◆聖夜の星に願い事
診察を受けてしばらく、近くのカフェのカウンター席にルシファーと二人。外は相変わらず薄暗く、しかしディアボロの意向が反映されてか、少しずつクリスマスらしいイルミネーションが増えてきた印象だ。ただ、それに反して私たちの空気は重い。
「どうして言わなかったんだ」
「だって……知恵熱出した上に夢見が悪くてあんまり寝てなかったなんて恥ずかしくて言えるわけないじゃん……」
「はぁ……」
溜め息の原因は単純で、私の抱える問題全てが白日の元に晒されてしまったからだった。
魔界の病院は大層不思議だった。医者がガイコツな程度では驚きもしないくらいには。
粗茶ですと出された飲み物を飲んだらそれは自白剤に似た効果を持つものだったようで洗いざらいはかされたのだ。病院で粗茶が出てくることに違和感を持たなかった私も私なのだけれど、それを止めなかったルシファーもルシファーだ。診察なのだから隠し事をされては困るというその理屈はわかるけど、人間は嘘をつくからそうでもしないといけないのだ…と、そう思われているみたいでちょっとムッとした。
「もういいじゃん。私のこれはちょっと魔力に当てられすぎて出ている反応だってことだし」
「呪いの類なら俺たちの誰一人気づかないのもおかしな話だ。診断結果は信じられるだろうな」
「ならなんでそんなに重くなるの?身体に異常はなかったんだよ?それでいいじゃない」
「そういうわけにはいかないだろう。俺たちの近くにいるからそうなっているんだとしたらそれは俺たちの責任でもある」
そう言われると、返す言葉もない。以前ルシファーの記憶が失われてしまった時は、私がそうやって悩む立場だったのだから。つまり逆のことを言えば、ルシファーが私の気持ちを読むのも簡単なことなんだろうと察しもつく。
ルシファーの方をチラリと見やれば、その視線にひかれてルシファーもこちらに視線を向けた。存外優しい色を湛えたその瞳に、こんな状況にも関わらず心臓がトクリと音を立てた、その間に、カップを包んでいた私の手をそっと取る。ルシファーの、私よりもひとまわり大きな掌がすっぽりと私の手を包み込み、次いで指が絡まった。
「ルシファー、ちょ、」
「おまえを手放す気はこれっぽちもない」
「っ……言うと思った……あのね……公共の場でそういうのは恥ずかしいって……」
手をこんな風に繋がれるだけでも恥ずかしいのに、その上、言われるとわかっていても、じっと見つめられながら小説や漫画でしか見たことも聞いたこともないような甘いセリフを吐かれたら、顔を赤くする以外できることなどない。そしてそれを確認してご機嫌になるルシファーは確実にいるからタチが悪い。
「ふ……そろそろ慣れろ」
「こんなのに慣れろ、なんて無茶言わないでよ」
唇を尖らせれば、ははっと軽快に笑い飛ばされる始末。ルシファーに敵うわけないのだ。
「で、話を戻すが。総合的に考えると、その体調不良の一番の原因は俺と言うことになる。俺がおまえを愛せば愛すほど、外側からも内側からも俺の魔力を注ぐことになってしまっているのだから」
「っ!?」
「だが、俺はさっきも言ったようにおまえとのこの関係に終止符を打つつもりはない」
「ちょ、ちょっ、ま、」
「契約があろうがなかろうが、俺の傍から離れることは許さない」
「あ、あの、」
「おまえのすべては、俺のものだ。何がなんでも助けてみせる。安心しろ」
重なった手の中、指先で光の指輪を弄りながら微笑まれて、カァアアと全身を沸騰するほど熱くした私は、声にならない声を発しながら机に突っ伏した。
「どうしたんだ?」
「ルシファーの……そういうところ……」
「ん?」
「そういうところが……っ……すき、デス……」
「!」
「私がどんな状態になろうが、ルシファーがいれば大丈夫って思っちゃった……」
こんなに愛してもらってるんだもん。何があっても大丈夫だね、と、突っ伏した顔を少し傾けてはにかめば、キョトンとしたルシファーが次第に表情を崩した。
「夢の中でも俺を呼べ。必ず助けに行くから」
「うん、ありがと」
