◆悪魔とメリークリスマス
予行練習でも無礼講と言っていた通り、乾杯の前から魔王城は想像以上の悪魔で溢れかえっていた。初めて見る種族も多いがRADの生徒もたくさんいるので声をかけられることもあり、なかなか上手く立ち回れない。そんなときにはマモンやアスモが人目を惹きつけてくれたりして助けに入ってくれた。
あれだけ作ったお菓子や料理は、主にベールのせいではあるが、凄いペースで消えていっている。手軽に作れる料理もいくらか追加しているが、出した側からなくなるのだから忙しい。
ビンゴ大会では、景品に魔界最高峰のゲーミングPCがあるとのことで、デモナスを投入してでも気合いを入れて人前に出てきたレヴィが大奮闘していたり、珍しく眠気眼をパッチリ開いてカッコよく壁に背を預けて腕組みをするベルフェがいると思ったら、案の定瞼に瞳のアートをされているだけだったりと、パーティ以外の見どころ(?)も満載だ。
サンタ衣装を来ているものはみな給仕手伝いの人たちなので、人間の私もその衣装を纏っていればちょろちょろ動き回ってもあまり人目を引かなくて済むのも有り難かった。バルバトスはここまで計算して私にこの衣装を着せたんじゃないかと思うくらい気楽だ。
そんな最中、突然外でドパパパパ!と大きな音が鳴り、人間界かと思うほどに空が明るくなる。実は今日はサプライズで花火がたくさん上がる予定になっていて、音に驚いた皆がバルコニーに出ていく中、してやったりと私までもが笑みを浮かべてしまった。
皆がそちらに夢中になってる間にいくらか片付けを進めようとお皿に手を出したそのとき。ちょんちょんと肩を叩かれて振り向けば、そこにはバルバトスがいた。
「お疲れ様です。花火はやはり人目を惹きますね」
「バルバトスもお疲れ様!だねぇ……!これだけ盛大だと余計に!素敵〜」
「あなたも花火を見たいかもしれませんが、少しよろしいですか?」
「うん?」
もちろんいいけど何か含みがあるなぁと思い首を傾げたら、お手をと言われたので素直にその手に手を重ねる。
すると、そこから暖かい空気がブワリと身体を駆け巡り、私のサンタ服はグリーンを基調としたドレスに変化した。
「えっ……えっ!?!?」
「ふふっ、私からのクリスマスプレゼント、ですよ。さぁ行きましょう」
「バルバトスっ、あの、ありがとうっ、でもその、どこにっ」
「お姫様が美しすぎるので、悪魔が連れ去ってしまいましょうか」
「っふぁ!?」
ウインクを一つ、珍しく小走りで広間を抜け出し、二人、魔王城内を駆け抜ける。なんだかドキドキする。胸が高鳴るクリスマスなんていつぶりだろう。
「バルバトスっ!ねぇ、どこに向かってるの!」
「すぐにわかりますよ。ああ私としたことが失礼しました」
「!」
カツカツとヒールの音が響いていたのが、瞬間、無音になる。それはなぜかといえば、私がバルバトスに抱き上げられたからだった。
廊下を駆ける間、窓から見えたのは彩鮮やかな花火。遠く鳴り響く楽し気な音楽に、ざわめき。なんだか御伽噺のお姫様にでもなった気分で心が弾む。
「ふふっ……!あはは!」
「……?いかがしましたか?」
「楽しいね!クリスマス!」
「そうですね……」
逃避行はあっという間に終わりを迎えた。
着いた先はバルバトスの部屋。ここまでくるとなんの音も聞こえなくなって、非日常感が増す。ドキドキするのは駆けてきたからという理由だけでは、きっとない。そっと地上に下ろされて、見つめ合う私とバルバトス。窓からは大きな月が見えた。なんてロマンチックなんだろう。
にこ、と少し上気した頬でバルバトスが微笑んだ。
「刺激的でしたか?」
「うん!とっても!……あの……バルバトスは楽しかった?」
「……ええ、もちろん。こんなこと、今までありませんでしたから」
急がなくともちょっとずつ変わっていけるなら、それはとても良いことだと私は思う。この気持ちが伝わるといいなと、ゆっくりとバルバトスの手を取って、きゅっとその指先を握った。
「バルバトス、実は私からもプレゼントがあって、」
「おや、それはそれは。なんでしょうか?楽しみですね」
「掌を、上に向けておいて?」
「わかりました」
たくさん練習したんだから、きっと大丈夫。自信を持って、と自分を励まして。まずは、んっと、自分の拳に力を込めてから「出でよ蝙蝠ちゃん!」と小さく呟く。すぐに掌に違和感を覚えて、よし!まずは第一段成功!とばかりに指をゆっくり開いていくと、そこには以前バルバトスに見つかった折り紙の蝙蝠がいた。それを見て、素晴らしい、といった表情で目を見開いたバルバトス。うんうん。滑り出しは上々だ。
