2023 advent calendar

 かち、こち、とレトロな音を響かせる古い時計が示す時刻は二十二時。夜空には、チープな電飾がぴかぴかと良く映えた。
「うん。手作り感があっていいんじゃない?」
 あとはこの星をツリーのてっぺんに飾れば「らしさ」が増すことだろう。魔界でクリスマスのお祝いをすることには正直あまり賛同はできないが、それを言うなら人間界----否、日本でだってクリスマスの意味を知った上で祝う人は少ないだろうから、同じような感覚と思えばいい。
 手にした星を眺めながら随分の間ぼーっとしていたようだ。背後に近づいていた気配にも全く気づいていなかったので、声をかけられても咄嗟に振り返ることができなかった。冷えた身体は簡単には動いてくれない。
「こんな時間までこちらにいらしては過保護な兄弟たちが心配なさるのでは?」
「私はもう成人だよ、バルバトス。過保護すぎるのも問題だと思わない?住まわせてもらってる分、門限は守るけどね」
「門限は何時なのですか?」
「午後八時」
「おや、もう随分過ぎているように見えますが」
 くすくすと笑う彼は私からそっと星を取り上げ、とん、と私の手のひらに人差し指を立てた。おまじないです、と言い、その指が離れた刹那、そこからジンワリと暖かいものが広がって身体がホカホカと解れる。
「……!あったかい」
「このような時、魔力はとても便利です」
「私、基礎はかなりできてるって言われてるけど、こういうことはてんでダメなの。それをどう応用するかのアイデアがね、まだ自分で生み出せる段階には至ってないみたい」
 肩をすくめて見せると、バルバトスは顎に指を当てて何やら思案顔をする。何か変なことを言ったかなと首を傾げたところでバルバトスが口を開く。
「ですがわたくしの本音を申し上げますと、あなたに魔力を扱えるようになっていただきたくはありません」
「どうして?」
「わかりませんか?あなたがわたくしを頼ってくださるシーンが減ってしまうから、ですよ」
 微笑みの下に狡い顔を隠しているこの悪魔がなんでもないことのように告げたのは、私にとって都合のいいセリフだった。
「……それは……私が誰かに頼ったら嫌で、頼るならバルバトスだけにして、って聞こえる、けど」
「ええ、それ以外の意味を込めた覚えはございません。ただでさえ少ないチャンスを逃すわけには参りませんので」
「いつも言ってるのに。私はバルバトスにしか興味ないって」
「けれどライバルが多いので。いつ何時も、あなたはわたくしのもの、と三界中にアピールしなければなりません」
「どうやってするのか、教えてくれる?」
「ふふ、あなたも大胆になりましたね」
「っ、な、」
「シー……もちろん、かまいませんよ」
 ツリーの大きな影に隠れて、唇に触れた指先からは魔力は感じなかったけれど、その指先はさっきよりもずっとずっと熱かった。
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