◆Dead Drop

【余談とはなりますが。】

 ボーッとひとつ、汽笛が鳴った。

 船が港へ着き、犯人は警察へ引き渡される。
 また、犯人の私物ということで、契約のアークが本物であるかどうかを確認する間もなくそれは押収されてしまったし、テセウス自体も現場検証等で利用するらしく乗客は全員降ろされた。必要があれば別の船を手配する、と。そういうことらしい。
 デビルズの面々は特に乗っている意味もないので、そのまま下船することになった。ヴィーナスとルシファーは早々に降りてどこかへ行ったようだ。もとより同行していたわけではないので特になんの問題もないが。

 港に着いた頃にはもう夕方に差し掛かっていたため、春居とバルバトスは早速そこいらのホテルにチェックインした。もちろん組織にツケられるので、この辺り一番の高級宿である。
「さ、てと。どうする?回収するはずのお宝は無くなっちゃったし、晴れて今日は休暇ねっ!」
「そうですね」
「なんだかんだ、陸から離れると身体が強ばるのよねぇ」
「おや、もしや船や飛行機は苦手ですか?」
「好きではないわね。仕事だし、仕方なく乗ってるって感じ。いつもよりドキドキするから嫌なのよ乗り物って」
「それはわたくしと二人きりだからではないのでしょうか?」
 聞き慣れないセリフに「んん!?」と反応を返した春居は、バルバトスのしたり顔を見て頬を染める。
「バルバトス……はかったわねぇ……」
「そのようなことはございませんよ。本来ならここで両腕を広げてあなたが飛び込んでくるのを待つほうがドラマティックなのでしょうけれど、わたくしたちにはそれは些か大袈裟過ぎますので」
 座っていた椅子から無駄な動作なくスッと立ち上がったバルバトスは、今度はベッドに腰掛けて、仰向けになっていた春居の額にキスを落とした。唇を離しながらふふっと笑う。心底楽しそうだ。
「も……揶揄わないで……」
「揶揄ってなどおりません。どうすれば甘えてくださるかなと考えておりました」
「私っ」
「ふふ、やはりカクテルでも頼みましょうか」
「い、いいっ!」
 そう言うが早いか、バルバトスのタイをギュッと引いて自らの唇をバルバトスのそれに押し付けた春居は、うるりと瞳を潤ませた。珍しいその行動に、一瞬ぽかんとさせられるも、次第に目元を柔らかく緩めたバルバトスはとても嬉しそうだった。
「ご褒美でしょうか」
「そ、そう!バルバトス、いつも頑張ってるもん!春居ちゃんから、ご褒美っ!」
「それならば、ありがたくいただきましょうか。夜はこれから、ですからね」
「うん、夜はまだ先だから、だからまずはごはンんーーーっ!!?!?」

 船上でのパーティーナイトがなかった分、ベッドの上でワルツを踊ることにしたらしい。
 もちろん、二人きりで、ね。
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