■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)
人間界に皆が遊びにきてくれた時から、考えないようにしていたことが今、現実になろうとしていた。
わかっていたつもりだったけど、それが実際に起こって、それを受け入れるのには、相応の覚悟が必要なわけで。むしろ私が魔術師として認められるようになるまで皆が見守っていてくれたことだけでも感謝しなければならないのだ……という建前ではもう、私の心は平静を保てなくなっていた。
最後の夜、ルシファーに話があると呼ばれ、部屋に行けば、『ご褒美が欲しいなら上手におねだりしてみろ』なんて言うものだから、命令されてもいないのにルシファーの膝の上に跨って、そっと唇を押し付けた。ちゅっと小さいリップノイズがして、でもそのくらいではルシファーの愛情を教え込まれた私が満足できるはずもない。そんな私の気持ちを見越してか、ルシファーは私の腰に手を回して引き寄せて、それから眼鏡を取ると額をこつりと合わせてこう言った。
「ふ……そんな可愛いキス一つで済むとでも?俺はまだまだ、足りないんだが?」
「っ、るし…っんぅ…、」
「ン……はぁ、……今夜は俺の部屋に泊まって行くだろう?」
「……いいの……?」
「そうしろ。部屋に戻ると言っても、帰さないがな」
そうして私たちは人間界と魔界の狭間で交わって重なって。離れがたくなるのがわかっていても、そうする以外のことは考えられなかった。
愛を語らって、暫く。
満たされた傍から寂しさに蝕まれる心のやりどころがなくて、眠るのが惜しいとルシファーに甘える。ルシファーも満更ではないようで、私の取り止めのない話に相槌を打ちながら、毛先を弄んで時折柔らかく笑う。
そんな時間が愛おしくて、微睡の中で希った。
「ルシファーのこと、忘れたくないの」
「なんだ?おまえは俺と一日でも会わないと俺のことを忘れてしまう程度にしか俺のことを想ってくれていないのか?」
「ちがう、ちがうよ。そうじゃない……っけど、不安になるんだよ……ルシファーの香りも、体温も、触れる指先の優しさも、全部全部、失いたくない。人間はどうして大事なものを掌からこぼしてしまうの…?」
うる、と濡れた瞳を隠したくて、その胸に顔を隠す。すると、ぎゅぅっと丸まるようにして私の身体を包み込んだルシファーは、これまで以上に優しい声で『嘘だよ』と言った。
「そんなに俺のことを好いてくれているなんて、嬉しい以外にどう表現すればいい?」
「るしふぁ、」
「でないと最後の夜におまえを囲ったりしないさ、ン、」
「ん、ぅ……」
「その涙、こぼれる前に全部俺にくれないか」
そう告げながら身体を反転して、私の額、目尻、頬、首筋、胸元とキスを落としていくルシファーは、吐息で笑いながら言葉を紡ぐ。
「こんなことを願うなんて、傲慢の悪魔が聞いて呆れる。だがおまえにだけは全部、俺の本音までもくれてやる。だから一日でも早く俺を喚び出してもらわないといけないな」
「っ、ふ、ぁ」
「ンッ…ハッ……この痕が消える前に、何度でも付けさせてくれよ」
「はぁっ……ん、るしふぁ、でも、消えない痕は、付けられないの……?」
「いや?付けようと思えば簡単だ。だが、そんなもの付けたら逆に困るから俺はしない」
「なんで……」
「わからないのか?」
おまえに会いに行く理由が一つでも減るなんて、俺が耐えられないだろう、と。そんなことを言わないで。二人でいる時にだけ見せてくれる困ったような笑顔がまた私の涙腺を刺激した。
「がんばるから…一日でも早く、会えるように、」
「ああ、頼んだぞ」
「うんっ…だから今日は、今夜は…朝日が登るまで愛して…?ルシファーを、私にたくさん刻んでほしいの」
「おまえが望むなら、答えは一つしかないだろう?」
一筋溢れた涙。泣くのはこれでら最後にするから。だから遠くから祈っていてね。
大好きなんかじゃもう足りない。
