obm V!

ぼくはバレンタインデーが1年の中で2番目に嫌いだ。
右を見ても左を見てもチョコ、挙句の果てにはゲーム内でもバレンタイン一色である。
クリスマスと同様、リア充どもが羽虫のようにわいては目の前で見せびらかすようにいちゃいちゃしている。
目ざわりで、鬱陶しくて、うらやましい。
ぼくには一生縁のないもので、うらやましくてうらやましくてうらやましくて、同時に惨めになる。
だから、ぼくはバレンタインが2番目に嫌いだ。

そんな2月14日、目の前にはチョコが鎮座している。
中身は可愛らしく、所々にハート型のチョコが散りばめられている。
贈り主は、ぼくを含めた兄弟たちの注目の的のあいつ。
あいつからチョコをもらえた喜びをかみしめると同時に、ほかの兄弟にも上げてるんだろうなということが易々と想像できて素直に喜べないのが現実だ。
その中の1つはいわゆる本命というものの可能性があると思うと、胃の底がずんと重くなった。
そりゃあのハイスペ達にくらべたらぼくなんて足元にも及ばないけど、けど…。
もし、あいつの想う1番がいるなら。
「あいつのいちばんは、ぼくがじゃなきゃやだ…」
ぽろりと口から出た言葉はまぎれもない本心で、声に出したことによってその気持ちがさらに強くなる。
2番や3番じゃだめだ、1番じゃなきゃ何の意味もない。



突然静かな部屋に通知音が響き渡った。
D.D.Dに目をやると兄弟グループでマモンがなにやら画像を送ったようで、ロックを解除して確認するとそれはチョコの画像で、おそらくあいつからもらった物だろう。
よくよく見るとぼくの目の前にある物とは違うもので、これが本命かもと考えると闇が侵食するようにじわりと嫉妬の念が湧いて出る。
見ていたくなくて、伏せようとした直後に送られた画像にぴたりと動きを止めた。
次の送信主はサタンで、マモンが送ったものと瓜二つのものがそこにはあった。
「…は」

衝撃、しばし息をすることを忘れた。
続けざまにほかの兄弟たちからも送られるが、どれも同じでぼくの手元にあるものだけが違った。
ガツンと頭を殴られたような感覚が襲う。

「(ま、って…ぼくのが、ぼくが、もしかしてほほ本命…!?!
 い、いやいやレヴィアタン期待するな、7個も同じものがなかったからぼくのだけ違ったりするだけで…!
 ってちょっと待ってほかの兄弟のチョコにハート型の物入って無くない!?!?!
 このハートってそういう意味!?
 本当にぼく宛てなんだよな!?!?!うん、ちゃんと「レヴィへ」って書いてある紙はある!
 ほ、本当にぼく?)」

期待しなければ落ち込む事はない。でも、もしかしたら?なんて気持ちがむくむくと膨らんでいく。

「(どうしようあいつに聞くべきかな、でもこれで意図なんてないって言われたらぼく本当に落ち込んで少なくとも100年は引きこもれる自信ある。
 でもこれがいわゆる本命だったら、死ぬほどうれしい)」

うんうんと悩んでいると突然部屋がノックされて、おもわず飛び上がった。
「レヴィ、いる?」
「ちょ、ちょっとまって今開ける!」
声は今まさに頭を悩ませている相手で、慌てて扉へと近寄る。
ガチャリと扉を開けるとあいつが立っていて、こっちの姿を視認するとへにゃりと笑った。
「よかった、えへへ、突然来てごめんね。あの、ちょっと伝えたい事あって…。
 …あの、ね、チョコ、レヴィのだけ違うの気がついた?」

どく、と心臓が音を立てる。

「う、うん………あの、あれってさ…えっと………」
なんて言っていいのかわからなくなって黙ると、二人の間に静寂が落ちる。
「…」
「…」
チラリとあいつの様子を伺うと、なにか決めたように、ぼくの方を真っ直ぐ見てくる。
そして、息を吸って……あれ、これもしかして…。
「あのね、私‥‥」
「ま、まって!」
さえぎって思わず大きな声を出すと、あいつはびくりと止まった。
「ご、ごめん。…だけど、ぼくから言わせて」
突然大きな声を出して申し訳なかったが、どうしてもその言葉はぼくから言いたかった。
目の前の相手は静かに頷くと、ぼくの言葉を待つ。
今度はぼくが大きく息を吸った。

心臓がこれ以上ないくらい早鐘を打つ。
どうか、噛みませんように。おまえが、頷いて、くれますように。

「ぼくは、おまえのことが――」








ぼくはバレンタインデーが1年の中で2番目に嫌いだった。
右を見ても左を見てもチョコ、挙句の果てにはゲーム内でもバレンタイン一色である。
クリスマスと同様、羽虫のようにわいては目の前で見せびらかすようにいちゃいちゃしている。
目ざわりで、鬱陶しくて、うらやましい。
僕には一生縁のないものだった。うらやましくてうらやましくてうらやましくて、同時に惨めだった。

自分のことながら単純すぎて笑いが出る。
けれど、目の前で心底嬉しそうに笑っているあいつを見たら、バレンタインデーも捨てたもんじゃないって思ったんだ。
3/12ページ
スキ