■読み切りログ(ルシファー以外)
青い海。白い砂浜。輝く太陽 ——。
魔界にいるのになぜ?といえば、まぁそこは殿下の力とでも言おうか。三界の融和を目指すと宣言している殿下であるからして、悪魔にも太陽がある場所にも慣れてもらうべきだ、と。そういう意図で作られた施設なのだ、ここは。
人間界にあるリゾート地そのもののこの場所に、今、私とマモンは二人で遊びにきていた。
マモンが「デートだデート!二人きりで!行く!絶対だからな!」と投げてよこしたチャットが明日の予定についてだったと知った、昨日の晩。そんな簡単に準備できないでしょー!!と怒ったのも束の間、真っ赤なオープンカーに乗せられて着いた先にこんな素敵な場所があったので機嫌もへったくれもなく元気いっぱいになったのが先ほど。
車を降りる前に「おら、やるよ」とマモンとお揃いのサングラスを雑にプレゼントされたんだけど、ぶっきらぼうに渡してきたマモンの耳が赤くなってるのを見てしまっては素直にありがとうと言うほかない。
調子に乗ったマモンのテンションは爆上げ。どこぞのカップルに倣って水の掛け合いをしたり、ぷかぷかと海に浮いて太陽を浴びたり、砂の山を作ったり。流石に砂辺をあははうふふと走ったりはしなかったけど、普段に比べてかなりはっちゃけていたのは、明るい太陽のおかげかもしれなかった。
そうやって遊んでいたらぐぅぅと同じタイミングで二つの腹の音が重なって、そろそろお昼にしようかと渡されたこれまたお揃いのフーディーに恥ずかしさが天元突破しそうになったけど、水着のままでウロウロするのはもっと恥ずかしくもあって、ありがたく着させてもらった。
「……ふぅん、に、似合うじゃねーか」
「そう?へへ、黄色ってビタミンカラーで元気出るよね!」
「……っち……もっとでかいの買うべきだったな」
「ん?」
「あ、いや、こっちの話。いこーぜ」
その時マモンが、生足魅惑のマーメードかよ、とボソッとこぼした言葉は私は聞こえなかったわけだけど、家でもこれを着た時にそりゃあもうガツガツ頂かれてしまったって言うのは、また別の話。
ビーチの端の方まで来ると、人間界を真似たと言わんばかりにご丁寧に海の家まであるらしく、焼きそばやイカ焼き、その他もろもろのいい香りが漂う。
「おいしそ〜な香りがする!」
「だな!ってかめっちゃ混んでんな。お前、お前何食いたい?」
「んー、私は、焼きそばとかき氷かなぁ」
「わかった。ちょっと待ってろ。あそこん中入るくらいなら買って元の場所で食ったほうが良さそうだからよ」
「え、でもお金」
「何言ってンだ。デートの時に女に払わせるほどバカじゃねーよ」
ふわりふわりと私の頭を撫でてからニカっと笑ったマモンは、その辺の土産とか眺めてな、と言って一人で海の家の方へ走っていった。残された私はマモンを見送りながら、その、華奢に見えてしっかりと男な背中に、ドキドキを隠せず、髪を直しつつ「なによ、こういう時は男前なんだから」なんて唇を尖らせる。
言われた通りお土産屋さんを覗きながら、いつもプレゼントもらってばっかりだし何か買おうかなぁ、と手頃なキーホルダーを物色。これはどうかな、あっちのがいいかな、と普段よりも数段気の抜けていた私は、非日常に頭が沸いていたのかもしれない。
「ねーねーかわいいオネーチャン」
「へ?」
ありふれたナンパ台詞になんの警戒もなく振り返ったのは私のミスでしかなかった。
私に声をかけてきたチャラ男二人を交互に見て、まずマモンと比べてしまったあたり完全に彼女脳であり、魔界にもこんなのが何人もいるんだ……と、今はそんなことを言っている場合ではない。
「あー……えと、私、です?」
「そうそう!振り向いてもらって俺たちラッキーって思ってんだけど、一緒に遊ばない?」
「あ、あの私、」
