坂田家の日常
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「あー。坂田先生、ちょっと」
廊下を歩いていると、バカ皇子―――ではなくハタ校長とすれ違った。
そのまま通り過ぎようとしたのに、最悪なことにヤツはそれを見逃さなかった。
「ちょっとちょっと君ね、なんで無視すんの」
「いやいや無視なんてそんな。ちょっと気付かないフリしようと思っただけで」
「それを無視っていうんだよ!!」
イラついた様子でハタ校長は溜め息をついた。
隣でじいこと教頭は我関せずといった様子でスマホで『ジャンプ+』を読んでいる。
「…で?何か様スか」
「来週の会議で使う資料なんだけどね、今日中に作っといて」
「それはいつも服部先生が作ってるヤツでしょ」
「服部先生は出張の準備で忙しいからね。キミ、今担任ないしヒマでしょ?」
「ヒマじゃ…」
「じゃ、そういうわけだから。頼んだぞよ~」
なんとか罰ゲームを逃れようと抵抗する銀八だったが、そんな魂胆はお見通しだったのか、ハタ校長はさっさと話を切り上げて行ってしまった。
「……チッ…」
ヒマじゃないのは本当だったのだ。
息子が生まれてからというもの、銀八は勤務時間が終われば真っ先に学校を飛び出し帰宅するようになった。
普通、学校の先生といえば授業が終わった放課後も業務が残っている。
翌日の授業で使う教材の準備、進行の確認。テストがあれば採点。
部活の顧問であれば部活の面倒だって見なくてはならない。
なんと銀八は担任を持っていないのをいいことに(?)、必要なすべての業務を下校時間までに終わらせているのだった。
もちろん、周囲の人々は皆、彼が一刻も早く帰宅したがる理由を知っている。
しかしそれほどまでに仕事ができる有能さがあるのなら、普段からそうしてくれ―――誰もがそう思っていた。
時刻は19時を過ぎた。
資料を仕上げた銀八が職員室に入ると、そこにはほとんど誰もいなかった。
隣の校長室ももう鍵がかかっていて、銀八は溜め息をついた。
「バカ校長はどうした?」
唯一残っていた月詠に尋ねた。
「何じゃぬし、まだ帰っておらんかったのか」
「バカ校長に仕事押しつけられちゃってさァ」
「バカ…ハタ校長なら随分前に帰ったぞ」
「マジか…あのバカ」
「わっちも帰るところじゃ。ぬしも早く帰りなんし。嫁と子が待っとるじゃろう」
「そーするわ」
呆れてしまった銀八は手にした書類を乱雑に放り、白衣を脱いだ。
なんだかドっと疲れた気がする。
早く帰ろう。
「あ゛ー…疲れた」
やっとの思いで自宅近くまで辿り着いた。
住宅街に入ると家々から夕飯の匂いが漂っている。
ああ…俺も早く嫁さんが作った飯を食べたい。
たどり着いた家のドアを開けると中はふわっと温かかった。
「ただいまァ……」
出た声は自分で思ったよりも低く、疲れ切っていた。
ドアに鍵をかけて上着を脱いでいると、待ちわびた顔が見られた。
「銀八、おかえりなさい」
眩しいくらいの笑顔で出迎えてくれたのは、愛する妻だった。
その腕には可愛い我が子を抱いて。
「ほら息子、パパおかえりーって」
「ばっ」
なまえの腕に抱かれた息子は小さな両手を一生懸命にこちらに伸ばしてきた。
思いっきり身を乗り出すせいでなまえがバランスを崩しそうになる。
「ぉおっと」
銀八は反射的に息子の脇に手を入れ、なまえに代わって息子を抱き上げた。
首は据わっているとはいえ、赤ん坊の身体はまだグニャグニャだ。
少しバランスが崩れただけで落としそうになる。
銀八に抱かれた息子はひときわ嬉しそうにきゃあと声を上げた。
「オイオイ。とんだ熱烈歓迎じゃねーか」
「銀八が来るまでずっとソワソワしてたんだよ」
ぴったり抱きついてくる息子が可愛くて、息子のほっぺをつんと触る。
赤ん坊の頬はふわふわで柔らかく、いつまでも触っていられそうだ。
「お風呂にする?ご飯にする?」
「…………」
なまえは愛想良く銀八に尋ねたが、銀八は答えなかった。
不審に思い、聞き直す。
「…あの、どっちにする?」
「そこは『それとも、わ・た・s「ご飯でいいよね」はい。お願いします」
一瞬で真顔に戻ったなまえは銀八から息子を抱き上げるとさっさと奥へ行ってしまった。
リビングのドアを開けた時、振り返って銀八に笑いかけた。
「…そういうのは、後でね」
