◆薄明の暁星
ぽかぽか。春みたいな陽射しが空から降り注ぐ。家から少し離れた公園の芝生の上に寝転ぶ私。あまりに長閑なのでここがどこだか忘れてしまいそう。
今朝、今日は何しようかと話していたときに、そういえば兄弟だけでなくディアボロにまで土産物をせびられたんだったとルシファーが頭を抱えたので、じゃあお土産ショップ巡りをしようと外に出てから二時間あまり。休憩がてらここにきた。
「贅沢だなぁ……」
「なにがだ?」
「わっ!!」
真っ青な空と私の間に突然割り込んできた端正な顔に驚かされた。もう随分と見てきたはずなのに未だ慣れることはない。好きの気持ちは近くにいればいるほど加速している。会えば落ち着くだろうと思ったのは、ただの主観だったみたいだ。
そんなに驚かなくてもいいだろう、と笑いながら隣に座ったルシファーの手には、コーヒーと、それからアイスクリームが握られていた。
「ほら、こっちはおまえのだ。食べたいと言っていたろう」
「もう出てたの?」
「このところ暖かくなってきたしいい天気が続いているから早めに出しているそうだ。運がよかったな」
手渡されたアイスクリームは欧米サイズとでも言えばいいのか、コーンから溢れ出そうなくらい大盛り。慌てて縁の方から急いで舐めとる。ルシファーはそんな私を見てははっと笑った。
「笑ってる場合じゃないってば!ああこっち側も!」
「そんな小さなスプーンで掬ったり舐めたりするよりかぶりついたほうがいいんじゃないか?」
「家で一人ならやるよ!?でもこんな外で」
「あ」
「へ……あ、」
ぱかっと口を開けたルシファーは私の手を徐に握ったと思ったら、そのまま自分の口までそれを運び、ぱく、とアイスを齧った。
開いたそこに吸い込まれていったアイスクリーム。伏せられた瞳にささやかな影を落とすまつ毛。それから唇の端に残ったものを舐めとった艶かしい赤い舌。離れていく間にゆっくりとまた開いていく瞼の合間から紅が覗く。
それら一つ一つをスローモーションで眺めた私はポカンと口を開けたまま思考停止した。
「ん……案外甘いんだな」
「……」
「どうした。落ちるぞ?」
「ッハ!!」
「早く食え」
「なっ、なぁっ!?私のっあ、あいっ」
「一口くらいいいだろう」
私とは対象的に涼しい顔のルシファーは、コーヒーを口に含むと、おまえの淹れる苦さが一番うまいな、などと漏らすのでもうどうしようもないくらいに頬が赤くなったのがわかった。
「るしふぁーがてんねんたらしだぁ……っ……」
「聞き捨てならないな。俺が誰にでもこんな風じゃないことくらい、おまえが一番よくわかっているはずだが?」
「そ、れは……っ……そう、だけど……私がこれ以上ルシファーに夢中になっても困るでしょ……」
「それは好都合だ。どこまでも俺だけ見ていろ」
揶揄うでもなくそんなことをとても嬉しそうに目を細めて言うルシファーに、もじもじしながらアイスを頬張る私。とてもじゃないけどこの悪魔にこんな人間じゃ釣り合わないなと思う。そもそもなんでルシファーは私のことを好きになってくれたんだろう。こんな小娘を。
(理由、聞いたことあったっけ……?)
