ある日の昼休み。
昼食を終えて一休みしていたとき、スマホの通知音が鳴った。
届いたメッセージの送り主はなまえだった。

『ごめん
　今日遅くなりそう』

文はそれだけ。
銀八は　『りょーかい』　とだけ打ってメッセージを送信した。

今年度、担任を持たない銀八は時間に余裕を持てるようになった。
問題児揃いのクラス担任をしていた頃の忙しさは嘘のようだった。

反面、同じく高校教諭を務めるなまえは銀八とは別の高校でクラス担任を持っている。
やはり自分より業務量は多く、残業もそれなりにあるようだ。
彼女の負担が増えた分、自分がフォローしよう。
銀八はスマホの画面をオフにし、冷蔵庫の中身を思い出した。


「ただいまー…って、すごいいい匂い」

息を切らして名前が玄関のドアを閉めた。

「おう、おかえり」

なまえが帰宅する頃には、夕食の準備がばっちり整っていた。
羽織っていた上着を脱いだなまえは、目を輝かせる。

「わぁ～、美味しそう！もう食べていい？」
「どーぞ」

お許しを得たなまえは嬉しそうにテーブルについた。
子供のようにはしゃぐなまえを見ると、銀八も思わず笑みがこぼれた。

元々、料理はそこそこできる。
なまえの帰りが遅い日は銀八が夕飯作りを担当することはよくあることだった。
幸せそうに頬張るなまえを見て、誰かのために料理を作るってのもいいもんだなと銀八は思った。

「どーですか。お味のほうは？」
「すっごくおいしい。もうお店だせるくらい」
「いくらなんでも褒めすぎだって」

なまえとしては褒めすぎたつもりはなかったのだが。
こんな忙しい時、ちゃんとフォローしてくれるところがなまえは好きだった。

「銀八、いつもありがとう」