◆Dead Drop
【第十九話】
「ん……ぃった……」
瞼に薄く光を感じて、ヴィーナスの意識は覚醒した。頭を動かした瞬間鈍い痛みが走り、彼女は小さく呻き声を上げる。どうやら軽く脳震盪を起こしているみたいだと身体の位置はそのままに、きょろ、と視線を動かせば、見える範囲だけでも数人の女性が手を縛られて倒れているのが目に止まる。彼女らは皆コルセットだけしか身につけておらず、また、足首には番号が書かれたバンドが巻かれていた。そこから察するに、ここが人身売買の現場で間違いなさそうだ。
(どこからか連れてきた、っていうよりも、カジノに来た女性を連れ去っていたといったほうがいいみたい。……会員以外の客に着いてきてる女性を適当に見繕って裏へひっぱって、競りにでもかけてるのかしら)
壁にあるモニターにはパーティー会場のようにセッティングされたいくつもの机が映し出されており、中央にはタイムテーブルらしきものも見える。潜入という意味では大成功だが、こうやって捕まってしまっているのだからもしかするとデビルズに迷惑をかけているんじゃないか、と一抹の不安を覚える。けれどそれならばここで名誉を挽回しなければ。ヴィーナスは気合を入れ直した。まずは連絡を、と、小型通信機のイヤリングのスイッチを入れる。小さくピピっと音がしたので、恐らくは位置情報くらい伝わったものと思われる。インカムに触れられない今はこれが限界だ。ひとまずはこれで良い。
次は誰かがここに来るまでの間に何かできることがないかということだが……と徐々にハッキリとしてきた頭をフル回転させているうちに、背後で扉が開く音がして足音が、聞く限り、五、六人分。耳を澄ませると、こんなことを口走り始めた。
「商品がたったの六人とは」
「いえ! 先程一人増やしたので七で」
「一桁に変わり無いだろうが!」
「ひっ、」
「けどオーナー、新しいのは毛色が違うんで満足してもらえると思うんスよ」
「毛色が違うだぁ?」
「そうなんス!」
前振りもなくガッと髪を鷲掴みにされて起こされ、反射で痛いと叫びそうになるのを堪えつつ、ヴィーナスはされるがまま持ち上げられた。
「見てくだせぇ!」
「ほぉ……? 東洋か? たしかに珍しいな」
「でしょでしょ! オーナーがお持ち帰りしてもいいんですが」
ジロジロと無遠慮な視線が注がれるのに居心地が悪い。歪みそうになる表情をどうにか律して意識のないフリをするが、顎をぐいっと持ち上げられてフゥゥと葉巻の煙を浴びせられてはたまったものではなかった。
「東洋の女にしては……」
なんて言われながらつぅっと指が首筋から胸の谷間まで滑る。ぞわぞわと気持ち悪い感触がし、しかしそこで見つかったモノに相手が気を害したのか、突然葉巻を押し付けられ、ジンワリ肌を焼く火に痛みが広がる。
「これ見よがしのキスマークか……舐めてやがる!」
昨晩の情事の痕が見つかったらしかった。ガッと殴り捨てられて、身体が悲鳴をあげるがなんとか声は抑えたあたり及第点はもらえるかもしれないなど、こんな時でも考えるのはモーニングスターのことで、内心、苦笑が漏れた。
「おい! 準備はできてんのか! ヘマしたらゆるさねぇぞ!」
「ひっ、ひぃっ……!」
その言葉にバタバタと出て行く足音を聞きながら、気性が荒いボスは嫌われるのに、とゴチたヴィーナスは、逃げるなら競りのときしかないかと算段を立てたのであった。残るならキスマークの方が断然良かったのにな、とも思った。