今更という感じではあるけれど、突然気になりはじめて、気になったら聞きたくてソワソワしてしまうのは仕方ない。アイスを口に運びながらルシファーの顔をチラ見すると、すぐその視線に気づき、不思議がる彼は子どもみたいだ。
「なんだ?」
「ん!?いや!?なんでもないよっ!?」
しかしよく考えてみれば、私だってルシファーを好きになったのに決定打があったわけではない。徐々に、ごく自然に、兄弟の中でもルシファーに惹かれたのだ。冷静沈着そうで意外と表情豊かなところ。なんでも卒なくこなす傍で、ピークに達すると信じられないような格好で寝こけていること。朝が弱いところ。実は甘すぎるくらい甘いところ。傲慢とは名ばかりでとても優しいところ。それら一つ一つを知っていく中でルシファーのことを好きになっていった。だからきっと、こんな質問は野暮だ。というか聞き返されても困るから聞かないのが吉だろうと、開いた口をそのまま閉じた直後。ぼーっと前に向いていた視線がもう一度ゆっくりとこちらに向けられた。
「いい機会だから聞くが」
「へ?」
「おまえはなんで俺を選んだ」
「は、」
「兄弟全員と契約し、それから俺のところへ来たな。その間にいろいろあったろう。兄弟たちは皆難儀だが、RADでも一目置かれる存在だ。それでもおまえは俺がよかったんだろう?なぜだ?」
その返事には唖然とせざるをえない。だってそんなの、あまりにも人間的な思考じゃないか。ともすれば小さなことを悩むなと一蹴されそうな話題かと呑み込んだのに、それをこの、ルシファーから言われるなんて。驚いてぽろりと、考えていたままの言葉がこぼれ落ちる。
「……ルシファーでも、そんなこと、思うの」
「おまえは俺のことを何だと思っているんだ。俺だって人並みに嫉、」
尻切れトンボの言葉の先は、私を喜ばせるのに十分だった。だってそれは、ルシファーが私のことを大切にしてくれている証拠の感情に違いなかったから。
今のは忘れろ、という台詞を吐くと、ルシファーはいつもの優雅さがまるでなくなった装いで、コーヒーをぐびっと流し込む。そんな姿を揶揄うなんてどうしてできようか。むずむずする顔を抑えることもできないままにルシファーに体重を預けてぐりぐりぐりとその腕に顔を押し付けると、戸惑ったようになんだと言われてまた顔が熱くなった。
「ルシファーじゃないとダメだからルシファーと一緒にいるんだよ」
「……そうか」
「なんでかって聞かれたら、いっぱい言いたいことあるけど、今ここで言ったら日が暮れちゃうかも」
「いや、もういい」
そっと見上げたルシファーの顔が真っ赤。思わず破顔した私をジトっと見返したルシファーはちょっと眉を寄せていたけど、それはきっと恥ずかしさからくるどうしようもない表情なんだろうな。本当に可愛いと晴れやかな気分だ。
「ふふっ!ルシファーの恥ずかしいポイントってよくわかんないね」
「む……」
「私だけ、いつもいつも恥ずかしいんだと思ってたから嬉しいっていう意味だよ?」
こちらも照れ隠しで笑って、残り少しだったアイスを全て口の中に放りこむ。
周りに知り合いがいなくてよかった。勢いとはいえなんだか恋人みたいなことを平然としてしまったな。そんな自分に驚きつつ何気なく周囲を見回すと、とあるカップルが目について、目についてしまえば心惹かれてしまう。コーヒーカップを手持無沙汰に振っているところを見ると、ルシファーも全部飲み終わったようでいいタイミングかもしれない。ねぇねぇと袖をちょっと引きつつ座り方を変えてぽんぽん膝を叩いただけで、眉を顰められた。
「……おまえの言いたいことがなんとなく分かった。遠慮する」
「えっ!?なんで!!」
「一体どの流れでそんなことを」
「この流れならできるかなと思ったんだけど」
