◆Dead Drop
【第二十三話】
はぁ、はぁ、荒い息遣いが暗闇にこだまする。足がもつれる。握られている手に力が入らない。なぜ? どうして。頭の中をぐるぐる回るのはそんな、考えても意味のない疑問詞だけだ。具体策でなければ、今この時は役に立たない。
『プロのエージェントでしょう!』
そんな叱咤が脳内で飛ぶも、妙案は何も浮かばなかった。
パン、と乾いた銃声が鳴る。それを皮切りに続け様に何度も何度も銃声が響いた。
(ああもうだめ)
そう思ってキツく瞼を閉じた瞬間。ぐい、と引かれたのは繋いでいた手。
(そういえば、私は誰に手を引かれているんだっけ?)
やっとのことでその疑問にたどり着いた私は足元ばかり見ていた瞳を上に向けて。そうして振り返った彼の顔を ————
「……あれ……?」
彼の顔を拝める。そう思ったのに、視界を覆ったのは肌色の世界。気怠く、動かせない身体が告げるのは、昨晩あった事実。
どうやら今の今まで走っていたのも追い詰められていたのも、夢だったようだ。昨晩は、そう、カイロプタラにあれよあれよとベッドに追いやられた私は、あの見た目からでは想像ができないほどに熱く揺さぶられていたのだから。
(夢に出てきたのは、昨日の名残か何かかしらね)
耳に残っている荒々しい吐息はお互いの喘ぎに似た何かだし、昨日はサディスティックな一面が顔を覗かせたひとときもあり、上に乗せられ、手を拘束されて下から奥を突き上げられていたから、そういう感覚がそのまま脳内で再生されたのかもしれなかった。追い詰められていたのはきっと、一番イイトコロを探られて、昇り詰めた瞬間だ。
そこまで考えてブワッと湧き上がってきた恥ずかしさにキュッと瞳を閉じる。すぅ、すぅ、とカイロプタラの小さな吐息が額のあたりに当たってくすぐったい。相変わらず私の身体をガチガチに拘束したまま眠るカイロプタラにはもうだいぶ慣れたけれど、面白いな、とは思う。最初の頃こそすったもんだあったが、今はもう恥ずかしがれど逃げたりはしないのに。だってもう出会ってから随分経ったし、こうして自分の家にまで侵入を許している仲なのだ。
「まだ信じられてないのかなぁ」
ぽつりと漏らした言葉に返事は返ってくる予定ではなかった。なのに額に当たる寝息のリズムが崩れてクスリと音がし、それをきっかけに私は彼が起きていたことを知る。
ビクッと身体を硬直させてしまった私を抱く腕には更に力が入り、ピタリと密着してもなおもぎゅうっと身体全体で締め付けてくるので、さすがにストップをかけた。
「ウッ! カイ、いつからおきてっ、」
「信じるも信じないもありませんよ。こうしていると落ち着くと言うだけです」
「うそだァ!!」
「おや、どうして嘘だとわかるんです?」
「だってっ、私はドキドキして死にそうなんだもん! カイだけ落ち着くなんでずるい!」
「ほぅ?」
「あっ、」
墓穴を掘ったが故か、穴を掘って奥深くに入りたい気分。だがこの男、聞いた言葉を聞かなかったことにするようなタマではない。
「なぜドキドキなさるのですか?」
「ど、どうしても、こうしても、なっ、ひゃ!?」
抗議の途中、さす、と怪しく肌をなぞる指先にピクリと反応してしまう身体がにくい。昨晩植え付けられた快楽がその一点からじわりじわりと広がっていく。酔いが覚めている今、これは恥ずかしいの度がすぎる。いまだ酒の力を借りなければ雰囲気に酔えないのは申し訳ないところだが、起き抜けにこんな雰囲気になるのも珍しいのだから致し方ない。
「あの、カイ? そろそろ私、シャワーにっ、っ!?」
「そうですね。それならわたくしが隅から隅まで綺麗にしてさしあげます。しっかり捕まってください」
「は?! ち、ちが、ひとりで、」
「おや、立てるのですか? 一人で」
「ぬぁ……!?」
話題転換も失敗。全てを見透かされているという事実に、瞬時に体温が上昇した。抱き上げられた身体からはシーツがはらりと落ちていく。私は真っ裸、抱き上げるほうもまたパンツ以外は身につけていない。バランスを崩してギュッと抱きつけば、ひっつく素肌の感触はなんとも言えず。言葉を無くした私は諦めの境地から額を彼の肩口に押し付けてグリグリ動かした。
「ゔ〜っっ……!」
「ふふっ、可愛らしい抗議ですね。さぁ、優雅にバスタイムと洒落込みましょう。そのあとはとっておきの朝食を」
「っ……! ふ、ふわふわの、フレンチトーストが、いいっ……デス」
「リクエストありがとうございます。では本日のメニューはふわふわあつあつ、ほのかにハチミツが香るフレンチトーストと、特製のミルクティーをご用意いたします」
満足そうな声色を聞くと、今日だけだからねとのセリフも発することはできなくて、こくりと小さく頷いた。
そのころD.D.D.は一件メッセージを受信中。本日は夕方から、二人はまたエージェント。
デビルズ屈指のバディ、カイロプタラとアプリーリスの向かうところ敵は無し。二人の関係は良好とあれば、ミッションはまだまだ続く模様。
はぁ、はぁ、荒い息遣いが暗闇にこだまする。足がもつれる。握られている手に力が入らない。なぜ? どうして。頭の中をぐるぐる回るのはそんな、考えても意味のない疑問詞だけだ。具体策でなければ、今この時は役に立たない。
『プロのエージェントでしょう!』
そんな叱咤が脳内で飛ぶも、妙案は何も浮かばなかった。
パン、と乾いた銃声が鳴る。それを皮切りに続け様に何度も何度も銃声が響いた。
(ああもうだめ)
そう思ってキツく瞼を閉じた瞬間。ぐい、と引かれたのは繋いでいた手。
(そういえば、私は誰に手を引かれているんだっけ?)
