■読み切りログ(ルシファー以外)

今日はわたしの誕生日。
まさか魔界でこんなにも盛大にお祝いしてもらえるなんて思いもよらなかったから、一日中ハッピーな気持ちでいっぱいだった。
日付が変わると同時にアスモが連絡をくれて。それから朝一番でサタン。続いて魔王組も天使組もソロモンだって他の兄弟も。みんな一緒にお祝いしてくれたにもかかわらず、個別にもお祝いのメッセージをくれてとても暖かい気持ちで満たされていた。
ルシファーからなんて、ついさっき、楽しんでもらえたならよかった、なんて言葉をもらって、嬉しいと同時に少し戸惑ってしまったくらいだ。
D.D.Dを見返しながらベッドの上でゴロゴロ。
素敵な誕生日を思い返して一人百面相をしていて、ふと、あれ?と気づいてしまった。

「ベルフェからは連絡もらってないんだ…」

お祝いは確かに「みんな」にしてもらったし、特別気にすることでもないんだけれど、さっきも言ったように、兄弟含め一人一人個別にも言葉をかけてもらっていたのでなんだかチクリと心に棘が刺さったように感じた。
ベルフェは、私がリリスに関係のある人間だと知ってからは前みたいに態度が刺々しいどころか懐いてくれていると思っていたから余計にそう感じてしまったのかもしれない。

「…きっと寝てるんだよね。ルシファーも、みんなは準備頑張ってくれたって言ってたし」

時刻はまだ夜中には程遠い。
もう少し待ってみたら、もしかしたら。
私が傲慢を司どってるみたいな考えがむくむく湧いてきて、ちょっと笑ってしまった。
忘れようと思って別のことをしてみても、ついついD.D.Dを開いてしまう。探すのはベルフェの名前だけど特に何も起こっていなくて、デビルグラムをタップしては誰の更新もないことを確認して画面を閉じる。
ベルフェのことを考えてしまって何も手につかないから仕方なくベッドに倒れ込んで天井を見上げる以外にできることがなくなってしまった。
そんなことを繰り返していれば、時計はあと五分で一日が終わるところまできていた。

「やだ!もうこんな時間?私、何してんだろ…寝よ寝よ…」

期待しすぎの自分が恥ずかしくなって、部屋のライトを消そうと立ち上がった、ちょうどそのとき。

ブブ…

D.D.Dが震えて、凄い勢いで駆け寄って通話ボタンをタップして少しバツが悪くなった。ちょっとくらい間を開けないと待ち焦がれていたみたいだ。

「あのっ、」
「僕だよ」
「ベルフェ…っ、ど、どうしたの、こんな時間に」
「ねぇ、今何考えてた?」
「へ!?」
「僕のこと、考えてたでしょ」

ドンピシャの図星を言い当てられてはYESとも NOとも返すことができず、押し黙ってしまった。でも、そんな態度はベルフェの思う壺だったようだ。クスリと一つ、吐息のような笑い声がして、悪戯な彼はこう告げた。

「大成功」
「、え?」
「最後まで連絡しなかったら、あんたは絶対、僕のことで頭をいっぱいにしてくれると思ってた」
「!」
「こんなに待ってもらえてるなんて、嬉しい」
「そんなっ、じゃあもしかしてそのために!?」
「だってみんなと同じことしてもつまらないじゃない。あんたには僕だけのことを考えててほしいから」
「っ…!」

トントン、と扉を叩く音が、通話口と、自分の部屋とから同時に聴こえて、ハッとする。

「ねぇ、ここ、開けてよ。日付が変わるまで誕生日なんだからさ、その瞬間まで一緒にいたいな」

悪魔の囁きはいつだって甘やか。
私はこの声に逆らえず、扉を開けて彼を迎えいれるだろう。
日付が変わっても、彼と二人で夢の中を揺蕩うんだ。

カチャリ、小さな音を立てて扉が開く。

「ハッピーバースデー。だいすきな君へ」

ちゅっとリップノイズが耳に届くと同時、D.D.Dの表示が0:00に変わった。
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