視線で、あそこの二人を見て、と促すと、素直にそちらに向いた眼。それと同時に、なるほどな、と溜め息も聞こえた。ちょっと調子に乗りすぎたかななんて思い直して、ごめん、冗談だよと座り方を正そうとした刹那。
「!」
「この角度から見るおまえも新鮮で悪くないな」
ぽすんと膝に乗せられたのはルシファーの頭で、ふわりと抜けていった風に彼の前髪がさらさらと揺れた。
徐に差し出された指が頬を滑っていくのを、真ん丸に開けた目の端っこで捉えた私は瞬時に頬を赤く染め上げる。
「ははっ!やりたがった本人がそんな風でどうするんだ?」
「頬を撫でるオプションとか聞いてない……!」
「このくらいサービスの一環だ」
「どこぞのいかがわしいお店みたいなこと言わないでよ……」
「わがままだな」
「だって、」
「冗談だ。俺がしたいからする。それ以上も以下もないよ」
「っ!」
「おまえが望むならキスもつけるが」
「公衆の面前でそれはだめ!」
「膝枕がOKでキスがNGな理由は?おまえが言う理論なら、周りのやつらもしているからOKなんじゃないのか?」
「そ、それはっ」
「まぁいいさ、それは帰ってからたっぷ、ッ」
ルシファーの言うことも一理ある。さっき自分でも思ったじゃないか。『周りに知り合いがいなくてよかった』と。だからちょっとだけ恥ずかしい気持ちは脇に置いておいて。太陽の光を遮ると、私は膝の上のルシファーの唇を奪った。
唇が触れて、離れていく瞬間。ルシファーの紅の瞳が陽を反射してキラキラ光ったのに、心をわしづかみにされる。かっこよくて綺麗でって、やっぱりズルすぎる。少し遅れて朱色に染まった彼の頬を見て、お転婆な私が微笑んだ。
「ふは……!ルシファーこそ、自分がしたいって言ったのにっ!」
「っ……不意打ちはよくない……」
「それはこっちの台詞だよ。いつもされてる私の気持ち、わかった?」
「ああ、今後は考慮するよっ、ンっ」
「!?」
考慮する、と言った傍から後頭部に回った手に引き寄せられてもう一度重なった唇は、先程よりもちょっとだけ熱かった。あまりにも突然で、瞼を閉じる暇もなく。絡み合った視線にくらくらとする。
「っは……。考慮して、仕返しだ」
「~~っ~~!?」
「一生翻弄されてくれ」
髪を梳いて落ちていった手に手を握られてしまえば騒ぎ立てることもできない。
昼下がりの公園は、普段の数倍、甘かった。
こんなひと時も、あと六日で終わってしまうなんて、今だけは忘れてもいいよね。
今朝、今日は何しようかと話していたときに、そういえば兄弟だけでなくディアボロにまで土産物をせびられたんだったとルシファーが頭を抱えたので、じゃあお土産ショップ巡りをしようと外に出てから二時間あまり。休憩がてらここにきた。
「贅沢だなぁ……」
「なにがだ?」
「わっ!!」
真っ青な空と私の間に突然割り込んできた端正な顔に驚かされた。もう随分と見てきたはずなのに未だ慣れることはない。好きの気持ちは近くにいればいるほど加速している。会えば落ち着くだろうと思ったのは、ただの主観だったみたいだ。
そんなに驚かなくてもいいだろう、と笑いながら隣に座ったルシファーの手には、コーヒーと、それからアイスクリームが握られていた。
「ほら、こっちはおまえのだ。食べたいと言っていたろう」
「もう出てたの?」
「このところ暖かくなってきたしいい天気が続いているから早めに出しているそうだ。運がよかったな」
手渡されたアイスクリームは欧米サイズとでも言えばいいのか、コーンから溢れ出そうなくらい大盛り。慌てて縁の方から急いで舐めとる。ルシファーはそんな私を見てははっと笑った。
「笑ってる場合じゃないってば!ああこっち側も!」
「そんな小さなスプーンで掬ったり舐めたりするよりかぶりついたほうがいいんじゃないか?」
「家で一人ならやるよ!?でもこんな外で」
「あ」
「へ……あ、」
ぱかっと口を開けたルシファーは私の手を徐に握ったと思ったら、そのまま自分の口までそれを運び、ぱく、とアイスを齧った。
