◆悪魔とメリークリスマス
バルバトスへのプレゼントについて、方向性は決まったものの、ドッキリサプライズ大作戦の問題は山積みだ。
呪文を扱えるようになる訓練はもちろんのこと、せっかく「クリスマスに」という名目がある以上は服装もそれらしくしたい。
けれど着るサンタ服がない。売っているわけもないので、作らないといけない。バルバトスと殿下に頼まれているお手伝いもいろいろある中で、当日まであと一週間しかないというのに。やっぱり難しいかなぁ、と小さなため息が漏れたとき、頭にコツンと拳が当てられた。
「こら」
「あ、」
「他所事を考えるな。手元がおろそかになってるぞ」
「うう……サタンの鬼~悪魔~」
「そうとも。俺は悪魔だ。だからその嫌味も俺には通じない。ほら、続きだ」
「スパルタァ~」
「おまえの覚えが悪いからだろ」
「そんな簡単にできるわけないじゃん!」
「言い訳はいらない。反復あるのみだろ」
サタンの教え方は確かに上手かった。言い方は悪いけど、先生よりも数倍うまい。指示はわかりやすく、かつ、私の力量を見ながらこれとこれを組み合わせてやってみたほうがいいなどと、的確なアドバイスをしてくれる。
ここまでしてもらってできないのは私が悪い。そんなことはわかっている。でも気になることがたくさんあるのだから、集中できないのもわかってほしい。
「珍しく勉学に励むのかと思えば……まぁ理由はどうあれ、興味がこちらに向くのはいいことだ。で、呪文はさすがに覚えたな?」
「それはだいじょーぶ!だからたぶん発音の問題だと思うんだよねぇ……」
「魔界文字の発音は独特だからな。何事も練習あるのみだ」
「よし、じゃあもう一回やってみるね!」
作ったばかりの蝙蝠型の折り紙を机の上にセットして、むん、と気合も十分。神経を研ぎ澄ませて呪文を発しようとした、その瞬間。
「おーーいっ!」
「わきゃ!?」
バンっとライブラリーの扉が開いて、入ってきたのはマモン。突然の大きな音に、浮きかけた蝙蝠は飛び上がるどころかぷすぷすと煙を上げながら床に落ちてしまった。
「まぁあもぉおおおん……」
「おう!なんだなんだ!励んでんじゃねーか!」
「マモンのせいで台無しだよっ!?あーん!上手くいきそうだったのにぃ!」
「まぁまぁ。マモン様がそんなことよりもずっと気分がアガる案件を持ってきたぜ!」
「はぁ?」
マモンのネタバレが始まる前に聞こえたカツンという靴音にハッとする。
「まさかっ」
「こんにちは。おやすみの日まで勉学に励むとは留学生の鏡ですね」
「っあ!?こ、これはその、」
間が悪い!、とマモンを引っ張ってサタンが出ていってしまったので、ライブラリーには今、私とバルバトスしかいない。床に落ちた蝙蝠を拾いながらバルバトスは私に言った。
「こちらを飛ばせたいのですか?」
「えっ、あっ、うん!?そ、そうなの!特別課題みたいなものがあって、でもうまくいかなくて……へへ…」
「そうですか……では、」
「!」
私の掌に乗せられた蝙蝠がぽわりと光を帯びたと思ったら、ぱたぱた、と羽根が動く。けれどそれは一瞬のこと。すぐにまたぽとりと掌に倒れて動かなくなった。先程ぷすぷすと焦げたところはもう見当たらない。もしかして呪文でもかけてくれたのだろうか。
「今のは……、」
「さぁ、なんでしょう?」
思わせぶりにクスクス笑って、今度は成功しますよ、自信をもって取り組んでくださいね、と言われてはその理由を聞き出すこともできなくて首を捻るにとどまった。
「あれ?ってかなにか用事があったんじゃ……?」
「ああそうでした。こちらをあなたに渡したくてやって来たのです」
「へ?なぁにこれ」
「開けてみてください」
促されるがままにその袋を開けてみると、中には真っ赤な洋服にふわふわもこもこの白いファーがついた……所謂これは。
「さんたさん?」
「ええ、せっかくですからあなたにも着ていただきたくて作りました。試着していただけませんか?」
「ええーーーーっ!?」
この執事の先回りをすることなどやっぱりできやしないと改めて悟る私は、言われた通りにサンタ服を試着する。そしてその寸法が間違っているわけもなく。ぴったりだねとみんなに褒められるまでが想像に難くない未来。