やっとのことでその疑問にたどり着いた私は足元ばかり見ていた瞳を上に向けて。そうして振り返った彼の顔を ————
「……あれ……?」
彼の顔を拝める。そう思ったのに、視界を覆ったのは肌色の世界。気怠く、動かせない身体が告げるのは、昨晩あった事実。
どうやら今の今まで走っていたのも追い詰められていたのも、夢だったようだ。昨晩は、そう、カイロプタラにあれよあれよとベッドに追いやられた私は、あの見た目からでは想像ができないほどに熱く揺さぶられていたのだから。
(夢に出てきたのは、昨日の名残か何かかしらね)
耳に残っている荒々しい吐息はお互いの喘ぎに似た何かだし、昨日はサディスティックな一面が顔を覗かせたひとときもあり、上に乗せられ、手を拘束されて下から奥を突き上げられていたから、そういう感覚がそのまま脳内で再生されたのかもしれなかった。追い詰められていたのはきっと、一番イイトコロを探られて、昇り詰めた瞬間だ。
そこまで考えてブワッと湧き上がってきた恥ずかしさにキュッと瞳を閉じる。すぅ、すぅ、とカイロプタラの小さな吐息が額のあたりに当たってくすぐったい。相変わらず私の身体をガチガチに拘束したまま眠るカイロプタラにはもうだいぶ慣れたけれど、面白いな、とは思う。最初の頃こそすったもんだあったが、今はもう恥ずかしがれど逃げたりはしないのに。だってもう出会ってから随分経ったし、こうして自分の家にまで侵入を許している仲なのだ。
「まだ信じられてないのかなぁ」
ぽつりと漏らした言葉に返事は返ってくる予定ではなかった。なのに額に当たる寝息のリズムが崩れてクスリと音がし、それをきっかけに私は彼が起きていたことを知る。
ビクッと身体を硬直させてしまった私を抱く腕には更に力が入り、ピタリと密着してもなおもぎゅうっと身体全体で締め付けてくるので、さすがにストップをかけた。
「ウッ! カイ、いつからおきてっ、」
「信じるも信じないもありませんよ。こうしていると落ち着くと言うだけです」
「うそだァ!!」
「おや、どうして嘘だとわかるんです?」
「だってっ、私はドキドキして死にそうなんだもん! カイだけ落ち着くなんでずるい!」
「ほぅ?」
「あっ、」
墓穴を掘ったが故か、穴を掘って奥深くに入りたい気分。だがこの男、聞いた言葉を聞かなかったことにするようなタマではない。
「なぜドキドキなさるのですか?」
「ど、どうしても、こうしても、なっ、ひゃ!?」
抗議の途中、さす、と怪しく肌をなぞる指先にピクリと反応してしまう身体がにくい。昨晩植え付けられた快楽がその一点からじわりじわりと広がっていく。酔いが覚めている今、これは恥ずかしいの度がすぎる。いまだ酒の力を借りなければ雰囲気に酔えないのは申し訳ないところだが、起き抜けにこんな雰囲気になるのも珍しいのだから致し方ない。
「あの、カイ? そろそろ私、シャワーにっ、っ!?」
「そうですね。それならわたくしが隅から隅まで綺麗にしてさしあげます。しっかり捕まってください」
「は?! ち、ちが、ひとりで、」
「おや、立てるのですか? 一人で」
「ぬぁ……!?」
話題転換も失敗。全てを見透かされているという事実に、瞬時に体温が上昇した。抱き上げられた身体からはシーツがはらりと落ちていく。私は真っ裸、抱き上げるほうもまたパンツ以外は身につけていない。バランスを崩してギュッと抱きつけば、ひっつく素肌の感触はなんとも言えず。言葉を無くした私は諦めの境地から額を彼の肩口に押し付けてグリグリ動かした。
「ゔ〜っっ……!」
「ふふっ、可愛らしい抗議ですね。さぁ、優雅にバスタイムと洒落込みましょう。そのあとはとっておきの朝食を」
「っ……! ふ、ふわふわの、フレンチトーストが、いいっ……デス」
「リクエストありがとうございます。では本日のメニューはふわふわあつあつ、ほのかにハチミツが香るフレンチトーストと、特製のミルクティーをご用意いたします」
満足そうな声色を聞くと、今日だけだからねとのセリフも発することはできなくて、こくりと小さく頷いた。
そのころD.D.D.は一件メッセージを受信中。本日は夕方から、二人はまたエージェント。
デビルズ屈指のバディ、カイロプタラとアプリーリスの向かうところ敵は無し。二人の関係は良好とあれば、ミッションはまだまだ続く模様。