ココロ・コネクト/Joshua・Lieben
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数日後、俺の身を案じてためらうPrincessを促して街に出た。
俺自身がのびのびとPrincessとの時間を楽しみたかった。
ほんの一時間だけでも、と思っていた。
「オニギリ、またあの公園で食べましょうか」
Princessはオニギリショップの小袋を軽く掲げてみせた。
中には、はじめて街歩きを楽しんだ日と同じ、2個のオニギリが入っている。
はじめは周囲を警戒するような素振りをみせていたPrincessも、久しぶりの外出に足取りが次第に弾むように軽やかになり、待てというのに、俺より数歩の先を行ってしまう。
はたとPrincessが、彼女のステップをとめた。
街角の小さな本屋の前だ。
腰を折ってショーウィンドーをのぞきこむようにしていた彼女は「ここで、ちょっと待っていてください」と、ひとりで店に入った。
たいした間をおかず出てきたPrincessの手には、なにやら袋がさげられている。
「この間の『恥ずかしい本』が売ってたから、買っちゃいました」
Princessは肩をすくめた。
結局、以前、見せる見せないでふざけあった本が何だったのかはわからずじまいだ。
「欲しかったのなら、言えば図書室の本をやったものを」
「いえ。同じ内容でもいろいろな挿絵がありそうだったから、好みのものを選びたくて」
俺はその本が何か、ますます興味をそそられた。
「尋ねても教えないのだろう?」
「だって……」
また、わざともったいぶって俺を揺さぶるのかと思ったら、今日のPrincessはしゅんとうなだれた。
「どうした」
「言えば……困らせちゃうから」
「困ることなどない。お前の望みは叶えてやりたいといつも……ん?」
俺は、ぽつんと頬に当たる水滴を感じて、空を見上げた。
「雨、みたいですね」
Princessも、手のひらを空に向ける。
天気予報ではにわか雨があると言っていたが、思ったより早く降りだしてしまった。
みるみる粒を大きくする雨は、すぐにやみそうにない。
「残念だが、オニギリは城に戻ってから食べるとしよう。これを掛けておけ」
俺は、羽織っていた薄手のジャケットを脱ぐとPrincessの頭にふわり、のせた。
「え、いいです、いいです、ジョシュア様が着ててください」
「遠慮するな。風邪をひくぞ」
「風邪なんかひきませんよ、だって、私、ロボットだから」
笑って見上げたPrincessに、俺は唇を引き締めた。
「……言うな」
Princessの肩を抱き寄せて、彼女の顔を胸におさめる。
ジャケットですっぽりと顔を覆ったPrincessの表情はわからない。
「言うな。お前は、機械なんかじゃない」
ジャケットの隙間からおずおずと細い腕が伸びて、俺の背中に回された。
ギュッと食い込むくらいの強い指先から、何も告げないPrincess想いが染みいる。
やがてPrincessは、ジャケットからのぞかせた顔を雨降る空に向けた。
雨脚はさっきよりも強まって、アスファルトを叩いている。
「ヒトってきっと、こんな気持ちのときに涙を流せるんですよね? いいなあ」
雨空を見上げたPrincessの白い頬に、大粒のしずくがいくつも落ちて、軌跡を描きながら顎先へと流れる。
まるで、涙みたいに。
「泣くな。お前は笑っているほうが似合う」
別れの日は5日後に迫っていた。
Princessを城に残すなんの手立てもないまま、無情に過ぎる時間が恨めしかった。
たとえPrincessの中の俺が消えても、今、Princessのためにできる全部を与えたい。
見返りはいらなかった。
俺は、Princessの頬を流れる“涙”を親指でぬぐってから手をとった。
「城へ帰ろう。はやく身体を温めないと」
うなずくPrincess。
その時だった。
強い意志をもった視線を感じて顔を向けると、黒ずくめの男がひとり、近づいてきた。
歩みを次第に速める男が、ポケットに手を差し込んで取り出したものを、両手で握り直して腰の位置に構える。
キラリと先端が光るそれがナイフだと気付いた瞬間には、男はもう、全速だった。
「ネルヴァン・ファースト!」
狂気が混じる叫びの前に身を躍らせたのはPrincessだ。
「ジョシュア様っ! 逃げてっ……」
俺の前にPrincessが両手を広げ、彼女の背を盾にして立ちはだかる。
同時に、バキバキと金属が割れる音がしてPrincessの背中から白い煙がのぼった。
「Princess!」
「ジョシュ……アさ、ま……」
まっすぐに俺を見つめる黒曜の瞳が、急速に輝きを失って無機質になる。
「Princess……Princessっ!」
俺は崩れるPrincessを抱きとめて、何度も彼女の名を呼んだ。
