【完結】僕らのフェアリーテイル

聞いたところによれば、彼女の種族は生まれた場所などの記憶を持たないらしい。先日、誕生日のことを「なぁにそれ」と言っていたところを見てもそれは明白だった。彼女自身はさして気にしている様子もなかったのだが、世話好きのジェイドとしては、お祝い事の日が減るというのは少しどころかかなりいただけない、由々しき事態である。

「貴女は自分の出自を知らないということですので、代わりに僕と貴女が出会った日を記念日にしましょう。生まれた日がわからないのであれば、僕と出会った日が貴女の誕生日です。新しい世界に来て、生まれ変わったようなものですからね」
「…お誕生日…そうね…ふふっ…!私にもお誕生日ができたのね!嬉しい!」
「記念日はどれだけあっても嬉しいものですから。毎年お祝いをしましょうね、一緒に」

ぴょんっと飛び上がってジェイドの掌に乗っかった妖精は、両手でほっぺたを覆いながらニコニコと微笑んだ。
しかし次の瞬間には、ハッと目をまん丸に見開く。

「大変よジェイドさん!おたんじょうびにはプレゼントが必要って、この間貸してもらった本に書いてあったのよ。ジェイドさんはどんなものが好き?私あまり聞いたことがなかったわ!」
「僕は貴女からいただけるものならなんでも嬉しいですよ」
「そういうわけにはいかないじゃない!それに私なんていつももらってばかりだもの。お返しをしたいわ」

ジェイドの耳に響く『お返し』や『プレゼント』はとても甘美な音色を持っていた。口八丁で丸め込んで彼女を自分の部屋に住まわせ、結果的には双方同意で番となったわけだけれど、基本的には妖精がここにいてくれることが奇跡で、プレゼントのようなものであるので、それ以上を求める気はさらさらになかった。それでも相手からもらえる気持ちというのは心底嬉しいものである。少し考えたジェイドだったが直ぐに、それなら、と声をあげた。

「貴女と何処かへ出掛けたいです。大きくなった貴女と。本来の姿の貴女と出掛けることは僕にとってこの上なく楽しい時間ですが、同じ目線で世界を見るということは共に生きていく上で大切なことだと思いますので」
「また大きくなってもいいの?」
「貴女の負担にならない程度に、僕の見ている前であれば」

少し前の妖精病気事件がまだ尾を引いているのか、慎重になっているジェイドではあるが、あれ以来目立った事件は発生していないし、少しずつ妖精の主張も受け入れていこうと、そういうことのようだ。

「貴女にも、僕と生きる世界を楽しんでもらえるならば、それが何よりのプレゼントですよ」
「私だって…!ジェイドさんが私といることで幸せだと思ってくれるのなら、それ以上のことはないのよ!」

相思相愛のカップルは、この先も命尽きるまで煌めく世界を楽しんだに違いない。
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