開いたそこに吸い込まれていったアイスクリーム。伏せられた瞳にささやかな影を落とすまつ毛。それから唇の端に残ったものを舐めとった艶かしい赤い舌。離れていく間にゆっくりとまた開いていく瞼の合間から紅が覗く。
それら一つ一つをスローモーションで眺めた私はポカンと口を開けたまま思考停止した。
「ん……案外甘いんだな」
「……」
「どうした。落ちるぞ?」
「ッハ!!」
「早く食え」
「なっ、なぁっ!?私のっあ、あいっ」
「一口くらいいいだろう」
私とは対象的に涼しい顔のルシファーは、コーヒーを口に含むと、おまえの淹れる苦さが一番うまいな、などと漏らすのでもうどうしようもないくらいに頬が赤くなったのがわかった。
「るしふぁーがてんねんたらしだぁ……っ……」
「聞き捨てならないな。俺が誰にでもこんな風じゃないことくらい、おまえが一番よくわかっているはずだが?」
「そ、れは……っ……そう、だけど……私がこれ以上ルシファーに夢中になっても困るでしょ……」
「それは好都合だ。どこまでも俺だけ見ていろ」
揶揄うでもなくそんなことをとても嬉しそうに目を細めて言うルシファーに、もじもじしながらアイスを頬張る私。とてもじゃないけどこの悪魔にこんな人間じゃ釣り合わないなと思う。そもそもなんでルシファーは私のことを好きになってくれたんだろう。こんな小娘を。
(理由、聞いたことあったっけ……?)
今更という感じではあるけれど、突然気になりはじめて、気になったら聞きたくてソワソワしてしまうのは仕方ない。アイスを口に運びながらルシファーの顔をチラ見すると、すぐその視線に気づき、不思議がる彼は子どもみたいだ。
「なんだ?」
「ん!?いや!?なんでもないよっ!?」
しかしよく考えてみれば、私だってルシファーを好きになったのに決定打があったわけではない。徐々に、ごく自然に、兄弟の中でもルシファーに惹かれたのだ。冷静沈着そうで意外と表情豊かなところ。なんでも卒なくこなす傍で、ピークに達すると信じられないような格好で寝こけていること。朝が弱いところ。実は甘すぎるくらい甘いところ。傲慢とは名ばかりでとても優しいところ。それら一つ一つを知っていく中でルシファーのことを好きになっていった。だからきっと、こんな質問は野暮だ。というか聞き返されても困るから聞かないのが吉だろうと、開いた口をそのまま閉じた直後。ぼーっと前に向いていた視線がもう一度ゆっくりとこちらに向けられた。
「いい機会だから聞くが」
「へ?」
「おまえはなんで俺を選んだ」
「は、」
「兄弟全員と契約し、それから俺のところへ来たな。その間にいろいろあったろう。兄弟たちは皆難儀だが、RADでも一目置かれる存在だ。それでもおまえは俺がよかったんだろう?なぜだ?」
その返事には唖然とせざるをえない。だってそんなの、あまりにも人間的な思考じゃないか。ともすれば小さなことを悩むなと一蹴されそうな話題かと呑み込んだのに、それをこの、ルシファーから言われるなんて。驚いてぽろりと、考えていたままの言葉がこぼれ落ちる。
「……ルシファーでも、そんなこと、思うの」
「おまえは俺のことを何だと思っているんだ。俺だって人並みに嫉、」
尻切れトンボの言葉の先は、私を喜ばせるのに十分だった。だってそれは、ルシファーが私のことを大切にしてくれている証拠の感情に違いなかったから。
今のは忘れろ、という台詞を吐くと、ルシファーはいつもの優雅さがまるでなくなった装いで、コーヒーをぐびっと流し込む。そんな姿を揶揄うなんてどうしてできようか。むずむずする顔を抑えることもできないままにルシファーに体重を預けてぐりぐりぐりとその腕に顔を押し付けると、戸惑ったようになんだと言われてまた顔が熱くなった。
「ルシファーじゃないとダメだからルシファーと一緒にいるんだよ」
