◆悪魔とメリークリスマス

お昼休み。
たまたま廊下ですれ違ったバルバトスと他愛もない話をしていると、ぴゅぅっと冷たい風が吹き抜けた。くしゅん!と一つ私がくしゃみをすると、バルバトスが「おや」と目を丸くする。
それから私の方を向いて屈んだと思えば、両手で頬を包み込まれた。途端、ぴゃっとこちらの肩が跳ね上がるのもお構いなしに言葉が紡がれる。
「今日はこの間以上にもこもこしておりますね。やはり寒いですか?」
「うう……寒いよぉ……あとバルバトス近い……」
「寒さは仕方ないとしても距離感には慣れていただきませんと」
「うっ……それこそ無理……」
目と鼻の先でふふっと笑いかけられてしまってはそれ以上言葉もなかった。

話を寒さについてに戻そう。
私の故郷には四季があるから、一年を通して同じ制服を着ることはないわけだけど、実は魔界に来てからは一度たりとも制服の構造が変わったことはなかった。
国(というか世界?)によって気候が変わるのはもちろん理解しているし、種族が変わればきっと外が少し寒いことの感じ方も違うんだろうとも思う。
それでもRADの中はとても快適に過ごせていることから、魔法や何かで気温が一定に保たれているのかな、なんて勝手に思っていた。
一方で、薬学の授業などでは窓が開け放たれるせいで、そんな時に寒い風が吹き込んできたらひとたまりもない。気温が一気に下がって正直凍るほど寒い。
周りの悪魔たちはその程度慣れっこなのかどこ吹く風といった様子でいるから羨ましい。
そんな感じであまりにも寒そうだと憐れまれたのか、この間マモンとレヴィがくれた羊のポンチョだけが頼りだ。あ、うそ。バルバトスがくれたマフラーと手袋も大切な防寒具。
ただそれらを愛用しても、一度下がった体温はなかなか上がることはなく、ブルブルと身体の芯から震えがくる。ポンチョをぎゅうっと胸の中心で握っても、全然治らない。素手が真っ赤だ。温めてあげられなくてごめんね、私のおてて。
「おや?今日は手袋をされていないのですか」
「ううん……持ってはいるよ。でも手袋してるとペン持てないから校舎の中では外してるの。着けたり外したりしてると落としちゃうかもしれないし」
さすさすと冷え切った掌をこすり合わせていると、ふむ、と顎に手を当てたバルバトス。どうしたのかなと見つめていると、いつもしている白い手袋を取り外し、彼は徐に私の手を取った。
「ひぇ、え!?」
「素肌は暖かいと言いますからね。僭越ながら私が温めましょう」
所謂恋人繋ぎというそれ。きゅっと絡められた指先から伝わる温度はじんわりと私に熱を送って、ぽかぽかどころか熱くなってきた。
こんなの恥ずか死んじゃぅ……と蚊の鳴くような声を出した私を迷わずからかいに来たマモンをあしらいながらも、バルバトスはその手を離さなかった。
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