■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)

部屋に着いた途端鍵がかかる音がして、振り向く間もなく抱きしめられた。彼の上着は私の視界を遮断して、私の世界は彼の胸の中だけになる。

「ルシフ」
「何も言わずに、」
「、ぇ」
「少しだけ…お前を堪能させてくれないか」

そんな切なげな声を発されては、その腕に収まることしかできなくて。

「私も、ルシファーと、ずっとこうしたかったよ」

そっと呟くと、私の背中に回っていた指がぴくりと反応した。

「だからね、私からも抱きしめて、いいかな…?」
「ふ…お前には、敵いそうもない」

奏でられてもいないのに、耳に響いてきたのはいつかルシファーが好きだと言っていたレコードの音。
きっと今夜は甘く蕩けるような夜を過ごせるのだろうと思うと、きつく抱きしめ合うだけのこの時間すらとても愛おしくて堪らないのだ。
遠回しに許可された『抱きしめ合う』という行為は、私だけの秘密。特別なコト。ルシファーの胸に擦り寄ると、トクリトクリと心臓の音がする。心地良くて安心するこの音は今、いつもより少しだけ早く脈打って、それは多分きっと、ルシファーがカッコつけていることを示しているので笑いが漏れた。

「…?突然どうした?」
「ううん、なんでもない!ただ、幸せだなって思っただけだよ」
「そうか…?…それで俺はこれからお前をどうすればいいだろう」
「それはもちろん、」

わかるでしょ?、とは、キスを強請った私の唇が塞がれたために声にはならなかった。
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