◆聖夜の星に願い事

部屋に着いてもルシファーは私を離すことなくそのままソファーに座った。ぎゅっと抱きしめられたままでとまどいを隠せない。
けれど恥ずかしいよりもルシファーをこんな風にしてしまったことを申し訳ないと思う気持ちのほうが強く、何も言葉を発せないまま、その背中をなるべく優しく撫でることしかできなかった。
きっと落ち着いたら分かり合えるよねと願う。やっぱり、どうやってもこの体温を、ルシファーから受ける愛情を、手放したくないと思ってしまった。心地よい居場所、大好きなんて言葉じゃもう収まらない、愛という感情。ルシファーの腕の中で、私は意識を全て彼にゆだねた。



「……あれ……私……」
「気づいたか」
「……ルシファー……?」
少し身体が重い。ルシファーが私をのぞき込むように覆いかぶさっているところを見ると、どうやら私は眠ってしまっていたようだ。大事な話をしようとしていたのに、なんて情けない。
「っごめん、もしかしなくても私、寝ちゃってた?」
「ああ。覚えているか?おまえがそのまま寝てしまったから少し心配した」
「今、何時、」
「そんなに急いで起き上がるんじゃない。焦らなくても今日は休みにしておいた」
私の身体をやんわりと抑えて、またベッドに横にならされたが、休みにしておいたとはどういうことだと慌てて顔を見つめる。
「ゆっくり話し合う時間が必要かと思ったんだ。俺は……その、思ったことをストレートに表現するのが得意じゃない」
くしゃりと表情を歪めたくせに、酷く優しい微笑みをたたえたルシファーは今にも壊れそうに脆く見えた。
そのまま私の頬をなでた指先。最初はひやりと私の肌を驚かせたが徐々に私の体温が移っていき、掌で耳を撫でられるころにはほんのりと暖くなっていた。
「……ルシファー、」
「ん?」
「ごめんね……ルシファーにそんな顔させるために黙ってたんじゃないの」
「そんな顔?」
「言ったらむしろ、重いって思われると思って」
「重いとはどういうことだ?」
「っふふ……!ルシファー、今日は聞いてばっかりだ」
「っ……!?それはおまえの物言いが、」
「うん、ごめん、ごめんね。そうだね、私が悪かったって思ってる」
こちらからもルシファーの頭を抱え込むように引き寄せれば、大人しく私に体重を預けてくれる、そんなちょっとしたことがこんなにも私の心を満たす。今更離れろと言われたところで無理だったのに、何を心配していたんだろう。運命なんか抗ってしまえばいいんだ。
「ルシファーとね、離れたくないって思ったの」
「は?」
「わっ!怒らないでよぅ……」
「……いや、怒ってはないが、」
「ほんとかなぁ~?……なんてね、冗談。……私はね、人間は悪魔みたいに長く生きれないなって、悩んでたんだ」
「!」
「ルシファーは、いつか私に言ったよね。おまえの生きる場所は人間界だって。でも私、戻ってきたよ。自分の意志で、戻ってきた。それでも悪魔にはなれないんだって思っちゃった」
「おまえ……」
「どうやっても、ルシファーを置いて去らないといけないんだって思ったら、今のうちからっきっ、嫌われたほうが、っいいかもって」
泣くなと自分の脳に信号を送っても、そんな叱咤激励には私の脳は応えてくれなかった。言い終わるや否や一つこぼれた涙は目じりを伝って静かに流れる。嗚咽だけは噛み殺せたので、そこだけでも褒めてほしい。
「ふ……俺はとんでもない人間をマスターに選んでしまったようだな」
そう告げると、ルシファーは少しだけ顔をずらして、私の頬にキスをした。そしてそのまま耳にささやく。
「人間は、死んだら魂が残るだろう」
「っ、うん……?」
「俺はおまえに教えたな。悪魔は美しい魂を好むと」
「あ、」
「おまえが死んだらおまえの魂は俺が喰ってやる。そうしたら永遠に一緒だ」
顔を横に向ければ、紅い瞳が私を……私だけを映す。
「好きだ、なんて言葉じゃ、もう到底収まらない」
「ぇ、」
「だから俺は、おまえに言うだろう、愛していると。俺は確かに、おまえが嫌だと言うまではそばにいようと言ったが、おまえが願おうと嫌がろうと、おまえの魂は俺のものだ。それだけは誰にも譲らない」
「死んでも、一緒、」
「そうだ。だから去ることを恐れるな。俺はおまえと契約しておまえの一部になった。次はおまえが俺の一部になる番がくる、それだけだ。心配するな」
ぎゅっと私を胸に抱き寄せたルシファーこそ、宝物を失うことを恐れるような手つきで。こんなことを言って安心させようとしてくれていても、きっと遺されることこそが本当に怖いことなんだと悟ったら、押し留めた涙はまた簡単に溢れ出した。
そんな私をただ撫でてあやし続けてくれる優しさに包まれて、死ぬまではずっとルシファーだけを愛するよと誓う。
言葉だけでは到底伝えられない愛という気持ちが、少しでもルシファーに届きますようにと、希いながら。
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