◆聖夜の星に願い事
夢見が悪いという話が出てからというもの、ルシファーは私を一人で眠らせなくなった。もう大丈夫だと言っても全く信じてもらえない。大丈夫というその一言が嘘なのだから無理もないのかもしれないけれど、忙しいルシファーの時間を奪うのもどうかと思う私の気持ちもわかってほしい。
「ねぇ、本当にもう大丈夫だってば。確かにまだ夢は見るけど、前ほど怖くもないの。ちゃんと眠れてるよ」
「俺の隣で眠らせてまだ二日だが、その二日ともうなされていたぞ?それで大丈夫だと言われて俺が信じるとでも?」
「でっ、でもほら、寝てるのは本当でしょ!?」
「俺がいるからかもしれないだろう」
「ぐ、ぐぬ……」
「ほら、おとなしくベッドに入れ」
「や、ちょ、でもルシファーまだ仕事、」
「問題ない。気にするな」
部屋まで連れてこられてなお、じり、じり、と攻防戦。両者一歩も譲らずコチコチと時計の針だけ進んでいく。沈黙の長さに耐えきれず、先に動いたのは私だった。
けれど何かーーきっとそれは魔術の類なのだろうけどーーその何かにふわりと足元を掬われて倒れ込んだ先はベッドで。
「わぁ!?」
どうしてこんなに間が悪いのか。このままではまたルシファーに迷惑をかけてしまう。とりあえず向こう側まで逃げようとそのままベッドに乗り上げて移動を始めるも、このベッドの広いこと。もとより動きの鈍い私はすぐにルシファーに捉えられ、背中からギュッとその腕に収められた。
「俺から逃げようとするなんてたいしたものだなおまえは」
「うううう〜……」
「そう嫌がるな。大人しくしてくれれば悪いようにはしない」
「悪いようにって、何するつもりだったの!?」
「逆に聞くが、おまえは何を期待してるんだ?」
「は、はぁ!?別にそんなっ、んひゃ!?」
うなじに唇の感触が降ってきて、思わず身震い。ついでに変な声が出てしまって恥ずかしいことこの上ない。ルシファーは今日、そういうつもりで私をここに連れてきたんじゃないはずなのに、これじゃあ本当に私が毎日何かされたくてここに来ているみたいじゃないかと一人百面相になる。
「やっと大人しくなったな。それでいい」
満足気な声が耳の真後ろでして、私はついに白旗を振った。ルシファーの腕の中でぐりんと半回転すると、ぺちんと彼の胸を叩く。
「んもう!!ずるいずるいずるい!!」
「ははっ!ズルくても何でもいいよ。おまえの身に何も起こらなくなるのなら」
「っ…!」
私の手をそっと握って、至極優しい声でルシファーは言う。
「ほら、もっと近くに来い。おまえを抱きしめていないと寒いんだ。俺まで病院送りにする気か?」
「も……っ……そいういうのが、ずるいって、言ってる、のに……!」
そこまで言われたらルシファーの心遣いを無碍にするわけにもいかず、私はその特等席に飛び込んだ。ぐり、と胸に顔を押し付ければトクトクとルシファーの心音が伝わってきて心地よい。
「……でも本当に、もう怖くないんだよ」
「わかってる。俺が過保護なだけだ。それなら文句はないだろう?さぁもう休め」
「…むぅ……おやすみ、ルシファー…」
「ああ、また明日、な」
髪を撫でる一定のリズムに誘われて、私はすぐに夢の世界へ誘われた。
その日、夢の中にはルシファーが出てきた。
でもそのルシファーは天使の姿で、そしてその彼は絵画の中にいた。
私には決して届かない場所に飾られた絵画。
手を伸ばしも触れることすらできない、それ。
もう怖いことは起こらないと思ったけれど、どうしても届かないそれを見つめるしかない私の心は、今までとは違う意味で泣いていたように思う。
「ねぇ、本当にもう大丈夫だってば。確かにまだ夢は見るけど、前ほど怖くもないの。ちゃんと眠れてるよ」
「俺の隣で眠らせてまだ二日だが、その二日ともうなされていたぞ?それで大丈夫だと言われて俺が信じるとでも?」
「でっ、でもほら、寝てるのは本当でしょ!?」
「俺がいるからかもしれないだろう」
「ぐ、ぐぬ……」
「ほら、おとなしくベッドに入れ」
「や、ちょ、でもルシファーまだ仕事、」
「問題ない。気にするな」
部屋まで連れてこられてなお、じり、じり、と攻防戦。両者一歩も譲らずコチコチと時計の針だけ進んでいく。沈黙の長さに耐えきれず、先に動いたのは私だった。
けれど何かーーきっとそれは魔術の類なのだろうけどーーその何かにふわりと足元を掬われて倒れ込んだ先はベッドで。
「わぁ!?」
どうしてこんなに間が悪いのか。このままではまたルシファーに迷惑をかけてしまう。とりあえず向こう側まで逃げようとそのままベッドに乗り上げて移動を始めるも、このベッドの広いこと。もとより動きの鈍い私はすぐにルシファーに捉えられ、背中からギュッとその腕に収められた。
「俺から逃げようとするなんてたいしたものだなおまえは」
「うううう〜……」
「そう嫌がるな。大人しくしてくれれば悪いようにはしない」
「悪いようにって、何するつもりだったの!?」
「逆に聞くが、おまえは何を期待してるんだ?」
「は、はぁ!?別にそんなっ、んひゃ!?」
うなじに唇の感触が降ってきて、思わず身震い。ついでに変な声が出てしまって恥ずかしいことこの上ない。ルシファーは今日、そういうつもりで私をここに連れてきたんじゃないはずなのに、これじゃあ本当に私が毎日何かされたくてここに来ているみたいじゃないかと一人百面相になる。
「やっと大人しくなったな。それでいい」
満足気な声が耳の真後ろでして、私はついに白旗を振った。ルシファーの腕の中でぐりんと半回転すると、ぺちんと彼の胸を叩く。
「んもう!!ずるいずるいずるい!!」
「ははっ!ズルくても何でもいいよ。おまえの身に何も起こらなくなるのなら」
「っ…!」
私の手をそっと握って、至極優しい声でルシファーは言う。
「ほら、もっと近くに来い。おまえを抱きしめていないと寒いんだ。俺まで病院送りにする気か?」
「も……っ……そいういうのが、ずるいって、言ってる、のに……!」
そこまで言われたらルシファーの心遣いを無碍にするわけにもいかず、私はその特等席に飛び込んだ。ぐり、と胸に顔を押し付ければトクトクとルシファーの心音が伝わってきて心地よい。
「……でも本当に、もう怖くないんだよ」
「わかってる。俺が過保護なだけだ。それなら文句はないだろう?さぁもう休め」
「…むぅ……おやすみ、ルシファー…」
「ああ、また明日、な」
髪を撫でる一定のリズムに誘われて、私はすぐに夢の世界へ誘われた。
その日、夢の中にはルシファーが出てきた。
でもそのルシファーは天使の姿で、そしてその彼は絵画の中にいた。
私には決して届かない場所に飾られた絵画。
手を伸ばしも触れることすらできない、それ。
もう怖いことは起こらないと思ったけれど、どうしても届かないそれを見つめるしかない私の心は、今までとは違う意味で泣いていたように思う。