「……そうか」
「なんでかって聞かれたら、いっぱい言いたいことあるけど、今ここで言ったら日が暮れちゃうかも」
「いや、もういい」
そっと見上げたルシファーの顔が真っ赤。思わず破顔した私をジトっと見返したルシファーはちょっと眉を寄せていたけど、それはきっと恥ずかしさからくるどうしようもない表情なんだろうな。本当に可愛いと晴れやかな気分だ。
「ふふっ!ルシファーの恥ずかしいポイントってよくわかんないね」
「む……」
「私だけ、いつもいつも恥ずかしいんだと思ってたから嬉しいっていう意味だよ?」
こちらも照れ隠しで笑って、残り少しだったアイスを全て口の中に放りこむ。
周りに知り合いがいなくてよかった。勢いとはいえなんだか恋人みたいなことを平然としてしまったな。そんな自分に驚きつつ何気なく周囲を見回すと、とあるカップルが目について、目についてしまえば心惹かれてしまう。コーヒーカップを手持無沙汰に振っているところを見ると、ルシファーも全部飲み終わったようでいいタイミングかもしれない。ねぇねぇと袖をちょっと引きつつ座り方を変えてぽんぽん膝を叩いただけで、眉を顰められた。
「……おまえの言いたいことがなんとなく分かった。遠慮する」
「えっ!?なんで!!」
「一体どの流れでそんなことを」
「この流れならできるかなと思ったんだけど」
視線で、あそこの二人を見て、と促すと、素直にそちらに向いた眼。それと同時に、なるほどな、と溜め息も聞こえた。ちょっと調子に乗りすぎたかななんて思い直して、ごめん、冗談だよと座り方を正そうとした刹那。
「!」
「この角度から見るおまえも新鮮で悪くないな」
ぽすんと膝に乗せられたのはルシファーの頭で、ふわりと抜けていった風に彼の前髪がさらさらと揺れた。
徐に差し出された指が頬を滑っていくのを、真ん丸に開けた目の端っこで捉えた私は瞬時に頬を赤く染め上げる。
「ははっ!やりたがった本人がそんな風でどうするんだ?」
「頬を撫でるオプションとか聞いてない……!」
「このくらいサービスの一環だ」
「どこぞのいかがわしいお店みたいなこと言わないでよ……」
「わがままだな」
「だって、」
「冗談だ。俺がしたいからする。それ以上も以下もないよ」
「っ!」
「おまえが望むならキスもつけるが」
「公衆の面前でそれはだめ!」
「膝枕がOKでキスがNGな理由は?おまえが言う理論なら、周りのやつらもしているからOKなんじゃないのか?」
「そ、それはっ」
「まぁいいさ、それは帰ってからたっぷ、ッ」
ルシファーの言うことも一理ある。さっき自分でも思ったじゃないか。『周りに知り合いがいなくてよかった』と。だからちょっとだけ恥ずかしい気持ちは脇に置いておいて。太陽の光を遮ると、私は膝の上のルシファーの唇を奪った。
唇が触れて、離れていく瞬間。ルシファーの紅の瞳が陽を反射してキラキラ光ったのに、心をわしづかみにされる。かっこよくて綺麗でって、やっぱりズルすぎる。少し遅れて朱色に染まった彼の頬を見て、お転婆な私が微笑んだ。
「ふは……!ルシファーこそ、自分がしたいって言ったのにっ!」
「っ……不意打ちはよくない……」
「それはこっちの台詞だよ。いつもされてる私の気持ち、わかった?」
「ああ、今後は考慮するよっ、ンっ」
「!?」
考慮する、と言った傍から後頭部に回った手に引き寄せられてもう一度重なった唇は、先程よりもちょっとだけ熱かった。あまりにも突然で、瞼を閉じる暇もなく。絡み合った視線にくらくらとする。
「っは……。考慮して、仕返しだ」
「~~っ~~!?」
「一生翻弄されてくれ」
髪を梳いて落ちていった手に手を握られてしまえば騒ぎ立てることもできない。
昼下がりの公園は、普段の数倍、甘かった。
こんなひと時も、あと六日で終わってしまうなんて、今だけは忘れてもいいよね。