目の端に映るのは、石畳に散らばるオニギリの白い粒。
そして……冷たい雨に叩かれる絵本 ――『PINOCCHIO』ピノキオ
俺自身がのびのびとPrincessとの時間を楽しみたかった。
ほんの一時間だけでも、と思っていた。
「オニギリ、またあの公園で食べましょうか」
Princessはオニギリショップの小袋を軽く掲げてみせた。
中には、はじめて街歩きを楽しんだ日と同じ、2個のオニギリが入っている。
はじめは周囲を警戒するような素振りをみせていたPrincessも、久しぶりの外出に足取りが次第に弾むように軽やかになり、待てというのに、俺より数歩の先を行ってしまう。
はたとPrincessが、彼女のステップをとめた。
街角の小さな本屋の前だ。
腰を折ってショーウィンドーをのぞきこむようにしていた彼女は「ここで、ちょっと待っていてください」と、ひとりで店に入った。
たいした間をおかず出てきたPrincessの手には、なにやら袋がさげられている。
「この間の『恥ずかしい本』が売ってたから、買っちゃいました」
Princessは肩をすくめた。
結局、以前、見せる見せないでふざけあった本が何だったのかはわからずじまいだ。
「欲しかったのなら、言えば図書室の本をやったものを」
「いえ。同じ内容でもいろいろな挿絵がありそうだったから、好みのものを選びたくて」
俺はその本が何か、ますます興味をそそられた。
「尋ねても教えないのだろう?」
「だって……」
また、わざともったいぶって俺を揺さぶるのかと思ったら、今日のPrincessはしゅんとうなだれた。
「どうした」
「言えば……困らせちゃうから」
「困ることなどない。お前の望みは叶えてやりたいといつも……ん?」
俺は、ぽつんと頬に当たる水滴を感じて、空を見上げた。
「雨、みたいですね」
Princessも、手のひらを空に向ける。
天気予報ではにわか雨があると言っていたが、思ったより早く降りだしてしまった。
みるみる粒を大きくする雨は、すぐにやみそうにない。
「残念だが、オニギリは城に戻ってから食べるとしよう。これを掛けておけ」
俺は、羽織っていた薄手のジャケットを脱ぐとPrincessの頭にふわり、のせた。
「え、いいです、いいです、ジョシュア様が着ててください」
「遠慮するな。風邪をひくぞ」
「風邪なんかひきませんよ、だって、私、ロボットだから」
笑って見上げたPrincessに、俺は唇を引き締めた。
「……言うな」
Princessの肩を抱き寄せて、彼女の顔を胸におさめる。
ジャケットですっぽりと顔を覆ったPrincessの表情はわからない。
「言うな。お前は、機械なんかじゃない」
ジャケットの隙間からおずおずと細い腕が伸びて、俺の背中に回された。
ギュッと食い込むくらいの強い指先から、何も告げないPrincess想いが染みいる。
やがてPrincessは、ジャケットからのぞかせた顔を雨降る空に向けた。
雨脚はさっきよりも強まって、アスファルトを叩いている。
「ヒトってきっと、こんな気持ちのときに涙を流せるんですよね? いいなあ」
雨空を見上げたPrincessの白い頬に、大粒のしずくがいくつも落ちて、軌跡を描きながら顎先へと流れる。
まるで、涙みたいに。
「泣くな。お前は笑っているほうが似合う」
別れの日は5日後に迫っていた。
Princessを城に残すなんの手立てもないまま、無情に過ぎる時間が恨めしかった。
たとえPrincessの中の俺が消えても、今、Princessのためにできる全部を与えたい。
見返りはいらなかった。
俺は、Princessの頬を流れる“涙”を親指でぬぐってから手をとった。
「城へ帰ろう。はやく身体を温めないと」
うなずくPrincess。
その時だった。
強い意志をもった視線を感じて顔を向けると、黒ずくめの男がひとり、近づいてきた。
歩みを次第に速める男が、ポケットに手を差し込んで取り出したものを、両手で握り直して腰の位置に構える。
キラリと先端が光るそれがナイフだと気付いた瞬間には、男はもう、全速だった。
「ネルヴァン・ファースト!」
狂気が混じる叫びの前に身を躍らせたのはPrincessだ。
「ジョシュア様っ! 逃げてっ……」
俺の前にPrincessが両手を広げ、彼女の背を盾にして立ちはだかる。
同時に、バキバキと金属が割れる音がしてPrincessの背中から白い煙がのぼった。
「Princess!」
「ジョシュ……アさ、ま……」
まっすぐに俺を見つめる黒曜の瞳が、急速に輝きを失って無機質になる。
「Princess……Princessっ!」
俺は崩れるPrincessを抱きとめて、何度も彼女の名を呼んだ。
目の端に映るのは、石畳に散らばるオニギリの白い粒。
そして……冷たい雨に叩かれる絵本 ――『PINOCCHIO』ピノキオ