◆一番星に口付けを

 いつも追い求めていた。でも、求めてはいけないのだとも思っていた。目を瞑った瞬間、それは弾けて消えてしまうんじゃないかと。だから今でも眠るのは少し怖い。今更、全部夢でしたなんて言われたらどうすればいいのかわからないから。
 湧き上がる歓声にはどう答えればよいの?シュミレーションと全く違うのは、私自身の気持ち。たった五分の持ち時間でも長く感じたあの頃とは違う。今は三十分歌っても一瞬で過ぎ去ってしまう。もっと歌いたい。もっとステージに立っていたい。それでも終わりはきてしまう。
 ずっと振り続けていたい手を名残惜しくも下ろして袖に向かうと、待機していたバルバトスさんがニコリと微笑む。
「お疲れ様でした」
 控えめにあげられる手に、トン、と自分の手を合わせる。これが、私たちのハイタッチ。
「終わっちゃいました」
「また次がありますよ」
 ドキドキはまだおさまらない。それどころかバルバトスさんの言葉に、また鼓動が高鳴る。

 舞台に上がるのが怖かった。一人だと思い知らされるから。誰にも必要とされていないと、気づくから。
 でも今は違う。

「次は、次はもっと」
「ええ、そうですね。きっともっと盛り上がります。ですから今は休息を」
「わ!?」
「ふらついていますね。あれだけはしゃげば仕方ありませんが……今後はもう少し、ペース配分に気をつけていきましょうね」
 抱き上げられるままにその腕に収まると、いつもの距離と変わらないのにソワソワするのは、なんの感情なんだろう。
 瞼の裏には先程の光景がちらつく。
 まだ興奮が治らないからこその感情なのかな。
「バルバトスさん、私をここに連れてきてくださって、ありがとうございます」
「まだまだこれから、ですよ」
 二人三脚でかけあがる。
 その先の景色に想いを馳せて。
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