obm V!

 誰よりも魅力的なあなたに贈るとっておきのプレゼント。気に入ってもらえるといいなと一生懸命考えた。人間界の風習になぞらえるならチョコレート菓子か花束になるんだろうけど、ここはあえての意趣返し。
 品の良い小さな袋を指先に引っ掛けて部屋を出る。
 目的の人物はライブラリーの暖炉の前に座っていた。

「アスモ!」
「あっ!ちょうどいいところに〜!僕も君を探してたんだ」
「えっ、そ、そうなんだ。それなら、アスモの用事から聞いてもいい?」

 声をかければ、彼も私を探していたという。
 少しだけ、『もしかして』と不安が過ぎる。可能性として考えなかったわけじゃない。アスモが『今日が何の日か知っている』こと。そして万が一にも同じものを買っているんじゃないかってこと。

「はい、これ。プレゼントだよ!」
「うっ」
「?どうしたの?プレゼント、嬉しくない?」
「そんなわけないよ!嬉しい、ありがとう!でも、その、えっと……驚かないでね?」

 私が持ってきた袋から取り出したのは、今、アスモが渡してくれた箱と全く同じパッケージ。つまり、そういうこと。
 万が一、と思っていたことは現実になり、同じものを交換する形になってしまったのだ。

「わぁお、本当に?」
「ごめんね、せっかくくれたのに……同じものなんて……」
「すごぉい!僕たちお揃いだね!!同じこと考えてたってすごくない!?」
「!」

 そのポジティブな発想は私の脳に衝撃を与えた。被ってしまったのは悪いことではなく、同じことを考えていた、お揃いになった、それが嬉しいだなんて。全く、アスモには脱帽だ。

「ありがとう、アスモ」
「ん?うん!プレゼント、気に入ってもらえるといいな!」
「ううん、そうじゃなくて。喜んでもらえてよかったなって……」
「何言ってるの?君から貰ったものが嬉しくないわけないじゃない!大切にするね」

 ぎゅっと一つ、ハグが返ってきて、ほぅっと緊張が解れた。それを感じ取ったのか、どうしてそんなに緊張してたの?僕、こんなところで君にイカガワシイことしたりしないよ?と揶揄われて一頻り笑いあう。

「ねぇねえ、開けてもいい!?」
「もちろん。でも入ってるものは一緒だよ?」
「一緒って言っても、カラーバリエーションがたくさんあったでしょ?気になっちゃって!」
「あ、それは確かに。気に入ってもらえるといいけど……」

 再び心配で胸をドキドキさせながら、アスモが箱を開けるのを見守るも、宝物を手にしたかのように、そっと蓋を開けた直後のアスモの表情を見るのが怖くなって、私も自分のもらったプレゼントの方に意識を集中させることにした。開けた箱の中には、自分ではきっと買わないだろうなというような赤みが強いリップが入っていた。でも私には、これが絶対私に似合うんだろうなという自信が湧いてくる。アスモが選んでくれたんだから間違いない。
 ついさっきまで、アスモがどう思っているのかが怖くてそちらに向けられなかった視線を、いとも簡単に戻して感謝を述べようとした刹那。飛び込んできた柔らかい表情に目を見張ってしまった。
 それは今まで見てきたどのアスモの表情よりも、息を呑むのすら躊躇われるほどに美しい。

「あ、すも……?」
「……君は、僕にはこの色が似合うって思ってくれたんだ?」

 アスモの瞳に自分が映って、ハッと今ここに意識を戻した私は、あわわっとしつつ、なんとか言葉を発した。

「う、うん!そう!アスモの綺麗な唇には薄付きの色の方が映えるかなって」
「そっかぁ……うん、そっかそっか〜!」
「あ……もしかして、やっぱりもう少し濃い色のほうが好みだったかな」
「そんなわけないじゃない!素材を褒めてもらえるってとっても嬉しいなっ」
「そう?それならよかった……!ねぇ、私も聞いてもいいかな?アスモはどうして私にこれを?」

 リップなんて贈ってもらったことは、これまでの人生になかったので、純粋な興味で聞いたのだけれど、どうやらそれは間違いだったみたい。いつもにこにこ可愛い顔に、突然男らしさが混じって私を覗き込むので、心臓がドキリと波打った。

「好きなコにリップを贈る意味、なんて一つしかないじゃない」
「えっ、な、ッン!」
「ん、ちゅ!君とキスしたいってことだよ♡」
「っ〜!!」

 いくら皆がいないライブラリーだっていっても、いつ誰がくるかわからないのに、アスモはいつだって大胆だ。でもそんなところも含めて好きなんだから私もだいぶ末期かも。

「続きはまた、あとで、ね」
「っも……アスモったら!と、とにかくっ……大切に使うねっ、ありがとうっ」
「うん!僕も大切にする!」

 にっこり微笑んで、部屋に戻ったらさっそくつけちゃお〜♪、と喜んでいたアスモだったけど、突然『大事なこと忘れてた!』と大慌てで私のほうに向き直る。クエスチョンマークを浮かべていると、アスモはにっこり笑ってこう言った。

「僕は世界で一番僕のことが大好き!それで、君はその次にだーーーい好きだよっ!」
「ありがとう……!そんなこと言ってもらえて、とっても嬉しい」
「伝えなくっちゃ伝わらないからね、ちゃんと言わなくっちゃって心がけてるんだ。でもこのままいくと、君が僕の一番になる日もそう遠くない気がする!君は毎日魅力的になっていくもの」
「それはとても光栄だけど、でも、私はずっと二番でいいかな」

 本心を告げると、キョトンとした顔が返ってくる。可愛いなぁ。誰よりも可愛い小悪魔アスモは、その可愛い表情を保ったままちょっと考えて、降参と笑った。

「どうして?理由が知りたいんだけど。普通は一番がいいって思わない?」
「だってね、私の一番は、これからも、きっとずっとアスモだから。私が一番好きなアスモが、アスモ自身のことを一番好きで一番輝いてるって素敵なことでしょ?だからアスモにはそのままでいてほしいな」

 だから私は、あなたの中のナンバー2で構わない。けど、絶対に。

「でもアスモのナンバー2は誰にも譲らないから!」

 その返事は『そんなこと言われたら、もっと惚れちゃう』とのセリフに加えてハグとキスの嵐。このキスも、近いうちに、お揃いのリップで交わすようになるんだろうと思えば、とてもくすぐったくて、とても嬉しかった。
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