2023 advent calendar

 クリスマスが近づくにつれ、街がクリスマスの装いを増す。魔界は天界とも交流があるからか、私の知るクリスマスの再現性がとても高く、たまに自分がどの世界にいるのか見失いそうになるほどだ。人間界にいた頃に毎年行っていたクリスマスマーケットを思い出してはサタンくんに話して聞かせたのが彼の知的好奇心を刺激したらしく、知っていることを教えたり、逆に知らない逸話を教えてもらったり、ある時は一緒に調べてみたりと毎日がドキドキワクワクで溢れている。
 そんな私たちの今日の話題は、クリスマスのお菓子。とりわけ、ドレンチェリーについてだ。
 ゆらゆらゆれるキャンドルを前に、私はレシピ本を開いて指差した。
「今日はドレンチェリーを使ってクッキーとケーキを試作するよ」
「これが、食べられるのか?子どもが飯事で使う、偽物の菓子みたいだ」
「ふふ、たしかに見た目はチープかもしれないけど、これぞクリスマスって感じがするんだよ?食べてみる?……って言っても、魔界の食材でそれっぽいものに仕上げてるだけなんだけどね」
 私のセリフに対し、サタンくんはこくりと頷くそぶりを見せ、けれどそうはせず、こう言った。
「君が食べさせてくれるなら」
「え、」
「食べさせてくれるなら、試してみようかな」
 控え目に口を開いて待たれてしまっては、こちらもやるしかないというもの。平常心平常心と唱えながら、小さなフォークに一つ刺したドレンチェリーを彼の舌の上に乗せた。一挙一動をじっと見られているから恥ずかしさでくらくらする。それなのに好きな人が何かを食べるという行為がやけに色っぽく思えてきて、サタンくんがそれを味わっている姿から目が離せなくなった。
 ぺろりと唇を舐めた艶やかな舌の色がドレンチェリーのように真っ赤だったことまで焼き付けていたところで、くしゃりと笑うサタンくんにハッとして顔ごと逸らそうとしたけれど、時はすでに遅し。彼がそれを許してくれるはずもなかった。
「そんなに見つめて。君も味見してみる?」
「えっ、あ、」
「今なら俺の口から味わえちゃうけど」
 イタズラな微笑みからまた目が離せなくなったら、それをイエスと受け取ったのか端正な顔が近づいた。

 クリスマスってこんなにも甘いんだね、サタンくん。吐息を交えるまでの刹那までの全てが、私をいっぱいにしてこんなにも夢中にさせるんだから。
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