「あわかった。一人じゃないんでしょ。いいよ、もう一人女の子いたらちょうど頭数合うし」
そんなこと微塵も言ってない。不機嫌をあらわにすると、もう一人が「あーっと!」と空気を変えるためか大きな声を出して私の胸元を指差した。
「それ!!そのサングラス、めっちゃかわいいじゃん!ねぇそれかけてさぁ、俺たちと遊ぼうよ〜」
それ、と指差されたことに気を取られた隙に私の腕をグィッと引っ張って無理矢理どこかに連れて行こうとする二人。
しかし、ゾワッと嫌悪を抱いた刹那、私の肩は後ろにひかれ、ぽす、と何かに抱き止められる。
「じゃあ俺も可愛いかよ」
「は?」
「俺もそのサングラスしてンだよ。可愛いかァ?!」
心底機嫌が悪そうな声で相手を威嚇したマモンに圧倒されたのか、その一言で、負け犬の遠吠えすらせずにナンパ野郎ズは去っていった。
「ったくよ……人の女に手ぇ出してんじゃねーっての」
「あ、……ま、もん、」
「おぅ、大丈夫か。何もされてねぇ?やっぱ俺バカだったわ。遠くても二人で行くべきだったよな、デートだし」
「ぁ、ちが、ぅ、」
マモンが来てくれたという安心からか、ふつふつと恐怖が湧いてきて、それを紛らわせるためにマモンにギュッとしがみつく。
「うぉ!?!!あっぶね!落とすとこだったぞ、って……どうした、大丈夫か?」
こういうのに弱いくせに、こういうときはびくともしない。
さっきとは全く違う、優しいトーン。絶対に助けてくれるという信頼。私はマモンだから好きなんだと、悔しいけど思い知らされる。
ちょっと首を傾げて覗き込んだマモンの、ずれたサングラスの奥からは、心配でしかたないという様子の瞳が見えた。それがとても愛おしくて。
剥き出しの肌にちゅっと唇を押し付けてやる。
「€%\~€€フガァ@&¥fjk!?」
わけのわからない奇声をあげて尻餅をついたマモンの鼻先にちょいと指をむけて。感謝の言葉と、せいいっぱいの気持ちを送った。
「ありがと!かっこよかったよ!大好きっ!」
魔界にいるのになぜ?といえば、まぁそこは殿下の力とでも言おうか。三界の融和を目指すと宣言している殿下であるからして、悪魔にも太陽がある場所にも慣れてもらうべきだ、と。そういう意図で作られた施設なのだ、ここは。
人間界にあるリゾート地そのもののこの場所に、今、私とマモンは二人で遊びにきていた。
マモンが「デートだデート!二人きりで!行く!絶対だからな!」と投げてよこしたチャットが明日の予定についてだったと知った、昨日の晩。そんな簡単に準備できないでしょー!!と怒ったのも束の間、真っ赤なオープンカーに乗せられて着いた先にこんな素敵な場所があったので機嫌もへったくれもなく元気いっぱいになったのが先ほど。
車を降りる前に「おら、やるよ」とマモンとお揃いのサングラスを雑にプレゼントされたんだけど、ぶっきらぼうに渡してきたマモンの耳が赤くなってるのを見てしまっては素直にありがとうと言うほかない。
調子に乗ったマモンのテンションは爆上げ。どこぞのカップルに倣って水の掛け合いをしたり、ぷかぷかと海に浮いて太陽を浴びたり、砂の山を作ったり。流石に砂辺をあははうふふと走ったりはしなかったけど、普段に比べてかなりはっちゃけていたのは、明るい太陽のおかげかもしれなかった。
そうやって遊んでいたらぐぅぅと同じタイミングで二つの腹の音が重なって、そろそろお昼にしようかと渡されたこれまたお揃いのフーディーに恥ずかしさが天元突破しそうになったけど、水着のままでウロウロするのはもっと恥ずかしくもあって、ありがたく着させてもらった。
「……ふぅん、に、似合うじゃねーか」
「そう?へへ、黄色ってビタミンカラーで元気出るよね!」
「……っち……もっとでかいの買うべきだったな」
「ん?」
「あ、いや、こっちの話。いこーぜ」
