【完結】僕らの思春期に花束を

陸に来て一年目、メイドからチョコレートをもらった。はっきりと「義理」と言われた。
二年目は、いい人はいないんですか、と聞かれた上で、それなら今年も義理チョコを、と渡された。
三年目になって、今度は自分から渡してみようと手作りしていたらいい人ができたんだと勘違いされて撃沈した。
そうして四年目はチョコを作ると勘違いされるので、購入したチョコに花束を添えてみたところ、感謝の気持ちと間違われた。
どうしてこうも伝わらないのかと涙で枕を濡らしてから早一年。
ジェイドも十七歳になり、どうにかメイドとアレコレしたいお年頃である。
いっそのこと気がないフリでもしてみようかと、「バレンタイン?何それ美味しいの」というような顔で今日この日を過ごしていた。

しかしだ。
当日がきたにも関わらず、夕食が終わっても何もないではないか。五年目も進展がなかったかと半ば諦めの境地で、ご馳走さまでしたとフォークを置いたその時だ。

「ジェイド坊ちゃん、もう少しだけお時間いいですか?」

メイドからお声がかかった。
ジェイドの胸は高鳴った。
やっとこの時が!天は僕を見捨てなかった!
思春期も期待で少し起き上がる。

「はい。貴女との時間ならいくらでもとりますよ。なんでしょうか」
「えっと…ガトーショコラを焼いたんですが、一緒に食べませんか?」
「、へ?」

いつも冷静なジェイドだが、この時ばかりは間抜けな声をあげてしまう。否。メイド相手にはいつだって普段の自分ではいられないのだ。

「ほ、ほら!今日はバレンタインでしょう?いつもどっちかがどっちかに贈り物って形でしたから、今年は二人で楽しみませんか?せっかく五回目ですから」
「二人で?」
「私はガトーショコラを用意しましたから、ジェイド坊ちゃんは美味しい紅茶を淹れてくれません?」

お恥ずかしいですが未だに坊ちゃんが淹れるよりも美味しい紅茶はできないんです、なんてはにかむものだから、思わず顔を覆ってしまった。

「ジーザス」
「へ?なんて?」
「いえ、素敵な提案ですねと言ったんですよ」
「本当ですか?」
「ええ、早速準備をして、食後のデザートを堪能しましょう」

ジェイドの気持ちが伝わるにはまだまだかかりそうだけれど、こうして、大好きなメイドとの時間という思いがけないプレゼントが手に入った。
今年のバレンタインは幸せいっぱいだったなと、思春期日記に書き込んで眠りについたと知るものは、窓から覗いた野良猫だけ。
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