「見ててね」
蝙蝠を掲げるように手を上に少し動かすと、それはそのまま羽を動かして浮かび上がる。
「やった!」
「なるほど、この仕掛けを練習されていたのですね」
「そう!」
ふらふらと飛びながら、折り紙蝙蝠はバルバトスの頭の上を一周回り、それからポン!とはじけてピカピカの紙吹雪をまき散らす。紙吹雪は床につく前にふわりと闇に溶けて消えた。そしてバルバトスの掌には私からの気持ちを込めたクリスマスカードが残る。
「ハッピーメリークリスマス。一瞬の煌めきでも、心に残るものを贈りたかったの。私はどうあがいてもバルバトスよりも先にここから消えていなくなっちゃうけど、それでも、バルバトスの近くで生き抜いた私のこと、忘れないって言ってもらえたのが嬉しかった。刹那を駆け抜けた人間がいたこと、ずっと、ずっと覚えていてね」
本心を伝えるということは、いくつになっても慣れたものではない。なんだか目頭が熱くなるのをどうにか耐え抜いたと思えば、ふわりと腕を引かれて収まったのはバルバトスの腕の中。耳の近くで彼の呼吸音がして、そのせいで私の鼓動も煩かった。
「ありがとう、ございます。とても素敵なプレゼントでした。ずっと、ずっと忘れずに心のうちにしまっておきましょう」
「うんっ……!私も、素敵なクリスマスをありがとう!」
静寂の中で一頻り互いを感じていたら、バルバトスが「ところで」と前置きをした。
「一つ質問をしても?」
唐突な質問宣言に、私の頭にはクエスチョンマークが飛び回る。少し身体を離し、目を見ながらバルバトスは言った。
「あなたは、男性が女性に服を贈る意味はご存知ですか?」
「へ、」
「私はあなたに、サンタの衣装もこちらのドレスもプレゼントいたしましたので」
「!?」
このまま朝まで寝かせませんからね、とは耳に囁かれた。
私の「まだホールの片付けが終わってない!」という必死の抵抗も無駄に終わり、聖夜は幸せいっぱいにはじまりました……というのが、私とバルバトスとの初めてのメリークリスマス……ってこと。
「もう十分もらったからぁっ!」
「ええ、受け取って、着ていただいたので、脱がして美味しくいただくまでが、私のプレゼント、ですよ」
あれだけ作ったお菓子や料理は、主にベールのせいではあるが、凄いペースで消えていっている。手軽に作れる料理もいくらか追加しているが、出した側からなくなるのだから忙しい。
ビンゴ大会では、景品に魔界最高峰のゲーミングPCがあるとのことで、デモナスを投入してでも気合いを入れて人前に出てきたレヴィが大奮闘していたり、珍しく眠気眼をパッチリ開いてカッコよく壁に背を預けて腕組みをするベルフェがいると思ったら、案の定瞼に瞳のアートをされているだけだったりと、パーティ以外の見どころ(?)も満載だ。
サンタ衣装を来ているものはみな給仕手伝いの人たちなので、人間の私もその衣装を纏っていればちょろちょろ動き回ってもあまり人目を引かなくて済むのも有り難かった。バルバトスはここまで計算して私にこの衣装を着せたんじゃないかと思うくらい気楽だ。
そんな最中、突然外でドパパパパ!と大きな音が鳴り、人間界かと思うほどに空が明るくなる。実は今日はサプライズで花火がたくさん上がる予定になっていて、音に驚いた皆がバルコニーに出ていく中、してやったりと私までもが笑みを浮かべてしまった。
皆がそちらに夢中になってる間にいくらか片付けを進めようとお皿に手を出したそのとき。ちょんちょんと肩を叩かれて振り向けば、そこにはバルバトスがいた。
「お疲れ様です。花火はやはり人目を惹きますね」
「バルバトスもお疲れ様!だねぇ……!これだけ盛大だと余計に!素敵〜」
「あなたも花火を見たいかもしれませんが、少しよろしいですか?」
「うん?」
もちろんいいけど何か含みがあるなぁと思い首を傾げたら、お手をと言われたので素直にその手に手を重ねる。
すると、そこから暖かい空気がブワリと身体を駆け巡り、私のサンタ服はグリーンを基調としたドレスに変化した。
「えっ……えっ!?!?」
「ふふっ、私からのクリスマスプレゼント、ですよ。さぁ行きましょう」
「バルバトスっ、あの、ありがとうっ、でもその、どこにっ」