悪魔を愛した、私。
人間に魅入られたあなた。
こんな恋物語は、一つで充分。
待っててね。
きっと、また。
わかっていたつもりだったけど、それが実際に起こって、それを受け入れるのには、相応の覚悟が必要なわけで。むしろ私が魔術師として認められるようになるまで皆が見守っていてくれたことだけでも感謝しなければならないのだ……という建前ではもう、私の心は平静を保てなくなっていた。
最後の夜、ルシファーに話があると呼ばれ、部屋に行けば、『ご褒美が欲しいなら上手におねだりしてみろ』なんて言うものだから、命令されてもいないのにルシファーの膝の上に跨って、そっと唇を押し付けた。ちゅっと小さいリップノイズがして、でもそのくらいではルシファーの愛情を教え込まれた私が満足できるはずもない。そんな私の気持ちを見越してか、ルシファーは私の腰に手を回して引き寄せて、それから眼鏡を取ると額をこつりと合わせてこう言った。
「ふ……そんな可愛いキス一つで済むとでも?俺はまだまだ、足りないんだが?」
「っ、るし…っんぅ…、」
「ン……はぁ、……今夜は俺の部屋に泊まって行くだろう?」
「……いいの……?」
「そうしろ。部屋に戻ると言っても、帰さないがな」
そうして私たちは人間界と魔界の狭間で交わって重なって。離れがたくなるのがわかっていても、そうする以外のことは考えられなかった。
愛を語らって、暫く。
満たされた傍から寂しさに蝕まれる心のやりどころがなくて、眠るのが惜しいとルシファーに甘える。ルシファーも満更ではないようで、私の取り止めのない話に相槌を打ちながら、毛先を弄んで時折柔らかく笑う。
そんな時間が愛おしくて、微睡の中で希った。
「ルシファーのこと、忘れたくないの」
「なんだ?おまえは俺と一日でも会わないと俺のことを忘れてしまう程度にしか俺のことを想ってくれていないのか?」
「ちがう、ちがうよ。そうじゃない……っけど、不安になるんだよ……ルシファーの香りも、体温も、触れる指先の優しさも、全部全部、失いたくない。人間はどうして大事なものを掌からこぼしてしまうの…?」
うる、と濡れた瞳を隠したくて、その胸に顔を隠す。すると、ぎゅぅっと丸まるようにして私の身体を包み込んだルシファーは、これまで以上に優しい声で『嘘だよ』と言った。
「そんなに俺のことを好いてくれているなんて、嬉しい以外にどう表現すればいい?」
「るしふぁ、」
「でないと最後の夜におまえを囲ったりしないさ、ン、」
「ん、ぅ……」
「その涙、こぼれる前に全部俺にくれないか」
そう告げながら身体を反転して、私の額、目尻、頬、首筋、胸元とキスを落としていくルシファーは、吐息で笑いながら言葉を紡ぐ。
「こんなことを願うなんて、傲慢の悪魔が聞いて呆れる。だがおまえにだけは全部、俺の本音までもくれてやる。だから一日でも早く俺を喚び出してもらわないといけないな」
「っ、ふ、ぁ」
「ンッ…ハッ……この痕が消える前に、何度でも付けさせてくれよ」
「はぁっ……ん、るしふぁ、でも、消えない痕は、付けられないの……?」
「いや?付けようと思えば簡単だ。だが、そんなもの付けたら逆に困るから俺はしない」
「なんで……」
「わからないのか?」
おまえに会いに行く理由が一つでも減るなんて、俺が耐えられないだろう、と。そんなことを言わないで。二人でいる時にだけ見せてくれる困ったような笑顔がまた私の涙腺を刺激した。
「がんばるから…一日でも早く、会えるように、」
「ああ、頼んだぞ」
「うんっ…だから今日は、今夜は…朝日が登るまで愛して…?ルシファーを、私にたくさん刻んでほしいの」
「おまえが望むなら、答えは一つしかないだろう?」
一筋溢れた涙。泣くのはこれでら最後にするから。だから遠くから祈っていてね。
大好きなんかじゃもう足りない。
悪魔を愛した、私。
人間に魅入られたあなた。
こんな恋物語は、一つで充分。
待っててね。
きっと、また。