■読み切りログ(ルシファー以外)
とんとん、と控えめなノック音がしたのは、夕飯を食べ終わって少ししたころ。
たいして身なりを確認しなかったのは、それはここでは日常だからだった。嘆きの館には7人もの悪魔が住んでいるわけで、別段こんなことは珍しくはない。
「はぁーい、いまあけるよぉー」
「遅くにごめんね。今少しいい?」
「…………!?!!?、。!?」
でも、開けた扉の前に立っていたのがベルフェだったら話は別で、可愛い部屋着にバッチリメイクしてないと困るのは私。反射的にドアを閉めようとしたのは簡単に止められ、部屋の中に押し戻された。
「ちょ、え、ま!?やくそく、え!?!」
「今いい?って聞いておいてなんだけどあんたの返事がどっちでも話はしたかったから、ごめんね」
顔はにこにこしてるけど、声は有無を言わさない感じがして、ウッと言葉を飲み込む。そうしてるうちに私はベッドに座らされ、脳内にはクエスチョンが浮かんでは消えた。ベルフェをチラッと見上げても目的がよくわからない。大好きな人が会いにきてくれるならいつでも大歓迎ではあっても、言葉がないと少しだけ、怖くなるときもある。
「あ、あの……?どうし、ッ!?」
思い切って声をかけた刹那、ぽん、と頭の上に乗ったのはベルフェの手で、その手はよしよしと優しく私の髪を滑った。
「よしよし」
「、ふぇ?」
「……なんかあったみたいだから」
「っ、な、ん」
「みんなはうまく誤魔化せてもぼくは騙されないよ。あんた、わかりやすいんだもん」
ベルフェの言う通り「なにか」はあった。それはおそらく、他人にとっては他愛のない日常事かもしれないし、なんでもないと笑い飛ばされるようなことだろう。
でも私にとってはジクジクと心を蝕むような、ずっと頭に残り続けるような、そんな出来事で、だからこそ誰にも言えないまましんどかったのだ。でも。
「だれにも、いってない」
「言ったでしょ。ぼくにはわかっちゃうんだよ。言いたいなら聞くけど、無理に言わせたくはないかな。だから、お疲れ様って、抱きしめにきたんだ」
ベルフェは、髪を滑っていた手でそのまま私の肩を引き寄せる。ベルフェの胸にすっぽりおさまった私。すん、と鼻をすすると、鼻腔を満たしたベルフェの香りに、我慢の限界がきて視界が潤む。
「っ……」
「よしよし。誰も見てないからさ」
「ふ、っ、ひっく……べるふぇぇ……」
「お疲れ様。がんばったんだよね。ぼくくらい怠惰ならよかったのに、まじめで優しいから」
「ぅぅ……っそんなこと、なぃっ、けど、ひぐっ……」
「こういうのは素直に受け止めてくれたらいいんだよ?あんたのことは、ぼくがよくみてるから。昨日もその前も、ずーっとね。ぼくがずっとそばにいて、見てるから。あんたがもういいよって言ってもきっと離れないし」
「ッそんなこと、いうわけないもん」
ずびずび鼻を鳴らしながらなんとかそう告げると、ベルフェは笑った。それだけで少し。ほんの少しだけ気分が晴れる。
「うん、知ってるよ。ありがと。ぼくはあんたにそうやって肯定されて、安心できる」
「ウン」
「だからさ、あんたも疲れちゃった時は何もなくてもぼくのところにきて、それでこうやって、抱きしめられてさ、それで少しだけでも安心してもらえたらいいなって思うんだよね」
お互い、大事に思ってるってこと、伝えられるって、幸せなことじゃん。
ベルフェはそう言うと、私をさらにぎゅっと胸に抱き寄せてくれた。
明日がちょっとだけ、いい日になりますようにと願えるようになったのは、君のおかげ。
ありがとう、と小さく呟くと、大好きだよ、と、返ってきて。