その頃フロアに残っていた者たちは発信を受けていたのだが、ヴィーナスの身に何が起こったか確信したモーニングスターが静かにキレていたことは誰が知るところではない。会員入り口を抜けたところで、係員の首筋に手刀を入れて眠らせたあと、皆が乗り込んだ際に黒いオーラがたち登っていたとかいなかったとか。後にマモンが曰く「ルシファーのものに手を出すからそんなことになるんだよ」とのことであった。眠らされた者たちは身ぐるみを剥れて適当な倉庫に放り込まれ、代わりにデビルズの面々が配置についた。そんな一瞬のことには気づかない客は通常通り中へと案内されていく。本日も客入りは上々のようだ。
会員ゾーンの中でも着々と準備が進んでいた。昨日アプリーリスに話しかけてきた男なんかは、アプリーリスのことが大層気に入った様子で彼女を隣に引き下げて席に着いていた。それを凝視するカイロプタラもいたのだが、こちらは会員側に紛れているので本日はパリッとしたスーツ姿である。媚びを売るように近づいてきた他のバニーガールを軽くあしらいつつ、グラスを傾けていた、その時、ボーンと一つ古い鐘の音がし、次いでバチンと大きな音とともに灯りが全て落とされた。慣れているのか皆驚きもせず、パチパチと拍手が鳴り響く。するとパッとステージに明るい光がさして、煌びやかなマスクをつけた男が仰々しい礼をしながら迫り上がる台座から現れた。
「レディースアンドジェントル……ではありませんね! 紳士の皆様ご機嫌よう! 本日もやってまいりました、とっておきの時間です。我々上流階級という血筋のみに許されたお楽しみを心ゆくまでご堪能ください。オメルタ!」
その締めと同時に会員たちからも「オメルタ!」と声が上がった。
これを聞く限り、人身売買だけでなく、捉えた娘たちを利用したゲスなお遊びが行われているのは明白だったし、その想像の通り、彼女たちは身包みを剥がれた状態でマジックのネタにされるなど、ひどい有様だった。アプリーリスはショーと呼ばれたソレを楽しむ男どもを冷ややかな目で見つめていたが、今この時点で動き出しては元も子もないとグッと堪える。
しばらくして売買の時間となり、猿轡を嵌められた女性が次々競りに出され始めた。なるほど、見目麗しい女性ばかりで、高値で買い手が決まってゆく。そしてついにヴィーナスの番が回ってきた。
「それでは次の商品に移ります! こちらは東洋系の顔立ちかつ珍しい髪色をしています。胸はそれなり、といったところでしょうか」
下世話なコメントに会場が湧く。なんだかとても悔しくなったヴィーナスは下唇を噛んで涙を堪えた。自分が競りにかけられる日を想像したことなんてなかった。憧れのデビルズにせっかく入れてもらえたのに何もできないままで終わるのは情けない。けれどもうそうなる以外に道がないように思える。
「十万グリムからスタートしましょう! はい、五十! 百! 百二十!」
つけられる数値は自分よりも前に買われていった者たちよりも圧倒的に低い。これでは色仕掛けなんてできるわけもなかったんだ。私には体術もなければそういう女の武器ですら取り柄もない。やっぱりこんな仕事向いてなかったんだ、もっと普通に暮らしていればよかった。数年前デビルズに助けてもらった恩を返すどころか、これでは迷惑をかけている。そう、諦めかけたまさにそのときだった。大きな音がして、ついでカツンと質の良い革靴が音を立てた。
「一億」
「、っ……」
とんでもない額を提示した男の声は、聞き覚えのある低くて耳に心地よい音。
「いや、金額をつけるのはよくないな。金と交換できるような女じゃない」
(ボスッ……!)