呪文を扱えるようになる訓練はもちろんのこと、せっかく「クリスマスに」という名目がある以上は服装もそれらしくしたい。
けれど着るサンタ服がない。売っているわけもないので、作らないといけない。バルバトスと殿下に頼まれているお手伝いもいろいろある中で、当日まであと一週間しかないというのに。やっぱり難しいかなぁ、と小さなため息が漏れたとき、頭にコツンと拳が当てられた。
「こら」
「あ、」
「他所事を考えるな。手元がおろそかになってるぞ」
「うう……サタンの鬼~悪魔~」
「そうとも。俺は悪魔だ。だからその嫌味も俺には通じない。ほら、続きだ」
「スパルタァ~」
「おまえの覚えが悪いからだろ」
「そんな簡単にできるわけないじゃん!」
「言い訳はいらない。反復あるのみだろ」
サタンの教え方は確かに上手かった。言い方は悪いけど、先生よりも数倍うまい。指示はわかりやすく、かつ、私の力量を見ながらこれとこれを組み合わせてやってみたほうがいいなどと、的確なアドバイスをしてくれる。
ここまでしてもらってできないのは私が悪い。そんなことはわかっている。でも気になることがたくさんあるのだから、集中できないのもわかってほしい。
「珍しく勉学に励むのかと思えば……まぁ理由はどうあれ、興味がこちらに向くのはいいことだ。で、呪文はさすがに覚えたな?」
「それはだいじょーぶ!だからたぶん発音の問題だと思うんだよねぇ……」
「魔界文字の発音は独特だからな。何事も練習あるのみだ」
「よし、じゃあもう一回やってみるね!」
作ったばかりの蝙蝠型の折り紙を机の上にセットして、むん、と気合も十分。神経を研ぎ澄ませて呪文を発しようとした、その瞬間。
「おーーいっ!」
「わきゃ!?」
バンっとライブラリーの扉が開いて、入ってきたのはマモン。突然の大きな音に、浮きかけた蝙蝠は飛び上がるどころかぷすぷすと煙を上げながら床に落ちてしまった。
「まぁあもぉおおおん……」
「おう!なんだなんだ!励んでんじゃねーか!」
「マモンのせいで台無しだよっ!?あーん!上手くいきそうだったのにぃ!」
「まぁまぁ。マモン様がそんなことよりもずっと気分がアガる案件を持ってきたぜ!」
「はぁ?」
マモンのネタバレが始まる前に聞こえたカツンという靴音にハッとする。
「まさかっ」
「こんにちは。おやすみの日まで勉学に励むとは留学生の鏡ですね」
「っあ!?こ、これはその、」
間が悪い!、とマモンを引っ張ってサタンが出ていってしまったので、ライブラリーには今、私とバルバトスしかいない。床に落ちた蝙蝠を拾いながらバルバトスは私に言った。
「こちらを飛ばせたいのですか?」
「えっ、あっ、うん!?そ、そうなの!特別課題みたいなものがあって、でもうまくいかなくて……へへ…」
「そうですか……では、」
「!」
私の掌に乗せられた蝙蝠がぽわりと光を帯びたと思ったら、ぱたぱた、と羽根が動く。けれどそれは一瞬のこと。すぐにまたぽとりと掌に倒れて動かなくなった。先程ぷすぷすと焦げたところはもう見当たらない。もしかして呪文でもかけてくれたのだろうか。
「今のは……、」
「さぁ、なんでしょう?」
思わせぶりにクスクス笑って、今度は成功しますよ、自信をもって取り組んでくださいね、と言われてはその理由を聞き出すこともできなくて首を捻るにとどまった。
「あれ?ってかなにか用事があったんじゃ……?」
「ああそうでした。こちらをあなたに渡したくてやって来たのです」
「へ?なぁにこれ」
「開けてみてください」
促されるがままにその袋を開けてみると、中には真っ赤な洋服にふわふわもこもこの白いファーがついた……所謂これは。
「さんたさん?」
「ええ、せっかくですからあなたにも着ていただきたくて作りました。試着していただけませんか?」
「ええーーーーっ!?」
この執事の先回りをすることなどやっぱりできやしないと改めて悟る私は、言われた通りにサンタ服を試着する。そしてその寸法が間違っているわけもなく。ぴったりだねとみんなに褒められるまでが想像に難くない未来。