また一つ、悩みがふんわり溶けていった。
たいして身なりを確認しなかったのは、それはここでは日常だからだった。嘆きの館には7人もの悪魔が住んでいるわけで、別段こんなことは珍しくはない。
「はぁーい、いまあけるよぉー」
「遅くにごめんね。今少しいい?」
「…………!?!!?、。!?」
でも、開けた扉の前に立っていたのがベルフェだったら話は別で、可愛い部屋着にバッチリメイクしてないと困るのは私。反射的にドアを閉めようとしたのは簡単に止められ、部屋の中に押し戻された。
「ちょ、え、ま!?やくそく、え!?!」
「今いい?って聞いておいてなんだけどあんたの返事がどっちでも話はしたかったから、ごめんね」
顔はにこにこしてるけど、声は有無を言わさない感じがして、ウッと言葉を飲み込む。そうしてるうちに私はベッドに座らされ、脳内にはクエスチョンが浮かんでは消えた。ベルフェをチラッと見上げても目的がよくわからない。大好きな人が会いにきてくれるならいつでも大歓迎ではあっても、言葉がないと少しだけ、怖くなるときもある。
「あ、あの……?どうし、ッ!?」
思い切って声をかけた刹那、ぽん、と頭の上に乗ったのはベルフェの手で、その手はよしよしと優しく私の髪を滑った。
「よしよし」
「、ふぇ?」
「……なんかあったみたいだから」
「っ、な、ん」
「みんなはうまく誤魔化せてもぼくは騙されないよ。あんた、わかりやすいんだもん」
ベルフェの言う通り「なにか」はあった。それはおそらく、他人にとっては他愛のない日常事かもしれないし、なんでもないと笑い飛ばされるようなことだろう。
でも私にとってはジクジクと心を蝕むような、ずっと頭に残り続けるような、そんな出来事で、だからこそ誰にも言えないまましんどかったのだ。でも。
「だれにも、いってない」
「言ったでしょ。ぼくにはわかっちゃうんだよ。言いたいなら聞くけど、無理に言わせたくはないかな。だから、お疲れ様って、抱きしめにきたんだ」
ベルフェは、髪を滑っていた手でそのまま私の肩を引き寄せる。ベルフェの胸にすっぽりおさまった私。すん、と鼻をすすると、鼻腔を満たしたベルフェの香りに、我慢の限界がきて視界が潤む。
「っ……」
「よしよし。誰も見てないからさ」
「ふ、っ、ひっく……べるふぇぇ……」
「お疲れ様。がんばったんだよね。ぼくくらい怠惰ならよかったのに、まじめで優しいから」
「ぅぅ……っそんなこと、なぃっ、けど、ひぐっ……」
「こういうのは素直に受け止めてくれたらいいんだよ?あんたのことは、ぼくがよくみてるから。昨日もその前も、ずーっとね。ぼくがずっとそばにいて、見てるから。あんたがもういいよって言ってもきっと離れないし」
「ッそんなこと、いうわけないもん」
ずびずび鼻を鳴らしながらなんとかそう告げると、ベルフェは笑った。それだけで少し。ほんの少しだけ気分が晴れる。
「うん、知ってるよ。ありがと。ぼくはあんたにそうやって肯定されて、安心できる」
「ウン」
「だからさ、あんたも疲れちゃった時は何もなくてもぼくのところにきて、それでこうやって、抱きしめられてさ、それで少しだけでも安心してもらえたらいいなって思うんだよね」
お互い、大事に思ってるってこと、伝えられるって、幸せなことじゃん。
ベルフェはそう言うと、私をさらにぎゅっと胸に抱き寄せてくれた。
明日がちょっとだけ、いい日になりますようにと願えるようになったのは、君のおかげ。
ありがとう、と小さく呟くと、大好きだよ、と、返ってきて。
また一つ、悩みがふんわり溶けていった。