ココロ・コネクト/Joshua・Lieben
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週末が楽しみだと思った最後の記憶はいつだったろう。
規則正しく単調だった俺の毎日を変えたのは、Princessだ。
俺とPrincessは、休みのたびに人目につく場所へと出かけていった。
回を重ねるごとに、この「デート」と世に言われるものが、俺の中で、単にジャンから課されたミッションでなくなっていると認めざるをえなくなった。
平日の夜には、次にPrincessとどこに行こうかと思いを巡らせ、Princessのはじけるような笑顔を思い浮かべては心満たされた。
不意に、中庭から女たちの高い笑い声が聞こえてくる。
窓際によって階下を見ると、Princessと数人のメイドたちが花への水遣りのシャワーを掛け合って、ふざけている。
初めてPrincessと出会ってから2か月が過ぎ、季節は初夏から夏へと変わっていた。
砂金のごとく鮮やかに降る陽射しの中で、Princessは水しぶきを浴びて、黒髪を輝かせる。
Princessは、城での評判もよかった。
メイドの服を着て、自らすすんで城の仕事をしていたかと思うと、パーティーでは美しく着飾り、誰もが目を奪われるほどの優雅な舞をみせた。
もう城の外でも中でも、Princessは俺の女と思われていた。
もちろん、俺をめぐる例の誤解は完全にとけたといえよう。
だが、ちっとも嬉しくない。
……あと、1か月か。
俺は短く息を吐いた。
ついこの間、ジャンに、Princessを買い取れないのかと尋ねたばかりだった。
金ならいくらでも出すといった俺に、ジャンは、静かに首を横に振った。
「Princess様はヒューマノイドです。仮に買い取ってジョシュア様のお傍に置いたとしても、Princess様は歳をとらず、ジョシュア様亡き後も永久に生き続けます。
そのような存在を、ジョシュア様の妻として、ドレスヴァンの王妃として、王家に迎えることはできません。
どうか、あきらめてください。……申し訳ありません」
深く腰を折るジャンを責められるわけもなかった。
俺をからかっているような視線を向けることもあるジャンの顔も、そのときは神妙だった。
ジャンは、優秀な執事だ。
俺の想いに気付き、俺の気持ちに寄り添うからこそ、Princessと出会わせたことを悔やんでいるのだろう。
俺自身とて、こんな気持ちになるとは思いもよらなかった。
単なるロボットとの、世の誤解をとくためだけの恋愛ごっこ――
別れなくてはならないのなら、今はむしろ、2か月前の冷めた気持ちに戻りたい。
「ジョシュアさまーっ!」
俺を呼ぶ声に再び中庭に視線を移すとPrincessが挙げた両手を大きく振っていた。
俺の姿をとらえたPrincessの周りのメイドたちは一斉にこうべを垂れる。
俺は窓をあけて、身を乗り出すようにした。
「昼にするか、Princess。オニギリを頼む」
「はいっ! 今、行きます!……ごめんなさい、あとの水まきをお願いしますね」
Princessは心底嬉しいというような笑顔を見せてうなずくと、手にしていたホースをメイドに手渡し、走りだした。
感情のままに変わる表情、他人を思いやる心、跳ねればしなやかな肢体。
……アイツのどこが、人でないというのか。
昼には必ずPrincessの握るウメのオニギリが添えられた。
街でみつけたオニギリショップの味が忘れられないと言った俺のために、Princessが城で作りはじめたのだ。
厨房をのぞくと、今日もPrincessは数人の調理人たちと談笑しながらオニギリを握っていた。
ここでもPrincessは、飾らぬ気立てで人気がある。
Princessよりも先に俺に気付いた調理人たちに、そのままでよいと視線だけで合図して、そろそろとPrincessの背後に近づくと、すでに皿にあるオニギリをつかんだ。
「あっ、ジョシュア様。つまみ食いはだめですよ」
「いいだろう。待ちきれん」
頬をふくらますPrincessを横目にオニギリにかぶりつく。
「ん。お前の握るオニギリはうまいな。塩加減といい、まとまり具合といい、俺にとっては、あのときの店のものよりもうまいぞ」
「ありがとうございます。いっぱい練習した甲斐があります。三角に握るのって、案外難しくて」
手のひらの中央をくぼませて「ここ。ここにライスをおさめてぎゅっと」と示した彼女の手元をのぞきこむ。
Princessとの至近の距離にも、ずいぶん慣れたように思う。
傍らで俺たちの様子を眺めていた料理長が、上向きに跳ねる白い口ひげをなぞって笑った。
「いやはや、ジョシュア様。長年貴方様にお仕えしておりますが、Princess様がいらしてからは変わられましたなあ。
よくお笑いになる。おふたりを見ている我々も幸せな気持ちになります」
うんうんとうなずく他の料理人たちに囲まれて、俺はくすぐったかった。
Princessは頬を桜に染めて、笑っている。
ほのかに胸を温めるこの想いが幸せというものであるなら、ずっと、手放したくない。