「彼女は、俺のものだ。返してもらおう」
その一言と同時、飛び込んできたのはデビルズの皆だ。それぞれ得意とする武器でイキイキと暴れ回る。ゴールデンなどは先程まで使っていたカードで応戦しており、ヴィーナスは唖然とする。ショーに出されていた女性も買われていった女性たちも次々と保護され、今まで手をこまねいていたのが嘘のようだ。自分は両手を縛られて見ていることしかできないと、少しどころかだいぶ悔しい。しかしそれでも。
「ヴィーナス! 怪我はないか!」
一番に自分のもとに駆けつけてくれたモーニングスターに心を動かされないはずもなかった。
「っ……」
「どうした。どこか痛むのか?」
あまりにも優しい手つきに胸がつかえてうまく言葉が出ないヴィーナスは、猿轡と紐が解かれると同時にモーニングスターの首に縋るように抱きついた。
「おっと……」
「きてくれて、ありがとう……っ」
「……ふ……当たり前だろう。君のためならどこへでも行くさ」
キザすぎる二人を横目に、アプリーリスがげなーんとしながら敵を薙ぎ倒していたことを、彼らは知らない。
その後、アジトに帰ってからの余談ではあるが、当たり前のようにルシファーの部屋に連れ帰られたヴィーナスはソファーの上、ルシファーと肩が触れるほど近くに腰掛けながらグラスに注がれたデモナスを見つめていた。
「あのカジノはマモンの受け持ちになった。今後は闇競りなんて起こらないだろう」
「そう、……よかった……」
「君には申し訳ないことをした」
そう言いながら、自分が傾けていたグラスを机に置くとそのままルシファーの指が胸元を辿る。ンッ、と、あの時とは異なる甘い吐息が漏れたことで、ポッと染まるヴィーナスの頬。
「っ、ぁ、こ、このくらい、だいじょうぶ……」
「なにも大丈夫ではないだろう。俺がもう少し早く迎えにいけていれば……ん、っ、」
「ふぁ!? ぼ、ぼすっ!」
ちゅ、と火傷痕に唇を寄せたルシファーは、そのままコルセットをずらすと胸の頂にもキスを落とす。
「ァン……! だ、だめ、」
「だめじゃない。消毒だ」
「ゃ、ん……だって、そんな、そこにはなにもされてなっンゥ」
「もう黙るんだ、っんむ、」
「んん」
ぺろりと頂を舐め上げ、そのままヴィーナスの唇を塞ぎにかかったルシファーは、さながら俺以外のやつに身体を触らせてとご機嫌斜めというところか。ミッションだから仕方ないのにとは言い返せず、ルシファーを受け入れて喘ぐ夜はまだまだ長そうだった。
「ん……ぃった……」
瞼に薄く光を感じて、ヴィーナスの意識は覚醒した。頭を動かした瞬間鈍い痛みが走り、彼女は小さく呻き声を上げる。どうやら軽く脳震盪を起こしているみたいだと身体の位置はそのままに、きょろ、と視線を動かせば、見える範囲だけでも数人の女性が手を縛られて倒れているのが目に止まる。彼女らは皆コルセットだけしか身につけておらず、また、足首には番号が書かれたバンドが巻かれていた。そこから察するに、ここが人身売買の現場で間違いなさそうだ。
(どこからか連れてきた、っていうよりも、カジノに来た女性を連れ去っていたといったほうがいいみたい。……会員以外の客に着いてきてる女性を適当に見繕って裏へひっぱって、競りにでもかけてるのかしら)
壁にあるモニターにはパーティー会場のようにセッティングされたいくつもの机が映し出されており、中央にはタイムテーブルらしきものも見える。潜入という意味では大成功だが、こうやって捕まってしまっているのだからもしかするとデビルズに迷惑をかけているんじゃないか、と一抹の不安を覚える。けれどそれならばここで名誉を挽回しなければ。ヴィーナスは気合を入れ直した。まずは連絡を、と、小型通信機のイヤリングのスイッチを入れる。小さくピピっと音がしたので、恐らくは位置情報くらい伝わったものと思われる。インカムに触れられない今はこれが限界だ。ひとまずはこれで良い。
