夫。警備員さんたちは完璧にぐっすりだよ」
細身のPrincessは通気孔に身を潜めて、打ち合わせどおり、美術館の警備室に催眠作用のある煙玉を投げ込んだ。
彼女はそのまま
「午前2時ジャストまで、あと5分。予定通りにいくからね」
「うん。わかった。ロベルトも気をつけて」
イヤホンから聞こえるPrincessの声音に、いつも以上の緊張は感じられない。
入念に練られた計画と、これまでに得た経験を活かして……と言っていいのかわからないけど……落ち着いてコトを進めれば、オルゴールはきっとこの手に戻る。
俺はエレベーターの昇降路に宙吊りになって、わずかな隙間からロビーをうかがった。
ハロウィンの深夜、ベラルド大臣の美術館のロビーにはアルが警官隊を引き連れて、ネズミ一匹の通過も許さない警備体制をひいている。
腕時計の秒針をじっと見つめる。
午前1時59分。
55、56、57、58、59……
パチンと音をたてて、すべての照明が消えた。
Princessが制御室にたどりついて、ブレーカーを落としたのだ。
「来たぞ、ロベルトだ! 非常用電源に切り替えろ! なにっ、それも作動しない!? 制御システムはどうなっているんだ!」
いつもは穏やかなアルの怒号がロビーに反響した。
そのとき、薄暗闇の中にモーターの音が聞こえて、アルをはじめ警官たちの視線が正面の自動ドアに釘付けになった。
ドアがひらき、ゆっくりと向かってくる、光るふたつの……眼。
ジーッ、ジーッ、ジーッ。
モーター音を響かせた”それ”が、アルの目前でぴたりと止まる。
アルは向かいあって、腰をかがめた。
「なんだ、これは? オリエンスの……招き猫?」
えっ、違うよ、それ、ハロウィンのクロネコだってば。
壁の隙間からネコのリモコンを操作しつつ、唇を尖らせる。
背丈が50センチくらいの黒いネコ型ロボットは、ピコピコと、挙げた右手を前後に動かした。
「トリック・オア・トリート。 オカシヲ クレナキャ イタズラシチャウゾ」
「……はぁ? 一体何をしたいんだ、ロベルトは」
アルが首をかしげている。
よし、次はこれだ。
リモコンの赤いボタンを押し込むと、
今度はネコが唸りだして、その場でぐるぐると回転を始めた。
あ、あれっ?
「ウーン、ウーン、ナンダッケ、ナンダッケ、ツギハ ドウスルンダッケ」
ちょっ、勘弁してよ、また故障だ。
赤いボタンを押したら、目くらましに発光をするはずなのに、バグったネコは回りながら混乱している。
俺はボタンを必死で連打した。
頼む、クロネコちゃん!
「ソウダッ! オモイダシタ! ムー、ムムムーッ」
ネコが回転をやめていきみ始める。
すると突然、まばゆい光があたりを包んだ。
「ああああっ、目がっ!」
アルと警官隊は、その場にしゃがみこんで皆、目を押さえる。
よかった、今のうちだ。
背負った小型ブースターのスイッチを押すと、怪盗マントがひるがえり、俺の身体はエレベーターのシャフトに沿って一気に上がった。
20階の廊下を警戒する数人の警官たちを、みぞおちへの一撃や光の球でかわし、どうにか保管室までたどり着く。
「Princess。保管室のドアロック、解除」
「了解。ロック、解除します」
「
制御室のPrincessに、あとは俺に任せるように告げて、美術館から離れるように指示した。
アルたちへの目くらましは一時的で、もうそろそろ、警官が階段を駆けおりたり、駆け上がったり、美術館全体が大騒ぎになるはずだ。
俺は保管室の奥へと慎重に歩みを進める。
場所を移動させられていたら面倒だなと思っていたけれど、母さんのオルゴールは前に視察をしたときのまま、その棚にあった。
警備システムはすべてPrincessがオフにしてくれたおかげで、虫の
ゆっくりと両手を伸ばし、オルゴールを包み込むようにして持ち上げる。
でも。
「……っ!」
瞬時に感じた違和感。
軽い……?
見かけこそ母さんのオルゴールだけれど、手にした物には木目の詰まった重量感がまるでない。
よく見れば、光沢は塗りで補われて安っぽく、縁の処理は雑で波打ち、手触りが悪すぎる。
……ワナだ。
どこだ。母さんのオルゴールは。
心臓がドキドキと嫌な音をたて始める。
探す時間が長くなればなるほど、危険が増すことはわかっていた。
もちろん、それが敵の目論見であることも。
考えに反して、俺は、手当たり次第に展示品を覆った包みを破る。
違う……違う、違う。
今夜はもうあきらめて、仕切りなおしたほうがいいとわかっているのに、はやる気持ちが俺の手をとめさせない。
不意に、耳にPrincessの切なげな声音がよみがえった。
―― 私には、ロベルト以上に大事な人は世界のどこにもいないの。
次の包みに伸ばしかけた指先が、ピタリと止まった。
俺は我に返った。
危ない……俺には、今、待つ人がいるのに。
その場で深く息を吸って、吐いて、気持ちを整える。
今夜は仕方がない。また、次のチャンスを待とう。
そのときだった。
ポロン……ポロロン……
聞き覚えのある優しい音色に、ハッと、音のするほうに顔を向けた。
求めるがあまりの、気のせい?
在りし日の母さんは、俺を膝に抱いてゆっくりとオルゴールのネジを回し、それから蓋をひらいたものだった。
温かく、染み入るようなメロディーが流れるなかで、母さんは言った。
『ロベルト、あなたはとっても強い子だわ。でも、もし、つらいことがあったらこのオルゴールをお聴きなさい。
きっと、私のかわりにあなたを慰めてくれるから』
『お母さん、どこかに行っちゃうの?』
『そうね。みんながいつかは行く美しい世界に、先に……ね』
ただ首をかしげただけだった俺が、言葉の意味を知るまでに、数か月はかからなかった。
母さんは、俺を“強い子だ”と言ってくれた。
だれにも、心配をかけてはいけない。
だれにも涙を見せてはいけない。
自分でも気づかぬうちに俺は、他人に寂しさを感づかれないための笑顔と、明るさを身につけた。
けれど、俺は母さんを失うにはあまりに幼かった。
内にあふれる孤独感をもてあまし、泣きながらオルゴールを抱きしめた長い夜。
それを誰が知っていよう。
母さんの子守唄に似た、柔らかい音色を聞き間違えるはずがなかった。
ポロン……ポロン……
そこかっ。
再びの音に、俺は、メロディーを奏でる上段の小包を引き下ろして、夢中で紙を解いた。
幾重にも重ねられた梱包の先に、捜し求めた母さんのオルゴールがあった。
50点目の母さんの思い出。
これですべてがそろった。
失われた母さんの遺品は、無傷で、かつての主のもとに戻る。
俺がマントのあわせを跳ね上げて、オルゴールをタキシードの胸の内側に押し込んだ、まさにその瞬間。
「そこまでだ。怪盗ロベルト。王妃のオルゴールを床に置いて、両手をあげろ」
抑揚のない低い声が、背後から届いた。
「!!」
ゆっくりと振り向くと、ベラルド大臣が銃口をぴたりと俺に向けて、冷徹な笑みを浮かべていた――