■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)

年越しの夜は案外しとやかに訪れた。
天使にとっての一大イベントはどちらかといえばクリスマスの方だし、悪魔は齢五千年というだけあって、年月が過ぎることにあまり興味もないらしい。兄弟はいつも通り思い思いに夜を過ごし、私とルシファーもそれに漏れることなく二人きりで過ごしていた。
ルシファーの部屋の広々としたベッドの、贅沢にもそのど真ん中を少しだけ。一つの固体になったようにぎゅっとくっ付いて、一糸纏わぬ二人は体温を分け合いつつ、密やかに微睡む。

「ルシファー、もうすぐ零時だよ」
「ん……?ああ、そうだな」
「あ、もしかして眠くなってる?」
「そんなことは……、いや、そうだな。おまえが腕の中にいると暖かいし安心するんだ。だから、眠りが深くなる」
「っ……な、なに、突然、そんな、んむぐ、」
「ずっとここにいてくれ……」

ルシファーの、たまにしか聞けない本音を耳にして、胸がキュンと高鳴った。そのまま逞しい胸板にむぎゅっと引き寄せられると、ちょうど鎖骨の下あたりに顔が埋まり、鼻が肩のあたりにくるからか、彼の香りが色濃く鼻腔を満たす。私はこうして抱きしめられるのが大好きだ。ルシファーが今、私の隣にいるんだと、これ以上なく感じるから。ぐりぐりと額を擦り付けると、ルシファーは穏やかに笑った。

「おまえに甘えられるのは悪くない」
「んー、そう言うけど、今日は先に甘えたの、ルシファーじゃない」
「俺が?いつおまえに甘えた」
「わぁ〜自覚がないのすごぉい」
「はぐらかすな。本当に覚えがないだけだ」
「覚えがないなら内緒。私だけの思い出の宝箱にでもしまっておくよ」

ふふふと悪戯に笑ってみせるとルシファーの眉がムッと寄って何やら不満そうだ。でもルシファーが私に甘えられることを悪くない、と思っているのと同様、私だって今後もルシファーに甘えられたいから簡単には答えられない。

「納得がいかないな」
「それは残念。納得してもらわないと。忘れたのはルシファーなんだか、わっ!?」

腰に回されていた手がグッと私を支えたと思えば、次の瞬間には視界が反転。ビックリして閉じた目をぱちぱち瞬かせたときに私の視界に映ったのは、ルシファーのにこやかな笑みと、その向こうの天井だった。

「あ、あの……?」
「言わないなら言わせるまで、だな」
「ええっと……ちょっと落ち着いてるし、ふぁ!?」

ルシファーの掌が私の脇腹から腰までを伝ったせいで変な声が出た。なんだかんだ、さっきまで抱き合っていた身体は弱い刺激にも敏感に反応を返してしまう。

「っちょ!」
「ほら、おまえが話すまで……そうだな、焦らしプレイといこうか?」
「なぁ!?変な趣味持ち込まないでよっ!?」
「おまえが素直じゃないのが悪いんだろう」
「もとはと言えばルシファーがっ、んぅっ!」
「ン、……ッハ、ん」

私がこのキスに抗えないのを知っているルシファーは、私の唇を塞いで小言ごと吐息を奪っていった。誰よ、年越しは淑やかになりそうなんて言ったの。これじゃあいつ日が変わったのかも絶対わからないよ。
ちゅ、ちゅぱ、と何度も何度も。角度を変えては吸い付いて、舌を絡めれば飲み下せなかった唾液がツー、と口の端からこぼれ落ちていく。
これも惚れた弱みというやつで、こんなキスをされると思考は溶けて、ルシファーのことしか考えられなくなってくる。そうしてこの先の快楽を教え込まれた私の身体は脳からの指示を待たずとも、震える腕をルシファーの首に巻きつけて、自分からもっともっとと彼を引き寄せ始めるのだ。
それはなぜかといえば、そうされることをルシファーが好いていることを知っているから。ルシファーがしてほしいことをするのは、私の悦びでもあるから。

「ッ……はぁ、んっ、ァ……」
「ハッ……、ンン、ふは、」

長いキスから解放されると、ほらやっぱり、ルシファーがとっても機嫌良さそうに笑ってる。今日は朝まで眠れないかな、と私もつられて、ヘラりと頬を緩めた。

「愛してるよ」
「わたしも、ルシファーがだいすき」

私たちの体重がもう一度ベッドを軋ませたころ、遠くの空に花火が上がった。
きっと殿下がニューイヤーのお祝いにサプライズで打ち上げたのだろうけど、ごめんね殿下。今日、ルシファーは譲れない。
愛は二人でじゃないと紡げないの。

朝になっても起き上がる元気が残っていたら、兄弟たちみんなと一緒にご挨拶に向かうね。
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