私からもキュッと手を握り返すと、それを自分の口元に引き寄せたルシファーは、満足そうに、ちゅっと一つ、口付けを落とした。
「どうして言わなかったんだ」
「だって……知恵熱出した上に夢見が悪くてあんまり寝てなかったなんて恥ずかしくて言えるわけないじゃん……」
「はぁ……」
溜め息の原因は単純で、私の抱える問題全てが白日の元に晒されてしまったからだった。
魔界の病院は大層不思議だった。医者がガイコツな程度では驚きもしないくらいには。
粗茶ですと出された飲み物を飲んだらそれは自白剤に似た効果を持つものだったようで洗いざらいはかされたのだ。病院で粗茶が出てくることに違和感を持たなかった私も私なのだけれど、それを止めなかったルシファーもルシファーだ。診察なのだから隠し事をされては困るというその理屈はわかるけど、人間は嘘をつくからそうでもしないといけないのだ…と、そう思われているみたいでちょっとムッとした。
「もういいじゃん。私のこれはちょっと魔力に当てられすぎて出ている反応だってことだし」
「呪いの類なら俺たちの誰一人気づかないのもおかしな話だ。診断結果は信じられるだろうな」
「ならなんでそんなに重くなるの?身体に異常はなかったんだよ?それでいいじゃない」
「そういうわけにはいかないだろう。俺たちの近くにいるからそうなっているんだとしたらそれは俺たちの責任でもある」
そう言われると、返す言葉もない。以前ルシファーの記憶が失われてしまった時は、私がそうやって悩む立場だったのだから。つまり逆のことを言えば、ルシファーが私の気持ちを読むのも簡単なことなんだろうと察しもつく。
ルシファーの方をチラリと見やれば、その視線にひかれてルシファーもこちらに視線を向けた。存外優しい色を湛えたその瞳に、こんな状況にも関わらず心臓がトクリと音を立てた、その間に、カップを包んでいた私の手をそっと取る。ルシファーの、私よりもひとまわり大きな掌がすっぽりと私の手を包み込み、次いで指が絡まった。
「ルシファー、ちょ、」
「おまえを手放す気はこれっぽちもない」
「っ……言うと思った……あのね……公共の場でそういうのは恥ずかしいって……」
手をこんな風に繋がれるだけでも恥ずかしいのに、その上、言われるとわかっていても、じっと見つめられながら小説や漫画でしか見たことも聞いたこともないような甘いセリフを吐かれたら、顔を赤くする以外できることなどない。そしてそれを確認してご機嫌になるルシファーは確実にいるからタチが悪い。
「ふ……そろそろ慣れろ」
「こんなのに慣れろ、なんて無茶言わないでよ」
唇を尖らせれば、ははっと軽快に笑い飛ばされる始末。ルシファーに敵うわけないのだ。
「で、話を戻すが。総合的に考えると、その体調不良の一番の原因は俺と言うことになる。俺がおまえを愛せば愛すほど、外側からも内側からも俺の魔力を注ぐことになってしまっているのだから」
「っ!?」
「だが、俺はさっきも言ったようにおまえとのこの関係に終止符を打つつもりはない」
「ちょ、ちょっ、ま、」
「契約があろうがなかろうが、俺の傍から離れることは許さない」
「あ、あの、」
「おまえのすべては、俺のものだ。何がなんでも助けてみせる。安心しろ」
重なった手の中、指先で光の指輪を弄りながら微笑まれて、カァアアと全身を沸騰するほど熱くした私は、声にならない声を発しながら机に突っ伏した。
「どうしたんだ?」
「ルシファーの……そういうところ……」
「ん?」
「そういうところが……っ……すき、デス……」
「!」
「私がどんな状態になろうが、ルシファーがいれば大丈夫って思っちゃった……」
こんなに愛してもらってるんだもん。何があっても大丈夫だね、と、突っ伏した顔を少し傾けてはにかめば、キョトンとしたルシファーが次第に表情を崩した。
「夢の中でも俺を呼べ。必ず助けに行くから」
「うん、ありがと」
私からもキュッと手を握り返すと、それを自分の口元に引き寄せたルシファーは、満足そうに、ちゅっと一つ、口付けを落とした。