次は誰かがここに来るまでの間に何かできることがないかということだが……と徐々にハッキリとしてきた頭をフル回転させているうちに、背後で扉が開く音がして足音が、聞く限り、五、六人分。耳を澄ませると、こんなことを口走り始めた。
「商品がたったの六人とは」
「いえ! 先程一人増やしたので七で」
「一桁に変わり無いだろうが!」
「ひっ、」
「けどオーナー、新しいのは毛色が違うんで満足してもらえると思うんスよ」
「毛色が違うだぁ?」
「そうなんス!」
前振りもなくガッと髪を鷲掴みにされて起こされ、反射で痛いと叫びそうになるのを堪えつつ、ヴィーナスはされるがまま持ち上げられた。
「見てくだせぇ!」
「ほぉ……? 東洋か? たしかに珍しいな」
「でしょでしょ! オーナーがお持ち帰りしてもいいんですが」
ジロジロと無遠慮な視線が注がれるのに居心地が悪い。歪みそうになる表情をどうにか律して意識のないフリをするが、顎をぐいっと持ち上げられてフゥゥと葉巻の煙を浴びせられてはたまったものではなかった。
「東洋の女にしては……」
なんて言われながらつぅっと指が首筋から胸の谷間まで滑る。ぞわぞわと気持ち悪い感触がし、しかしそこで見つかったモノに相手が気を害したのか、突然葉巻を押し付けられ、ジンワリ肌を焼く火に痛みが広がる。
「これ見よがしのキスマークか……舐めてやがる!」
昨晩の情事の痕が見つかったらしかった。ガッと殴り捨てられて、身体が悲鳴をあげるがなんとか声は抑えたあたり及第点はもらえるかもしれないなど、こんな時でも考えるのはモーニングスターのことで、内心、苦笑が漏れた。
「おい! 準備はできてんのか! ヘマしたらゆるさねぇぞ!」
「ひっ、ひぃっ……!」
その言葉にバタバタと出て行く足音を聞きながら、気性が荒いボスは嫌われるのに、とゴチたヴィーナスは、逃げるなら競りのときしかないかと算段を立てたのであった。残るならキスマークの方が断然良かったのにな、とも思った。
その頃フロアに残っていた者たちは発信を受けていたのだが、ヴィーナスの身に何が起こったか確信したモーニングスターが静かにキレていたことは誰が知るところではない。会員入り口を抜けたところで、係員の首筋に手刀を入れて眠らせたあと、皆が乗り込んだ際に黒いオーラがたち登っていたとかいなかったとか。後にマモンが曰く「ルシファーのものに手を出すからそんなことになるんだよ」とのことであった。眠らされた者たちは身ぐるみを剥れて適当な倉庫に放り込まれ、代わりにデビルズの面々が配置についた。そんな一瞬のことには気づかない客は通常通り中へと案内されていく。本日も客入りは上々のようだ。
会員ゾーンの中でも着々と準備が進んでいた。昨日アプリーリスに話しかけてきた男なんかは、アプリーリスのことが大層気に入った様子で彼女を隣に引き下げて席に着いていた。それを凝視するカイロプタラもいたのだが、こちらは会員側に紛れているので本日はパリッとしたスーツ姿である。媚びを売るように近づいてきた他のバニーガールを軽くあしらいつつ、グラスを傾けていた、その時、ボーンと一つ古い鐘の音がし、次いでバチンと大きな音とともに灯りが全て落とされた。慣れているのか皆驚きもせず、パチパチと拍手が鳴り響く。するとパッとステージに明るい光がさして、煌びやかなマスクをつけた男が仰々しい礼をしながら迫り上がる台座から現れた。
「レディースアンドジェントル……ではありませんね! 紳士の皆様ご機嫌よう! 本日もやってまいりました、とっておきの時間です。我々上流階級という血筋のみに許されたお楽しみを心ゆくまでご堪能ください。オメルタ!」
その締めと同時に会員たちからも「オメルタ!」と声が上がった。
これを聞く限り、人身売買だけでなく、捉えた娘たちを利用したゲスなお遊びが行われているのは明白だったし、その想像の通り、彼女たちは身包みを剥がれた状態でマジックのネタにされるなど、ひどい有様だった。アプリーリスはショーと呼ばれたソレを楽しむ男どもを冷ややかな目で見つめていたが、今この時点で動き出しては元も子もないとグッと堪える。