Princessだけが、俺に幸せをくれる。
彼女と別れる? ありえない。
……だれか……時間を止めてくれ。
規則正しく単調だった俺の毎日を変えたのは、Princessだ。
俺とPrincessは、休みのたびに人目につく場所へと出かけていった。
回を重ねるごとに、この「デート」と世に言われるものが、俺の中で、単にジャンから課されたミッションでなくなっていると認めざるをえなくなった。
平日の夜には、次にPrincessとどこに行こうかと思いを巡らせ、Princessのはじけるような笑顔を思い浮かべては心満たされた。
不意に、中庭から女たちの高い笑い声が聞こえてくる。
窓際によって階下を見ると、Princessと数人のメイドたちが花への水遣りのシャワーを掛け合って、ふざけている。
初めてPrincessと出会ってから2か月が過ぎ、季節は初夏から夏へと変わっていた。
砂金のごとく鮮やかに降る陽射しの中で、Princessは水しぶきを浴びて、黒髪を輝かせる。
Princessは、城での評判もよかった。
メイドの服を着て、自らすすんで城の仕事をしていたかと思うと、パーティーでは美しく着飾り、誰もが目を奪われるほどの優雅な舞をみせた。
もう城の外でも中でも、Princessは俺の女と思われていた。
もちろん、俺をめぐる例の誤解は完全にとけたといえよう。
だが、ちっとも嬉しくない。
……あと、1か月か。
俺は短く息を吐いた。
ついこの間、ジャンに、Princessを買い取れないのかと尋ねたばかりだった。
金ならいくらでも出すといった俺に、ジャンは、静かに首を横に振った。
「Princess様はヒューマノイドです。仮に買い取ってジョシュア様のお傍に置いたとしても、Princess様は歳をとらず、ジョシュア様亡き後も永久に生き続けます。
そのような存在を、ジョシュア様の妻として、ドレスヴァンの王妃として、王家に迎えることはできません。
どうか、あきらめてください。……申し訳ありません」
深く腰を折るジャンを責められるわけもなかった。
俺をからかっているような視線を向けることもあるジャンの顔も、そのときは神妙だった。
ジャンは、優秀な執事だ。
俺の想いに気付き、俺の気持ちに寄り添うからこそ、Princessと出会わせたことを悔やんでいるのだろう。
俺自身とて、こんな気持ちになるとは思いもよらなかった。
単なるロボットとの、世の誤解をとくためだけの恋愛ごっこ――
別れなくてはならないのなら、今はむしろ、2か月前の冷めた気持ちに戻りたい。
「ジョシュアさまーっ!」
俺を呼ぶ声に再び中庭に視線を移すとPrincessが挙げた両手を大きく振っていた。
俺の姿をとらえたPrincessの周りのメイドたちは一斉にこうべを垂れる。
俺は窓をあけて、身を乗り出すようにした。
「昼にするか、Princess。オニギリを頼む」
「はいっ! 今、行きます!……ごめんなさい、あとの水まきをお願いしますね」
Princessは心底嬉しいというような笑顔を見せてうなずくと、手にしていたホースをメイドに手渡し、走りだした。
感情のままに変わる表情、他人を思いやる心、跳ねればしなやかな肢体。
……アイツのどこが、人でないというのか。
昼には必ずPrincessの握るウメのオニギリが添えられた。
街でみつけたオニギリショップの味が忘れられないと言った俺のために、Princessが城で作りはじめたのだ。
厨房をのぞくと、今日もPrincessは数人の調理人たちと談笑しながらオニギリを握っていた。
ここでもPrincessは、飾らぬ気立てで人気がある。
Princessよりも先に俺に気付いた調理人たちに、そのままでよいと視線だけで合図して、そろそろとPrincessの背後に近づくと、すでに皿にあるオニギリをつかんだ。
「あっ、ジョシュア様。つまみ食いはだめですよ」
「いいだろう。待ちきれん」
頬をふくらますPrincessを横目にオニギリにかぶりつく。
「ん。お前の握るオニギリはうまいな。塩加減といい、まとまり具合といい、俺にとっては、あのときの店のものよりもうまいぞ」
「ありがとうございます。いっぱい練習した甲斐があります。三角に握るのって、案外難しくて」
手のひらの中央をくぼませて「ここ。ここにライスをおさめてぎゅっと」と示した彼女の手元をのぞきこむ。
Princessとの至近の距離にも、ずいぶん慣れたように思う。
傍らで俺たちの様子を眺めていた料理長が、上向きに跳ねる白い口ひげをなぞって笑った。
「いやはや、ジョシュア様。長年貴方様にお仕えしておりますが、Princess様がいらしてからは変わられましたなあ。
よくお笑いになる。おふたりを見ている我々も幸せな気持ちになります」
うんうんとうなずく他の料理人たちに囲まれて、俺はくすぐったかった。
Princessは頬を桜に染めて、笑っている。
ほのかに胸を温めるこの想いが幸せというものであるなら、ずっと、手放したくない。
Princessだけが、俺に幸せをくれる。
彼女と別れる? ありえない。
……だれか……時間を止めてくれ。