その微笑みがまた、愛おしくて。
銀八は家族が待つその先へ、歩きだした。
廊下を歩いていると、バカ皇子―――ではなくハタ校長とすれ違った。
そのまま通り過ぎようとしたのに、最悪なことにヤツはそれを見逃さなかった。
「ちょっとちょっと君ね、なんで無視すんの」
「いやいや無視なんてそんな。ちょっと気付かないフリしようと思っただけで」
「それを無視っていうんだよ!!」
イラついた様子でハタ校長は溜め息をついた。
隣でじいこと教頭は我関せずといった様子でスマホで『ジャンプ+』を読んでいる。
「…で?何か様スか」
「来週の会議で使う資料なんだけどね、今日中に作っといて」
「それはいつも服部先生が作ってるヤツでしょ」
「服部先生は出張の準備で忙しいからね。キミ、今担任ないしヒマでしょ?」
「ヒマじゃ…」
「じゃ、そういうわけだから。頼んだぞよ~」
なんとか罰ゲームを逃れようと抵抗する銀八だったが、そんな魂胆はお見通しだったのか、ハタ校長はさっさと話を切り上げて行ってしまった。
「……チッ…」
ヒマじゃないのは本当だったのだ。
息子が生まれてからというもの、銀八は勤務時間が終われば真っ先に学校を飛び出し帰宅するようになった。
普通、学校の先生といえば授業が終わった放課後も業務が残っている。
翌日の授業で使う教材の準備、進行の確認。テストがあれば採点。
部活の顧問であれば部活の面倒だって見なくてはならない。
なんと銀八は担任を持っていないのをいいことに(?)、必要なすべての業務を下校時間までに終わらせているのだった。
もちろん、周囲の人々は皆、彼が一刻も早く帰宅したがる理由を知っている。
しかしそれほどまでに仕事ができる有能さがあるのなら、普段からそうしてくれ―――誰もがそう思っていた。
時刻は19時を過ぎた。
資料を仕上げた銀八が職員室に入ると、そこにはほとんど誰もいなかった。
隣の校長室ももう鍵がかかっていて、銀八は溜め息をついた。
「バカ校長はどうした?」
唯一残っていた月詠に尋ねた。
「何じゃぬし、まだ帰っておらんかったのか」
「バカ校長に仕事押しつけられちゃってさァ」
「バカ…ハタ校長なら随分前に帰ったぞ」
「マジか…あのバカ」
「わっちも帰るところじゃ。ぬしも早く帰りなんし。嫁と子が待っとるじゃろう」
「そーするわ」
呆れてしまった銀八は手にした書類を乱雑に放り、白衣を脱いだ。
なんだかドっと疲れた気がする。
早く帰ろう。
「あ゛ー…疲れた」
やっとの思いで自宅近くまで辿り着いた。
住宅街に入ると家々から夕飯の匂いが漂っている。
ああ…俺も早く嫁さんが作った飯を食べたい。
たどり着いた家のドアを開けると中はふわっと温かかった。
「ただいまァ……」
出た声は自分で思ったよりも低く、疲れ切っていた。
ドアに鍵をかけて上着を脱いでいると、待ちわびた顔が見られた。
「銀八、おかえりなさい」
眩しいくらいの笑顔で出迎えてくれたのは、愛する妻だった。
その腕には可愛い我が子を抱いて。
「ほら息子、パパおかえりーって」
「ばっ」
なまえの腕に抱かれた息子は小さな両手を一生懸命にこちらに伸ばしてきた。
思いっきり身を乗り出すせいでなまえがバランスを崩しそうになる。
「ぉおっと」
銀八は反射的に息子の脇に手を入れ、なまえに代わって息子を抱き上げた。
首は据わっているとはいえ、赤ん坊の身体はまだグニャグニャだ。
少しバランスが崩れただけで落としそうになる。
銀八に抱かれた息子はひときわ嬉しそうにきゃあと声を上げた。
「オイオイ。とんだ熱烈歓迎じゃねーか」
「銀八が来るまでずっとソワソワしてたんだよ」
ぴったり抱きついてくる息子が可愛くて、息子のほっぺをつんと触る。
赤ん坊の頬はふわふわで柔らかく、いつまでも触っていられそうだ。
「お風呂にする?ご飯にする?」
「…………」
なまえは愛想良く銀八に尋ねたが、銀八は答えなかった。
不審に思い、聞き直す。
「…あの、どっちにする?」
「そこは『それとも、わ・た・s「ご飯でいいよね」はい。お願いします」
一瞬で真顔に戻ったなまえは銀八から息子を抱き上げるとさっさと奥へ行ってしまった。
リビングのドアを開けた時、振り返って銀八に笑いかけた。
「…そういうのは、後でね」
その微笑みがまた、愛おしくて。
銀八は家族が待つその先へ、歩きだした。