しばらくして売買の時間となり、猿轡を嵌められた女性が次々競りに出され始めた。なるほど、見目麗しい女性ばかりで、高値で買い手が決まってゆく。そしてついにヴィーナスの番が回ってきた。
「それでは次の商品に移ります! こちらは東洋系の顔立ちかつ珍しい髪色をしています。胸はそれなり、といったところでしょうか」
下世話なコメントに会場が湧く。なんだかとても悔しくなったヴィーナスは下唇を噛んで涙を堪えた。自分が競りにかけられる日を想像したことなんてなかった。憧れのデビルズにせっかく入れてもらえたのに何もできないままで終わるのは情けない。けれどもうそうなる以外に道がないように思える。
「十万グリムからスタートしましょう! はい、五十! 百! 百二十!」
つけられる数値は自分よりも前に買われていった者たちよりも圧倒的に低い。これでは色仕掛けなんてできるわけもなかったんだ。私には体術もなければそういう女の武器ですら取り柄もない。やっぱりこんな仕事向いてなかったんだ、もっと普通に暮らしていればよかった。数年前デビルズに助けてもらった恩を返すどころか、これでは迷惑をかけている。そう、諦めかけたまさにそのときだった。大きな音がして、ついでカツンと質の良い革靴が音を立てた。
「一億」
「、っ……」
とんでもない額を提示した男の声は、聞き覚えのある低くて耳に心地よい音。
「いや、金額をつけるのはよくないな。金と交換できるような女じゃない」
(ボスッ……!)
「彼女は、俺のものだ。返してもらおう」
その一言と同時、飛び込んできたのはデビルズの皆だ。それぞれ得意とする武器でイキイキと暴れ回る。ゴールデンなどは先程まで使っていたカードで応戦しており、ヴィーナスは唖然とする。ショーに出されていた女性も買われていった女性たちも次々と保護され、今まで手をこまねいていたのが嘘のようだ。自分は両手を縛られて見ていることしかできないと、少しどころかだいぶ悔しい。しかしそれでも。
「ヴィーナス! 怪我はないか!」
一番に自分のもとに駆けつけてくれたモーニングスターに心を動かされないはずもなかった。
「っ……」
「どうした。どこか痛むのか?」
あまりにも優しい手つきに胸がつかえてうまく言葉が出ないヴィーナスは、猿轡と紐が解かれると同時にモーニングスターの首に縋るように抱きついた。
「おっと……」
「きてくれて、ありがとう……っ」
「……ふ……当たり前だろう。君のためならどこへでも行くさ」
キザすぎる二人を横目に、アプリーリスがげなーんとしながら敵を薙ぎ倒していたことを、彼らは知らない。
その後、アジトに帰ってからの余談ではあるが、当たり前のようにルシファーの部屋に連れ帰られたヴィーナスはソファーの上、ルシファーと肩が触れるほど近くに腰掛けながらグラスに注がれたデモナスを見つめていた。
「あのカジノはマモンの受け持ちになった。今後は闇競りなんて起こらないだろう」
「そう、……よかった……」
「君には申し訳ないことをした」
そう言いながら、自分が傾けていたグラスを机に置くとそのままルシファーの指が胸元を辿る。ンッ、と、あの時とは異なる甘い吐息が漏れたことで、ポッと染まるヴィーナスの頬。
「っ、ぁ、こ、このくらい、だいじょうぶ……」
「なにも大丈夫ではないだろう。俺がもう少し早く迎えにいけていれば……ん、っ、」
「ふぁ!? ぼ、ぼすっ!」
ちゅ、と火傷痕に唇を寄せたルシファーは、そのままコルセットをずらすと胸の頂にもキスを落とす。
「ァン……! だ、だめ、」
「だめじゃない。消毒だ」
「ゃ、ん……だって、そんな、そこにはなにもされてなっンゥ」
「もう黙るんだ、っんむ、」
「んん」
ぺろりと頂を舐め上げ、そのままヴィーナスの唇を塞ぎにかかったルシファーは、さながら俺以外のやつに身体を触らせてとご機嫌斜めというところか。ミッションだから仕方ないのにとは言い返せず、ルシファーを受け入れて喘ぐ夜はまだまだ長そうだった。