その時マモンが、生足魅惑のマーメードかよ、とボソッとこぼした言葉は私は聞こえなかったわけだけど、家でもこれを着た時にそりゃあもうガツガツ頂かれてしまったって言うのは、また別の話。
ビーチの端の方まで来ると、人間界を真似たと言わんばかりにご丁寧に海の家まであるらしく、焼きそばやイカ焼き、その他もろもろのいい香りが漂う。
「おいしそ〜な香りがする!」
「だな!ってかめっちゃ混んでんな。お前、お前何食いたい?」
「んー、私は、焼きそばとかき氷かなぁ」
「わかった。ちょっと待ってろ。あそこん中入るくらいなら買って元の場所で食ったほうが良さそうだからよ」
「え、でもお金」
「何言ってンだ。デートの時に女に払わせるほどバカじゃねーよ」
ふわりふわりと私の頭を撫でてからニカっと笑ったマモンは、その辺の土産とか眺めてな、と言って一人で海の家の方へ走っていった。残された私はマモンを見送りながら、その、華奢に見えてしっかりと男な背中に、ドキドキを隠せず、髪を直しつつ「なによ、こういう時は男前なんだから」なんて唇を尖らせる。
言われた通りお土産屋さんを覗きながら、いつもプレゼントもらってばっかりだし何か買おうかなぁ、と手頃なキーホルダーを物色。これはどうかな、あっちのがいいかな、と普段よりも数段気の抜けていた私は、非日常に頭が沸いていたのかもしれない。
「ねーねーかわいいオネーチャン」
「へ?」
ありふれたナンパ台詞になんの警戒もなく振り返ったのは私のミスでしかなかった。
私に声をかけてきたチャラ男二人を交互に見て、まずマモンと比べてしまったあたり完全に彼女脳であり、魔界にもこんなのが何人もいるんだ……と、今はそんなことを言っている場合ではない。
「あー……えと、私、です?」
「そうそう!振り向いてもらって俺たちラッキーって思ってんだけど、一緒に遊ばない?」
「あ、あの私、」
「あわかった。一人じゃないんでしょ。いいよ、もう一人女の子いたらちょうど頭数合うし」
そんなこと微塵も言ってない。不機嫌をあらわにすると、もう一人が「あーっと!」と空気を変えるためか大きな声を出して私の胸元を指差した。
「それ!!そのサングラス、めっちゃかわいいじゃん!ねぇそれかけてさぁ、俺たちと遊ぼうよ〜」
それ、と指差されたことに気を取られた隙に私の腕をグィッと引っ張って無理矢理どこかに連れて行こうとする二人。
しかし、ゾワッと嫌悪を抱いた刹那、私の肩は後ろにひかれ、ぽす、と何かに抱き止められる。
「じゃあ俺も可愛いかよ」
「は?」
「俺もそのサングラスしてンだよ。可愛いかァ?!」
心底機嫌が悪そうな声で相手を威嚇したマモンに圧倒されたのか、その一言で、負け犬の遠吠えすらせずにナンパ野郎ズは去っていった。
「ったくよ……人の女に手ぇ出してんじゃねーっての」
「あ、……ま、もん、」
「おぅ、大丈夫か。何もされてねぇ?やっぱ俺バカだったわ。遠くても二人で行くべきだったよな、デートだし」
「ぁ、ちが、ぅ、」
マモンが来てくれたという安心からか、ふつふつと恐怖が湧いてきて、それを紛らわせるためにマモンにギュッとしがみつく。
「うぉ!?!!あっぶね!落とすとこだったぞ、って……どうした、大丈夫か?」
こういうのに弱いくせに、こういうときはびくともしない。
さっきとは全く違う、優しいトーン。絶対に助けてくれるという信頼。私はマモンだから好きなんだと、悔しいけど思い知らされる。
ちょっと首を傾げて覗き込んだマモンの、ずれたサングラスの奥からは、心配でしかたないという様子の瞳が見えた。それがとても愛おしくて。
剥き出しの肌にちゅっと唇を押し付けてやる。
「€%\~€€フガァ@&¥fjk!?」
わけのわからない奇声をあげて尻餅をついたマモンの鼻先にちょいと指をむけて。感謝の言葉と、せいいっぱいの気持ちを送った。
「ありがと!かっこよかったよ!大好きっ!」