「お姫様が美しすぎるので、悪魔が連れ去ってしまいましょうか」
「っふぁ!?」
ウインクを一つ、珍しく小走りで広間を抜け出し、二人、魔王城内を駆け抜ける。なんだかドキドキする。胸が高鳴るクリスマスなんていつぶりだろう。
「バルバトスっ!ねぇ、どこに向かってるの!」
「すぐにわかりますよ。ああ私としたことが失礼しました」
「!」
カツカツとヒールの音が響いていたのが、瞬間、無音になる。それはなぜかといえば、私がバルバトスに抱き上げられたからだった。
廊下を駆ける間、窓から見えたのは彩鮮やかな花火。遠く鳴り響く楽し気な音楽に、ざわめき。なんだか御伽噺のお姫様にでもなった気分で心が弾む。
「ふふっ……!あはは!」
「……?いかがしましたか?」
「楽しいね!クリスマス!」
「そうですね……」
逃避行はあっという間に終わりを迎えた。
着いた先はバルバトスの部屋。ここまでくるとなんの音も聞こえなくなって、非日常感が増す。ドキドキするのは駆けてきたからという理由だけでは、きっとない。そっと地上に下ろされて、見つめ合う私とバルバトス。窓からは大きな月が見えた。なんてロマンチックなんだろう。
にこ、と少し上気した頬でバルバトスが微笑んだ。
「刺激的でしたか?」
「うん!とっても!……あの……バルバトスは楽しかった?」
「……ええ、もちろん。こんなこと、今までありませんでしたから」
急がなくともちょっとずつ変わっていけるなら、それはとても良いことだと私は思う。この気持ちが伝わるといいなと、ゆっくりとバルバトスの手を取って、きゅっとその指先を握った。
「バルバトス、実は私からもプレゼントがあって、」
「おや、それはそれは。なんでしょうか?楽しみですね」
「掌を、上に向けておいて?」
「わかりました」
たくさん練習したんだから、きっと大丈夫。自信を持って、と自分を励まして。まずは、んっと、自分の拳に力を込めてから「出でよ蝙蝠ちゃん!」と小さく呟く。すぐに掌に違和感を覚えて、よし!まずは第一段成功!とばかりに指をゆっくり開いていくと、そこには以前バルバトスに見つかった折り紙の蝙蝠がいた。それを見て、素晴らしい、といった表情で目を見開いたバルバトス。うんうん。滑り出しは上々だ。
「見ててね」
蝙蝠を掲げるように手を上に少し動かすと、それはそのまま羽を動かして浮かび上がる。
「やった!」
「なるほど、この仕掛けを練習されていたのですね」
「そう!」
ふらふらと飛びながら、折り紙蝙蝠はバルバトスの頭の上を一周回り、それからポン!とはじけてピカピカの紙吹雪をまき散らす。紙吹雪は床につく前にふわりと闇に溶けて消えた。そしてバルバトスの掌には私からの気持ちを込めたクリスマスカードが残る。
「ハッピーメリークリスマス。一瞬の煌めきでも、心に残るものを贈りたかったの。私はどうあがいてもバルバトスよりも先にここから消えていなくなっちゃうけど、それでも、バルバトスの近くで生き抜いた私のこと、忘れないって言ってもらえたのが嬉しかった。刹那を駆け抜けた人間がいたこと、ずっと、ずっと覚えていてね」
本心を伝えるということは、いくつになっても慣れたものではない。なんだか目頭が熱くなるのをどうにか耐え抜いたと思えば、ふわりと腕を引かれて収まったのはバルバトスの腕の中。耳の近くで彼の呼吸音がして、そのせいで私の鼓動も煩かった。
「ありがとう、ございます。とても素敵なプレゼントでした。ずっと、ずっと忘れずに心のうちにしまっておきましょう」
「うんっ……!私も、素敵なクリスマスをありがとう!」
静寂の中で一頻り互いを感じていたら、バルバトスが「ところで」と前置きをした。
「一つ質問をしても?」
唐突な質問宣言に、私の頭にはクエスチョンマークが飛び回る。少し身体を離し、目を見ながらバルバトスは言った。
「あなたは、男性が女性に服を贈る意味はご存知ですか?」
「へ、」
「私はあなたに、サンタの衣装もこちらのドレスもプレゼントいたしましたので」
「!?」
このまま朝まで寝かせませんからね、とは耳に囁かれた。
私の「まだホールの片付けが終わってない!」という必死の抵抗も無駄に終わり、聖夜は幸せいっぱいにはじまりました……というのが、私とバルバトスとの初めてのメリークリスマス……ってこと。
「もう十分もらったからぁっ!」
「ええ、受け取って、着ていただいたので、脱がして美味しくいただくまでが、私のプレゼント、ですよ」